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「大人が使う“しょうがない”、子どもが言うべき“はい、わかりました”“がんばります”」~ラミレス元監督、日本での成功の秘訣を語る②

 ラミレスが言う、日本で成功するための三つのこと、
 「ショウガナイ」「ハイ!ワカリマシタ」「ガンバリマス」
 最初のひとつは大人が、あとの二つは子どもが使うべき言葉だ。
 それは学びの場に絶対必要な三つの原理なのだ。
 という話。(写真:フォトAC)

【教育現場では、大人の使う”ショウガナイ“】

 日本人の使う「しょうがない」の価値は十分に分かっていますが、使い方はいろいろです。子育てや教育の現場でこれを使うのはたいてい大人、親か教師が方向転換を図るときです。

 親だったら子どもが思い切り散らかした部屋を見て「(自主的に片付けなんかできっこないし)しょうがない、手伝って一緒に片付けるか」といったり、忘れ物に気づいて「(まだそこまで十分に気を使える子じゃないか、)しょうがない、届けてやろう」といったふうに使います。
 
 教師も同じで、課題が難しすぎて達成できなかったり、何度も同じ過ちが繰り返されたりすると、
「う、もう~」
と唸っておいて
「牛になりそうだぜ!」
と呟いてから、
“しょうがない、方向転換してやろう”
ということになります。
「しょうがない」は基本的に前向きな言葉ですが、失望の匂いを嗅ぎ取られると子どもも傷つきますからわざとふざけて、
「しょうがないなあ、のび太君」
などとドラえもんの真似をして言うことも再三でした。
 期待が大きすぎた、課題が難しすぎるというのは子どもの頑張りが足りない場合もあれば、こちらの見通しが甘かったということでもありますから、高飛車に出るべきではないのです。

【子どもが使うべき「わかりました」「がんばります」】

 一方、「わかりました」「がんばります」の方は子どもの使う言葉です。
 昨日も申し上げましたが、教育の世界――正確に言えば教育評論の世界ではよく、
「子どもたちには納得が必要です。納得しさえすれば、子どもは何でもするものです」
という言い方がされます。しかし私はそれに対して強い違和感を持ち続けています。
 子どもには、納得などしなくてもやらなくてはならないことがたくさんありますし、世の中、必ずしも納得できることばかりではないからです、というか、納得できないことの方が圧倒的に多い。
 
 例えば「何のために勉強するのか」とか、「なぜ嫌いなものでも食べなくてはいけないのか」とか、そもそも「何のために生まれて来たのか」とか「なぜ生きなければいけないのか」とか、そうした問にいちいち納得できる答えが見つからなければ始められない、真剣には立ち向かえない、ということになったらどうします?
 
 高校レベルの難しい数学が自分にとってどんな役に立つのか、その答えを知るにはこのあと20~30年はかかるのかもしれません。投資コンサルティングの仕事に就いていて、ある日突然、今の自分に統計学や確率の知識が必要だと感じる人もいるかもしれませんし、心理学の勉強に統計学が重く被さって初めて、自分にとっての数学の必要性に気づく人もいるかもしれません。
 40~50歳くらいになればだいたい人生の幅も決まってきますが、それまでは何が起こるか分からないのです。国語が不要だ、化学が不要だなんて誰が決められますか。

【一度でもやっておくことが大事、まずやってみることが大切】

 コロナ禍という誰も想像しなかった事態に遭遇して紙マスクが手に入らず、しかしとりあえず布マスクで代用できると気づいた時、日本国内で多くの人々がミシンを買いに走りました。2020年の4月~7月ごろのことです。
 別の理由から家庭用ミシン数台が必要になった私は、どこにも在庫がないと知って愕然としたものです。同時期、マスクの耳掛け用のゴムすら売り切れになっていました。
 買った人のほとんども、小中学校で学んだミシンや裁縫がこんなところで役に立つなどと想像もしなかったことでしょう。しかし一度でも経験があれば、またやってみようとするハードルは低くなるのです。
 
 潮干狩りだとか飯盒炊爨だとか、山登りだとかは、みんなそうです。子ども時代に学んだこと・経験したことはどこで役に立つか分かりません。
 だから、大人から指示されたことには、最初は、「はい、わかりました」と言わなくてはならないのです。わかってもわからなくても、とりあえず「わかりました」と言って「がんばります」と重ね、やったあとで文句があるなら文句を言えばいい。
 いつまでもひたすら黙っていうことを聞けというのではありません。まず、聞きなさい、やってみなさい、その上で文句があれば聞きましょう。そこから新しい道が開ける――。
 それがラミレスの言う「日本で成功するための方法」です。
 私にはよくわかります。