カイト・カフェ

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「私にとっては新しいが、若者にとってはあまりに古い52年前」~明日は「府中3億円強奪事件」の日

 明日は「府中3億円強奪事件」のあった日、もう52年になる。
 「今も昨日のことのように」とまでは言わないが、
 かなり細かなところまで鮮明に覚えている。とにかく大きな事件だった。
 しかしそれとて半世紀以上前の話。昭和もつくづく遠くなったものだ。

という話。

f:id:kite-cafe:20201209070345j:plain(写真:フォトAC)

 

【府中3億円強奪事件の日】

 明日、12月10日は「府中3億円強奪事件」の起こった日です。
 1968年12月10日午前9時30分ごろ、小雨の降る日本信託銀行(現三菱UFJ銀行)国分寺支店を出た現金輸送車は、府中刑務所の北側道路で白バイ警官に止められます。車には東京芝浦電気(現東芝)府中工場従業員のためのボーナス、約3億円がジュラルミン・ケースで積まれていました。

 運転手がどうしたのかと訊くと、白バイ警官は「巣鴨の支店が爆破された。この車にもダイナマイトが仕掛けられている可能性があるので調べさせて欲しい」と言って乗っていた全員の下車を求めます。数日前に彼らの勤める府中支店にも支店長宅を爆破するという脅迫状が届いていた経緯もあり、行員たちは言われるままに車を降りしばらく様子を見守ります。すると輸送車の下に潜り込んだ警察官が「あった! 爆発するぞ! 早く逃げろ!」と叫び、下からモクモクと煙が出始めたため彼らは一目散に逃げ出しました。

 警察官はサッと車に乗り込むと発進させ、その場に煙の出る棒状のものが残されます。行員たちは警察官がダイナマイトから輸送車を遠ざけようとしているのだと考え、「なんて勇敢な人なんだ」と感心しながら見送りました。ところが煙を出していたのはただの発煙筒で、置き去りにされた白バイもすぐに偽物だと分かって、初めて3億円が強奪されたことに気づいたのです。

 のちの捜査で分かったのですが、このあと犯人は3台の盗難車を使って次々と乗り換え、まんまと警察の緊急配備を潜り抜けてしまったのです。3億円の現金の一部は番号が控えられていましたが、早い段階で公開されてしまったために使われることはなく、事件は結局7年後の1975年に公訴時効を迎え、現在にいたるまで真相は明らかになっていません。

 盗まれたお金は現在の貨幣価値で10億円とも50~100億円とも言われる高額でしたが、二重の保険金が掛けられていたために実質的に損害を被った人はなく、けが人も出なかったことから一部で犯人は英雄視されました。そのためフィクションやノンフィクションで繰り返し扱われ、「府中3億円強奪事件」は戦後犯罪史で最も有名な事件のひとつになったのです。

――と、ここまで読んで、それが若い人だったら「すごいことがあったんだ」と感心される場合もあるかもしれません。しかし私と同じ60代以上にとっては「何をいまさら」みたいな話です。
 まず知らぬ人は一人もいませんし、それもかなり詳しく知っている人が相当います。とにかくすべての日本人の耳目を引き、しつこいくらい報道された事件だったからです。


【私にとっては新しいが、若者にとってはあまりに古い52年前】

 しかし60代以上の人たち、考えてみてください。1968年と言えば今から52年も前の話です。今の若者が3億円事件の話を聞く感覚は、1968年当時の若者(つまり私たち)が1916年の話を聞くのと同じなのです。

 1916年と言えば大正5年。
 第一次世界大戦の真っ最中で、アインシュタイン一般相対性理論を発表し、レーニンが「帝国主義論」を著し、森鴎外が「高瀬舟」、夏目漱石が「明暗」を書いた年です。ロシアでラスプーチンが暗殺され、アメリカではボーイング社が、日本では明治製菓が操業した年でもあります。それでもピンとこなければ竈門炭治郎が「鬼殺隊」に入って鬼と戦っていた(「鬼滅の刃」)時代というのはどうでしょう。
 いずれにしろ、どう足掻いても実感できない年の開きです。

 私はブログの題材に困るとしばしば「今日は何の日」みたいなサイトを参考にしてものを考えることにしています。しかし先週から今週のようにひとつのテーマで続けて書いていると、重要な歴史的事件を拾い残してしまうことがあるのです。

 ちなみにこの2週間余りの重大な歴史的事件を調べると、
11月25日―三島由紀夫割腹自殺事件から50周年
       「ノストラダムスの大予言」発行から47年
11月27日―PKO協力法案強行採決から29年
11月29日―大韓航空機爆破事件から33年
12月 8日―真珠湾攻撃(太平洋戦争開始)から79年
       元ビートルズジョン・レノン暗殺事件から40年周年
と、語るべきこと、考えるべき事件はいくらでもありました。

 特に周年にあたる「三島由紀夫」と「ジョン・レノン」については何かを考えて記録にとどめておくべきだったのかもしれません。しかしそれぞれの日に私は洗濯機の糸くずの話とNHKドラマのことを考えていました。もちろんそれを中断して過去の重大事件を扱ってもよかったのですが、何となくそこまでやる必要もない気もしました。

 私にとってはどれも意義深い重大な事件なのですが、なにせ半世紀前、40年前となるよ、今の人にとってどういう意味があるのか――そんな足を引っ張るような思いがあったのです。

 ああそれにしても、「昭和」も遠くなったものです。