カイト・カフェ

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「財産はあってもなくても、いざという日のためにやっておくこと」~財産は残せばいいというものでもない③

 自分が死んだあとで、子どもたちが遺産を巡って不仲になるのは困る。
 自分が死んだあとで、財産がどこにあるのか分からないのも困る。
 自分が稼いだ金が手つかずのまま残るのも、早く底をつくのも困る。
 老人の悩みは尽きないが、ここに名案がある。
という話。(写真:フォトAC)

【定年を迎えたら、そろそろ遺言状を書く】

 子どものいない夫婦で、夫が死んだらとたんに今まで付き合いのなかった夫の兄弟姉妹が現れて、遺産の半分も持って行ってしまった、というような事態を防ぐ方法は簡単です。遺言状を書いておけばいいのです。
 自筆で、
「全財産を妻に譲る」
と書き、日付を入れて署名捺印。それだけでいいようです。さらに財産目録を加えておけば間違いありません(目録はパソコンでも可)。保管場所はどこでもいいのですが、現在は法務局で保管してくれるそうですから今度確認してみましょう。

 故人の兄弟姉妹ではなく、実の息子や娘たちの間での血みどろの相続争いを防ぐにも、遺言状は一定の効果を発揮するはずです。ただし内容がある程度の妥当性をもつものでないと、かえって災いのタネです。

 開いてみたら誰も知らない愛人の名前と「全財産を譲る」という記述があって問題が発生する、というのは推理小説でときどき出てくるパターンです。家族がいるのに「全財産を愛犬に譲る」というのもやめた方がいいでしょう。死んだ後で神様が許してくれません、たぶん。
 もっとも相続者が愛人であろうと愛犬であろうと、直系の親族と配偶者には“遺留分”という一定の認められた相続権利があり、それを冒してまでも全財産をそれらに渡すことはできないようです(例えば配偶者と子が相続人の場合、配偶者は遺産の4分の1、子も全員合わせて4分の1)。

【デジタル遺産の整理は急務】

 故人の預貯金がどこにどれくらいあるか分からない、有価証券があるかもしれないと言ったときは、心当たりの銀行・郵便局に片っぱし照会し、証券会社などからの手紙などを頼りに探しまくるということができますが、困るのがデジタル遺産です。とりあえずパソコンが開けない、スマホが開けないではなにも調べることができません。
 家人の知らないインターネット銀行口座があって、そこから常時ネット上の課金が引き出されているとなると、貯金は減る一方です。
 
 その他ちょっと考えただけでもネット銀行以外に、スマホ決済・証券口座・FX口座・暗号資産・ポイントなど、お金が入っていそうな場所はたくさんあります。逆に放っておくと支払いが止まらないものとして、サブスク・オンラインゲーム・有料クラウドなども、早めに気づいて停止すべきです。
 思い出としてブログやSNSの記録をどうするか、クラウド上の写真や動画、データをどうするかも、誰かに知らせておくべきでしょう。それらのいちいちについて、IDやパスワードが分かるようにしておかなくてはなりません。
 
 私は物覚えの悪いこともあって、この点については早くから整理してあり、パソコンのパスワードを記入してある場所は家人に教え、その他のIDやパスワード、課金の有無などはエクセル上に記録してUSBメモリに入れてあります。そのUSBも特別な場所にしまって家人に教えてあります。

【一番いいのは使い切ること・・・だけど】

 若い人の多くは自分の残す遺産などということを本気で考えませんから、
「自分が稼いだ分は、全部自分で使って死ぬ」
とか平気で言いますが、私のようにそれなりの歳になると、その厄介さに頭がくらくらするほどです。
 一番の問題は、当然「いつ死ぬか分からない」ということ。事故や病気で早死にして「全部自分で使って」の遥か手前で終わってしまうこともあれば、逆に予定よりも長く生き過ぎてしまい、まったく足りなくなってなお生きている、ということも考えられないわけではありません。どちらにしても目標未遂。ちょうどうまくいくなんて自殺でもしない限りありえないのです。

 では一般的に、日本人はどのくらいの財産を残して死んでしまうのかというと、これがよく分からない。
 ある調査では平均6,140万円、中央値3,450万円だと言います(*1)。平均値が中央値の2倍近くになっているのは何十億円も残した人たちが引き上げているためです。
 しかし法律では最低3,600万円、配偶者+子二人の標準家庭で4,800万円の基礎控除を越えると相続税を支払わなくてはならないのに、実際に支払っているのはわずか8%程度。中央値の3,450万円から考えると少なすぎる気もします。多くの家が枠内に収まるように節税しているか、調査自体が不正確なのかもしれません。
 ただ、前にも言ったように60歳以上の高齢者の貯蓄現在額が1555万円(中央値)で、遺産はその上に不動産などを加えて考えますから、予定外に多くの財産を残して死ぬというのは、どうやら事実のようなのです。

 しかしそれにしても自分で稼いだものを使い残して死ぬのは悔しいし、遺産となって死んだ後で感謝されてもうれしくない、そういう人は少なくないでしょう。
 ――私もそういう人間ですが、実はしばらく前、自分にピッタリの方法を発見したのです。それは残すのではなく、あげるというやり方です。

【死んで感謝されるより、生きているうちに感謝されたい】

 退職金もほとんど手つかずですし質素な生活も改められない、結婚以来の共稼ぎで妻にも多少の財産がある。そうなると手持ちの財産の大部分は将来、子どもたちへの遺産になってしまうわけです。だったら死んでから感謝されるのではなく、今のうちに渡して感謝された方がどれほどいいか分かりません。
 一気に数百万円、あるいは1千万円を越える(人によっては億を越える)金を渡して、子どもたちが身を持ち崩さないか――そうした心配をする人もいるかもしれませんが、大丈夫。日本の税制では1年間に110万円を越える贈与をした場合は、とんでもない贈与税がかかる仕組みになっています。ですから遺産になってしまいそうな貯金を、50万円、100万円と何年もかけて小出しに渡せばいいのです。
 贈与ですから気まぐれでかまいません。これは早く死にそうだと思ったら110万円の限度額いっぱいを渡し、「ヤバイ、長生きしそうだ」と思ったらやめればいいだけのことです。

 私は二人の子のうち、弟の方を大学院に進学させて、姉より二年長く学費と生活費の面倒を見ました。弟が希望し、姉は希望しなかったからです。そこに教育資金の差がありますから、当面この方法で姉の不足分を補おうと考え、実際に行っています。