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「ポストコロナの新入社員を、誰が助けるのか」~世代間のすれ違う思いと接点③

 コロナ禍、あしかけ4年。
 “青春らしさ”をなにも味わうことなく、
 ここまで来てしまった若者たちがいる。
 彼らに手を差し伸べることは中堅・ベテランの責務だ。
という話。(写真:NHK)

【教育とは、お節介なもの】

 昔、小学校1~2年生の「生活科」というのが分からなくて、主事に直接たずねたことがあります。
「生活科って、あれ何ですか?」
 不躾な質問にも関わらず主事はこともなげに、
「あ、あれね、保育のやり直しなんです」
 学習指導要領には教科の目標として、
「具体的な活動や体験を通して,身近な生活に関わる見方・考え方を生かし,自立し生活を豊かにしていくための資質・能力を次のとおり育成することを目指す」
として三つほど例を上げていますが、「保育のやり直し」以上に分かり易いものではありません。
 季節ごと花や虫や小動物と遊んだり、自然の中で友だちどうし戯れたり、手近な材料で工作したり秘密基地に籠ったり――以前は小学校入学までに自然と経験できたことが今はできない、だから学校が意図的に体験させてあげよう、それが生活科です。
 お節介なことですね。しかし教育は、特に日本の教育は、昔からお節介だと相場が決まっているのです――と「そんなお節介な・・・」という批判を前もって封じておいて・・・。

【ポストコロナの新入社員】

 今年、2023年4月の新入社員は4大卒の場合、大部分が2019年度大学入学生です。高卒だと2020年の高校入学生ということになります。新型コロナ感染は正式な名前がコビッド19(COVID19:略称ではない)、「2019年に流行ったコロナウイルス感染症」という意味で、日本に入って来たのは翌2020年2月でしたから、4大生は学生生活の大部分をコロナ禍の中で過ごし、高卒生は中学校の卒業式も高校の入学式も満足にしてもらえず、3年間、マスク越しにしか友だちの顔を見ずに過ごしてきた子たちです。そのたいへんさは20年卒生だって21年卒だって、22年の卒業生だって同じでしょう。
 就職に関しても、彼らは先輩たちが大歓迎の中を勝ち誇ったように入社して、「エイ、エイ、オー」とばかりに社会人生活を始めたのとは、まったく違ったスタートを切ったのです。

 私たちはこの子たち(年寄りの元教師はこういう言い方になります)のことを、もう少し考えてやる必要があるのかもしれません。なぜなら学生時代、新入生歓迎式も部活・サークルの勧誘も経験することなく、文化祭や学園祭の狂乱も、バカみたいに飲んで朝まで語り尽くすとか、徹夜で人生を語るとか、あるいはアルバイト三昧、旅行三昧の日々を送るとか、合コンだとか合宿だとか、そういう青臭い青春を、まったく経験しなかったか、極端に抑えつけられたたま高校生活・学生生活を終えてしまった、そういう子たちなのです。

 しかし一方、彼らを受け入れる社会の方は、コロナ明け、自分たちのあり方が定まらず、十分に気を配ってやるだけの余裕がありません。コロナ禍で自粛したものなくしたものを、どう扱ったらよいのか、どう扱えるのか、そのまま復活した方がいいのか、これを奇貨として永遠に葬り去った方がいいのか、そういうことがわからない――。
 新宿三井ビルディングののど自慢大会は、その典型的な例でした。大会自体は4年ぶりに開催することは決まったものの、各企業が参加するかどうかは別の問題なのです。

【若者を恐れず、若者に手を差し伸べる】

 私たちはさほど若者を恐れる必要はなかったのかもしれません。
 のど自慢大会にチームで参加したベネッセ・コーポレーションの通称“まりりん”も、こんなふうに言っています。
「上の人たちの世代が《会社はチームとして一つになれると思っている》《めちゃ信じている》というのを本気で言っているのを聞いて、自分の力だけでは見ることのできなかった景色を見られるのは楽しいだろうな(と思いました)」
 IT企業の陰キャラ木村さんも、
「私たちが入ったときは“飲みニュケーション”ですらはばかられたご時世だったので、そこを何か追いかけていく、というか、先輩たちが今までこうやって楽しんできた、というのを(のど自慢で)追体験していく感じがしています」    
 若者たちは十分に、大人の世界に興味関心の目を向けているのです。

 若者たちは必ずしも上司と付き合うのが嫌なわけではありません。上司から気軽に話を聞きたいと思っている社員もいれば、奢ってくれるなら行ってもいいくらいの軽い気持ちでいる人だっています。
 先輩たちが生き生きと働く様子を見ながら、その動機付けや活力の源にどういう秘密があるか、知ってみたいという人もいれば、先輩たちと同じ空気を吸ってみたい、学生時代にやり残したことを社会人となってからも取り戻したい、そんなふうに考えている人だっているに違いありません。もちろん企業対抗のど自慢大会みたいな行事は「ばからしくて」という人もいますが――。
 
 企業にはそれぞれが持つ組織風土というものがあります。それを伝えて行くのは先輩社員の務めです。確かに今日、企業風土や企業文化を強制することはできませんし、うっかり手を出してパワハラのそしりを受ければこちらが社会人として破滅するような恐ろしさもあります。しかし誰かがやらなければ、若い人たちには寄る辺がなくなってしまいます。
 ポストコロナは手探りです。ただしそんなに大きな変革はできないはずです。だとしたら中堅・ベテランも恐れず、若い人たちの指導を行っていくしかありません。そこには手出しされることを嫌う若者もいますが、声のかかるのを待っている若者だっているのです。昨日も申し上げましたが、それが多様化の時代だからです。
 余計なお世話だと気分を悪くする若者もいるかもしれませんが、教育というのは常にそういうものです。される側が望むことをやっていたのでは教育になりません。

(この稿、続く)