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「老後の心配は貧困だけじゃない」~財産は残せばいいというものでもない①

 老後を年金だけでは生きてはいけない、最低2000万円は必要だという。
 しかし普通に準備すれば2000万円はそれほど大きな額でもない。
 個人の積み上げていける財産は意外と多いものだ。
 問題はむしろムダに残してしまうことかもしれない。
 という話。(写真:フォトAC)

【老後のための2000万円、実はたいしたことはない(かもしれない)】 

 昨日のスポーツくじで6億円当てた男性が、その後も堅実に生き、高級外車や高級時計を買ったりタワマンを購入したりしてもなお投資で5000万円の上積みをし、現在の悩みは「6億円が目減りすることには痛みがある」「死ぬときは財産でゼロであってほしい」という矛盾とどう付き合っていくかだけだというお話の続きです。
 おそらくこの「財産は残したくないが、目減りは辛い」というのは多くの高齢者に共通するものです。

 しばらく前に、年金だけでは死ぬまで生活できない、最低2000万円の預金を用意しておく必要があるという話があって、ずいぶん話題になったことがあります。若い人たちには「2000万円もかよ」という話だと思いますが、総務局統計課の発表によると現在の高齢者の貯蓄現在高は1世帯当たり2324万円、中央値は1555万円 。これは65歳時点で用意された貯蓄ではなく、すでに多くを取り崩した人も含めての平均値・中央値ですから、まずまず2000万円はクリアできているといったところでしょう。
 しかもこの人たちは無収入ではなく、平均年収で312.6万円、可処分所得で218.5万円もあるのです。現役でバリバリ働いていた時と同じように消費すればすぐに足りなくなる額ですが、生活レベルをグンと下げて、慎ましく暮らす分には少なすぎる額ではありません。実際に子どもが自立してしまった「夫婦二人だけの生活」は、放っておいても慎ましくなるものです。

【老後は放っておいても自然に慎ましやか】

 そもそも2000万円不足説の根拠は高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)の平均月収(社会保障等)が20万9198円なのに対して平均支出が26万3718円であるところから割り出されたものです。その差約5万円の30年分がおよそ2000万円なのです。
 しかし私のところのように持ち家なので家賃も払わず、外食も年に数回するだけ、旅行もギャンブルも一切しないという家庭では月に26万円なんて使ったりしません。80歳を過ぎればさらに支出は減るでしょう。

 日本全国を見渡すとそんな家族は意外と多いようで、そのため「経済的な暮らし向きについて心配がない」とする65歳以上の人は68.5%と、かなりいい数字になります。もちろん困窮しておられる方や不安な方も3割以上いるので安心しきることはできませんが、2000万円の貯蓄目標は高すぎるものでものでもないし、老後は思ったほど恐ろしいものでもないのです。それどころか一部には、財産が残ってしまうことの方を心配した方がいい人だっています。
*2000万円の根拠については「金融審議会 市場ワーキンググループ報告書『高齢社会における資産形成・管理』」(令和元年)。その他の数値は「令和4年版 高齢社会白書(内閣府)」による。

【もしかしたら財産は案外多いのかもしれない】

 先ほど「高齢者の平均貯蓄額は現在高で2324万円」と書きましたが、高齢者の中には4000万円以上貯蓄を持つ人がなんと17.3%もいるのです。まずこの人たちが「財産が残ってしまう問題」を考えなくてはなりません。

 最初の問題は相続税です。
 2017年まで相続税基礎控除額は(5000万円+法定相続人数×1000万円)でした。相続人が妻と子2人の計3人だった場合は、8000万円。つまり正味の遺産額が8000万円を越えない限りは相続税の対象にならなかったのです。ところが2017年の改正によって現在は(3000万円+法定相続人数×600万円)、つまり法定相続人が3人の場合、4800万円を越えた額に10%、15%といった相続税がかかるのです。

 4800万円と言えばとんでもなく大きな金額に思えますが、意外に目の前かもしれません。「いやいやウチはそんなにないから大丈夫」という人たちももう一度自分の周辺を見なおしてみましょう。貯蓄は4000万円に遠く及ばなくても、今後入る予定の遺産とかはありませんか? 株式や投資信託といった証券は持っていないでしょうか? 不動産はありませんか? 
 
 不動産と言えば私の家は築30年に近い、田舎では平均規模の一戸建てです。過疎化のために周辺には空き家ばかりが目立ち、広告を見ると売りに出してもほんとうに売れるかどうかマユツバなのですが、相続税の対象評価だと土地だけでも1千万円にもなってしまいます。家屋の方は販売物件としては価値ゼロ、壊した方が土地は高く売れるとさえ言われているのに相続税対象としての評価は260万円にもなっています。それが遺産として加算されます。
 
 私の家で貴金属と言えば歯に被せてある銀歯(金銀パラジウム)だけ、美術品もありませんがある家にはあるはずです。もちろん相続税の対象です。
 ひとつ250万円の宝石だとか1枚数十万円の絵画10点なんて、持っていないでしょうね? そうやって計算していくと、4800万円は目の前かもしれません。
 法定相続人が妻ひとりだったりすると基礎控除額は3600万円しかありませんから、貯蓄額が4000万円以上もある17.3%の高齢者は、貯蓄だけで相続税を払わされることになります。
 
 ただし、相続税なんて問題のほんの微々たる一部です。
 (この稿、続く)