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「日本が汚れる」②〜インドネシア高速鉄道と国立競技場

 結果的に両者痛み分けみたいになってしまったインドネシア高速鉄道入札ですが、私が恐れたのは単に日本が中国に負けるということだけではありません。売り込みの過程の中で、日本もまた汚いことをしていくのではないかという恐れです。

 インドネシア高速鉄道は6000億円規模のプロジェクトですが、国際市場の主導権をどちらが握るかという点では計り知れない影響力があります。
 日本の場合すでに台湾に実績がありますから台湾・インドネシアと続ければとんでもなく大きな前進ということになります。三番目の国が先行する二か国と異なる選択をするためには、相当な理由が必要になるからです。
 逆に言えば中国はここでイーブンにすることが今後の発展を考える上で絶対条件となります。インドネシアを獲得して初めて日本と同じスタートラインに立てるのです。
 つまり日中両国にとってインドネシア高速鉄道は是が非でも受注しなければならない重要案件――そこで報道された通りの熾烈な受注合戦が繰り返されたのです。しかしそれは果たして公正で合理的な活動だったのでしょうか。

 もしかしたら日本より3年も短い中国の工期ははったりで、手抜き覚悟の計画ではないか。そうなると2019年から16年に前倒しした日本の計画もあやしい。
 日本の総工費50億ドルは中国より5億ドルも安い金額です。いかに円安とはいえそこにダンピングの可能性はないのか。逆に言えば5億ドルも高いのに日本と勝負できると考えた中国には、何か必殺技があるのではないか、上乗せ分の5億ドルは結局インドネシア高官の懐に入っていくのではないか。そんなふうに邪推し始めると日本も賄賂を贈らざるを得なかったのではないか・・・考えていくときりがありません。

「世界が日本になる」――つい最近まで、私は日本の道徳観が世界に広まって世界が日本になるという浮き立つような夢想に耽っていました。ところが近ごろ、にわかに悲観的になってきたのです。「世界が日本になる」のではなく、「日本が世界と同じようになってしまう」「日本が汚れていく」という恐怖し始めたのです。そのきっかけは2020年東京オリンピックです。
 そもそも誘致の際、「選手村から半径8km以内に全競技場を配置するコンパクトな大会」というのが大いなるウリだったはずです。それが瞬く間に見直され、セーリングは江の島、フェンシングやバドミントンは幕張、自転車競技に至っては伊豆という話まで出ています。
 新国立競技場はずいぶん問題になりましたが、あれだって最初から実現不可能な計画だったのではなかったのか。そう考えなければ1300億円が3000億円になり、見直しで1620億円に下げたはずがゼネコンの見積もりでまた3000億円になる不思議は理解できません。
 要するに「招致さえしてしまえばあとは何とかなる」「決まって2〜3年もすればこっちが辞退するといっても他に引き取るところなんかありはしない」とタカをくくって始めたのではないかと疑いたくなるのです。

 これは極めて日本的ではありません。日本人はもっとウソのない誠実な民族であるはずです。しかし国際政治の舞台ではしばしばウソとはったりはグローバル・スタンダードです。オリンピックやワールドカップのような大イベントを計画通りできるのは北京やソチといった強権国家の都市だけで、ロンドンもリオデジャネイロもみな大幅な変更を余儀なくされています。誘致した時と話が違っているのです。もしかしたら2020年東京オリンピック招致も、そうした国際基準に則って行われただけなのかもしれません。

 インドネシア高速鉄道では日中両国ともに受注できませんでした。ですから今後、不正やウソやはったりの事実が表面化する可能性はありません。もしかしたらそれでよかったのかもしれません。
 最悪は受注合戦に勝って受注に成功した上で、次々とボロが出てくることだったかもしれないからです。2020年東京オリンピックのように。

(この稿、続く)