カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「“ショウガナイ”シチュエーション、ハイ!ワカリマシタ、ガンバリマス」~ラミレス元監督、日本での成功の秘訣を語る①

 元DeNA監督のラミレスは言う、
 日本で成功するためには、三つのことに適応する必要がある。
 「ショウガナイ」「ハイ!ワカリマシタ」「ガンバリマス」
 しかしこれは日本人にも当てはまることなのだ。
 という話。
(写真:フォトAC)

【ラミちゃん、日本での成功の秘訣を語る】

 9人家族がまた一気に夫婦二人の生活に戻り、やはりちょっとした孫ロス・大家族ロスです。
 私は友だちも多い方ではなく、退職後は職場の関係を引きずることもなかったので人付き合いは簡素なもの。仕方ないので賑やかだった5日間をときどき振り返りながら、次の機会を待つことにしましょう。

 さて、そんな思いにかられながらあれこれネットニュースを巡っていたら、昨日のYahooニュースに『ラミレス氏 日本で学んだ3つの精神とは 「外国人にとって、この3つに適応するのは簡単ではない」』という興味深い記事が出ていました。元記事は5月5日のスポニチなのですが、これも同日のNHKEテレ「スイッチインタビュー」から引用されたものでした。ここに出てくるラミレス氏とは、20年ほど前に来日してヤクルト・巨人・DeNAの三つの球団でプレーし、引退後はDeNAの監督として球団の復活に力を尽くしたあの「ラミちゃん」のことです。

 記事で私が魅かれたのは次の部分です。
(ラミレス氏は)日本に適応するために「学んだことが3つある」とした。それは「“ショウガナイ”シチュエーション」「ハイ!ワカリマシタ」「ガンバリマス」の3つだった。
 「外国人にとって、この3つに適応するのは簡単ではない」というラミレス氏は「日本で成功したいと思うのであれば、自分が日本にアジャストしないと。日本がアジャストはしてくれない」と振り返った。
 何か大切なことを言っていそうで、けれど何なのか分からないので「NHKプラス」で「スイッチインタビュー」も見たのですが、番組の方にもそれ以上の話はありません。しかたがないのでそこからまたあちこち検索です。

【日本で成功するためには】

 その結果わかったのは、ラミレスの「“ショウガナイ”シチュエーション」は昔からけっこう有名な話で、ネット上でも繰り返し扱われてきたものだということです。例えば2017年10月23日の文春オンラインにはラミレスのこんな言葉が載っています。
「外国人選手にとって、どうしても受け入れ難いことは必ずあります。それを変えようとしても、変えることは難しい。だから、《ショウガナイ》と気持ちを切り替え、《ワカリマシタ》と、その事実を受け入れ、その上で《ガンバリマス》と前に進む。それを受け入れられる選手が、日本で成功するのだと思います」

 もっと面倒くさい話かと思いましたが案外スマートでした。「気持ちを切り替え」て「事実を受け入れ」、「その上で前進する」というという一連の流れを言った、それだけのものです。
 しかしおそらく、本能的につかんだと思われる三つの日本語、「しょうがない」「分かりました」「がんばります」は、日本の文化にとって非常に重要な意味を持つものであると同時に、日本人を理解するうえで、またこの国で何かを学ぶうえで、非常に重要なキーワードであるのは間違いないのです。

【ショウガナイ】

 実は十数年前、日本の「しょうがない」が外国の人々に強い印象を残した出来事がありました。東日本大震災です。世界史上類を見ない大災害の被災地で、人々がしばしばこの言葉を口にしていたからです。
 
 「しょうがない」は「諦め」でありながら決してうしろ向きのものではなく、絶望の言葉でもありません。
 「しょうがない」と呟いた人が直後に自殺するとか自暴自棄になるとかいったことは考えにくく、次の行動として予想できるのは、被災地なら災害の後片付けをし、事故なり事後処理をして、やがて新しい人生の第一歩を踏み出すというものです。
 ラミレスの言う通り「気持ちを切り替える」言葉に鉢がありませんが、どん底の場所でもすべてを振り切って前向きになろうとする日本人の、魔法の言葉とも言えます。台風や地震、雷や土砂崩れ、川の氾濫などによって根こそぎ財産を奪われる経験を、何度も繰り返してきた私たちならではの感じ方と言えるのかもしれません。

【ワカリマシタ。ガンバリマス】

 文春オンラインの記事の流れからすると、ラミレスがここで言う「ワカリマシタ」は決して「理解した」「納得した」という意味ではありません。なにしろ、
外国人選手にとって、どうしても受け入れ難いことは必ずあります。それを変えようとしても、変えることは難しい
だから「しょうがない」と諦めたうえで、「ワカリマシタ」と受け入れているわけで、ほんとうは分かってなどいないのです。
 しかし分からないことも分かったことにして「がんばります」と行動に移さなければ、この国では何も始まらない、成功できないとラミレスは言うのです。そこには教育の世界でよく言われる、
「子どもたちには納得が必要です。納得しさえすれば、何でもするものです」
とはまったく別の考え方があります。ほんとうに重要なものは言葉では表現できないというのです。

(この稿、続く)