カフェは私のウサギです
7年前に我が家にやってきました
その小さな生き物が
弱って 死ぬまでの日々(カフェ:4歳ごろ)
【ウサギが我が家に来た経緯】
飼いウサギのカフェが月に向かいました。
ピーター・ラビットのモデルとなったネザーランド・ドワーフのオスで、9年と1カ月9日の命でした。
ウサギの寿命は6~7年とも7~8年とも言いますが、もちろん半数はそれ以上に生きるので、ひとの言うに「10年を目指しましょう」ということらしく、ですからもう半年くらいは頑張ってほしかったかなとも思います。
カフェが最初にやってきたのは私の家ではなく、娘のシーナのところでした。
シーナは自ら「環境見知り」というように、人とはうまくやっていけるのに環境にはなかなか馴染めず、特に大学への進学は学校の切り替えとともに初めての都会暮らしでずいぶん寂しい想いもし、不適応感も強かったようでした。
様々なことがうまくいかず鬱々と過ごしていたある日、ペットショップで生まれたばかりのネザーランド・ドワーフを見つけ、どうしても欲しくなって私に頼んだのです。
決して安い買い物ではありませんでしたが、めったにものを欲しがる子ではないので私は二つ返事でお金を出しました。
カフェはシーナが最も寂しい時にそばで慰めてくれた友達なのです。
シーナのところで二年間暮らし、そのあとカフェは私の家に来ます。シーナが就職とともに引っ越したマンションは動物が飼えず、就職すれば忙しくて世話も十分にできそうになかったからです。
私は正直言って動物なんて少しも好きではありません。というか子どものころ飼っていた犬が年老いて、気づいたら腰のあたりにハエが卵を産み付けていて、ウジに食い殺されるように死んでいったことが心の傷になっているのです。犬は私の腕の中で長い時間をかけて死んでいきました。どんな小さな生き物でも死なれるのはかないません。
息子のアキュラが犬を欲しがった時も、だからまったく取り合わなかったのですが、シーナが困っている以上引き受けざるを得ません。こうしてカフェは私の家の住人となりました。
ところが人生とはままならないものです。
カフェが我が家にきて半年もしないうちに、今度は妻が、事情があって二羽のミニウサギを連れて来たのです。 “動物なんか好きじゃない私”が、三羽のウサギの面倒をみることになる――。
新しく来たのはメスとオスの兄妹で、私はそれぞれにミルクとココアという名をつけました。兄(ほんとに兄かな?)の方がやや色が薄かったからです。ココアの方は昨年、6歳で病気のために死にました。
【カフェ、弱る】
カフェの様子がおかしくなったのは昨年の春からです。
純粋種で野生味が強く、抱かれるのが大嫌いでいったん離すと捕まえるのが容易ではなかったカフェが、3歳になったばかりのヨチヨチ歩きの孫に捕まるほどに、動けなくなってしまったのです。
今年の春にはさらに弱って、畑の端の草むらに置いたらたまたまそこが斜面になっていて、横ざまに転んでしまったのです。特に後ろの左足の踏ん張りが利かなくなったみたいでした。そこから体勢を立て直して走り出すも2~3mがせいぜい、あとはうずくまって近くの雑草などを食べています。そんなことが半年余りも続きました。
10月の誕生日の前夜、ウサギを置いた玄関の方がやけにうるさいので様子を見に行くと、カフェは人間で言う“横すわり”みたいな形で下半身を横にして、そこからなんとか立とうと暴れていました。後ろの右足一本で立とうとするのでプラスチックのスノコで足が滑り、立てない。今までにないことなので狼狽えていたのかもしれません。何度も何度も立とうとしてそのたびに失敗しながら、体は時計回りにぐるぐる回っていきます。
子どものころ飼っていた犬は獣医に電話したら、“腰の抜けた犬は間もなく死ぬから連れて来なくていいですよ”と言われて、そのことを覚えていたので、もうカフェは2~3日中に死ぬのだと覚悟しました。ただし本人(本兎?)には自覚がないみたいでいつまでも暴れています。
そこでスノコの上にトイレシートを置いてやるとようやく立つことができました。
【糞にまみれる】
人間の場合も、初めての危機では死なないことが多いようです。
生命力がぐんと落ちて死が目の前にきて、それから持ち直ししてしばらく小康状態が続き、再び危機が訪れて死の淵に立ち、再び持ち直す――そんな繰り返しの中で、2回目に死ぬこともあれば3回目、4回目と持ち直す場合もあって、どの回で死ぬかは運命が決める、といった感じらしいのです。
カフェの場合も、こうして一回目は持ち直しました。トイレシートのおかげで滑って倒れることもなくなり、庭に出してやってもなんとか普通に歩けるようになりました。
ただしもともとトイレが下手くそでペット用トイレもあまり使わず、スノコの間からたくさんの糞を受け皿に落としていたのがすべてシートの上にたまってしまい、それを踏むので足や肛門の周辺、特にしっぽの裏にべったりとくっついて固まってしまいます。
毛に絡みついて硬くなったウサギの糞は頑固で、なかなか取れるものではありません。本来ウサギは暇さえあれば体をなめてきれいにしている生き物ですが、カフェはもうそういう力もなくなってしまったのか、大きな糞の塊を引きずってそのために歩きにくくなった様子もありました。
それを私が手で取ってやるのですが、先ほども言ったように抱かれるのが大嫌いな子なので、除去も容易ではありません。結局ケージの左半分だけにシートを置き、もう半分はむき出しのスノコにしたら問題はずいぶんと楽になりました。
そういえば昨年死んだココアも、最後は下(しも)の汚いウサギで死んでいったものです。
(この稿、続く)