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「老婆心ながら現役のひとたちへのふたつのアドバイス」~次の20年をどう生きてどう死ぬのか③

 老後をどこでどう過ごすか、在宅かホームか。
 どちらにしても選択肢の先にはグレードがある。
 資金のある人、少ない人。質素な人から豪奢な人まで、
 自分の老後も親の老後も、目の隅で捉えておくべきだ。
という話。(写真:フォトAC)

【令和の年寄りの懐事情=私たちは金持ちか?】

 昨日は母が面倒を見てもらっているケア・マネージャーの話として、
 団塊の世代よりちょっと上くらいの人たちから下は、高齢化社会高齢化社会と言われ続けてきたので、お年寄り自身にそこそこの貯えがある。そのお年寄りの子どもたち(いま働き盛りの40~50代)はほとんどが共働きで、お金よりも仕事が大事、時間が大事という人たちがばかりだ」というようなことをお話ししました。つまりこの世代の親子は、ちょっとした「小金持ち」だという話です。ところがこれは平均の話であって、必ずしもみんなが豊かということではありません。
 
 金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査(令和4年)」によると、60歳代で2人以上の世帯の平均貯蓄額は1819万円、中央値は700万円です。ほとんどの人が退職しているであろう70歳代の世帯では貯蓄額の平均が1905万円、中央値は800万円となっています。
 中央値が700万円~800万円ということは、半数のひとがそれ以上、もう半数がそれ以下ということです。分かりませんがそんなものなのでしょう。
 高齢者の預貯金は大体そんなものだ――といちおう頭に入れてから、そのあとで平均貯蓄額は1819万円~1905万円という数字を思い浮かべると、違和感に頭がクラクラしてきます。中央値が700万円~800万円なら平均もその程度だといいのに、大金持ちたちがいるために平均値をそこから1千万円以上も引き上げてしまっているからです。
 
 さらに驚くべきことに、数字上は私もその大金持ちの一端を担っているのです。預貯金は800万円よりたくさんありますし、夫婦で死ぬほど働いて、支出は極力を押さえてきたからちょっとした小金持ちなのです。

【2000万円不足説とは何だったのか】

 2019年6月に金融庁の『金融審議会 市場ワーキング・グループ』がまとめた報告書で、年金だけでは死ぬまで2000万円、生活費が不足すると発表されると、社会的に「2000万円不足問題」として大きな話題となりました。年金生活を始めるときそんなに預貯金ができているのだろうかと、不安になった人が多かったからでしょう。

 2000万円も不足するという話の根拠は、年金収入と平均的な支出の差にあります。
 定年退職後の夫婦が受け取れる平均的な年金受給額は月に21万円ほどなのに対し、2017年の平均的な高齢無職夫婦の支出が月に『26万3,717円』だったからです。その差5.5万円あまり。それを年金受給開始後の期間に預貯金で穴埋めしていくとすると、
 85歳まで(20年間)生存の場合:5.5万円×12カ月×20年=約1,320万円
 95歳まで(30年間)生存の場合:5.5万円×12カ月×30年=約1,980万円
 と最大おおよそ2,000万円不足するという話になるのです。
 しかし高齢者の生活は千差万別です。

カニは甲羅に合わせて穴を掘る】

 最初に挙げた金融広報中央委員会の調査によると、60歳代以上で預貯金ゼロの二人以上世帯は全体の約2割。およそ5軒に1軒がそれにあたります。この人たちが「中央値」を下げているとも言えます。
 2000万円必要だと言われているのにゼロでは絶望的な数字のように思えますが、考えようによってはそうでもありません。「カニは甲羅に合わせて穴を掘る」というように、ひとも分相応の暮らしをするものです。
 60歳代で預貯金ゼロの家庭は、それ以前から毎月「26万3,717円」もかかる生活をしていないのかもしれません。そもそももっと豊かであるはずの私自身の生活を振り返っても、月の基本的な生活費は20万円にも届いていません。
 妻は現在もフルタイムで働いていますからあくまで試算ですが、何と言ってもローンの済んだ持ち家なので家賃が掛からないことが大きいでしょう。外食は年に数えるほど(夫婦ふたりきりだと1~2回)、野菜・穀類の多くが自家製。飲み会は年5回あるかないか。旅行の行先は娘の家。そんなふうだと日常的な支出は本当に少なくなくて済むのです。私が稼いでいる時代からこんなものでした。とにかく忙しくてお金を使っている暇もなかったのです。
 ただし逆の場合だってあります。

【老婆心ながら現役のひとたちへのふたつのアドバイス

 現役時代の生活水準が高かった人たちはたいへんかもしれません。
 一時期ディンクス(DINKs)という言葉・生き方が流行しました。“Double Income《共働き》No Kids《子どもを持たない》夫婦”のことで、そうした生き方を選択したカップルのことを言います。これは生き方の選択の問題であって、何らかの事情で子どもを持てなかったカップルは含めないのが基本です。
 《共働き》も一般的には正規・フルタイムで働くことを前提としますから当然、頭ひとつ抜けた高収入夫婦となります。問題はその収入をどう扱ったかということです。人間は決して欲望に強い生き物ではありません。高収入にも関わらず質素・倹約に勤めていれば来るべき年金生活にも耐えられます。むしろそうでない人たちより豊かに暮らせる可能性もあります。しかしそうでなかったとしたら――ふたりで稼いだ金でどんどん生活の水準を挙げて行ったうえで、普通の人々と大差のない年金生活を始めたとしたら――それはかなり大変なことになります。毎月の赤字が5.5万円では済まないわけですから、とんでもないことになります。
 タワマンか何かに住んで毎月50万円も支出を続けていた夫婦は、同じ水準で生活すると毎月25万円の赤字。年間300万円、30年で9000万円、約1億。そんなに貯金できてます?
 ことさらディンクスを挙げたのは分かりやすいからであって他意のあるものではありません。現在、高収入で生活の水準の高い方はお気をつけなさいよと、その程度の忠告です。安月給で死ぬほど働いた教員夫婦からの、ひがみ全開のアドバイスです。

 さらにもうひとつ。
 いま現役でバンバン働いている皆さん、親の介護なんてとりあえず眼中にありませんよね。もちろんそれでいいのです。普通はそんなものです。私もそうでした。
 ただ、それでも親の財産がどれほどあるか、視野の隅で追っておく必要はあります。親が死んだときに予想外の遺産があっても困りませんが、親が年金生活に入った時、預貯金が一銭もない状況で困ったことがあり、全面的に頼って来られる場合もあるからです。
 何しろ5軒に1軒は預貯金ゼロ。確率2割ですからけっこう大きいですよね。

(この稿、終了)