カイト・カフェ

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「ランドセル改革は起こるのか」〜子どもの荷物が重すぎる問題について

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【ランドセル7.7kg】

 以前からたびたび話題になっていましたが、登校時の小学生のランドセルの重さが7.7㎏にもなるそうです。つい先日のNHKニュースでもやっていました。ランドセルがすべての原因ではないでしょうが、腰痛や肩こりのために通院する子どもも確実に増えているといいます。

 重くなった原因としては「脱ゆとり教育」のために学習内容が1.3倍になり、副読本や練習帳が増えたこと、教科書がかつてのB5版(図工や音楽など一部はAB版または変型版)からA4版に変更されたものの字を大きくしてイラストなどを入れたこともあって厚さ自体はそう変わらず、したがって重量だけが増えたことなどが指摘されていました。
 しかしどうでしょう、本当にそうなのか。
 私に言わせればランドセルは昔から重かった。しかもかなり重かったはずです。

【通学かばんを軽くする方法―「置き勉」】

 NHKの番組では中学生の持ち物も扱っていました。中学生は部活動もありますからその重量もハンパありません。例として挙げられた剣道部の生徒は、通学バッグにサブバッグ、剣道の用具入れに竹刀、水筒等々、総重量26kgもありました。これでは大変なわけです。
 家で使わない教科書等は学校に置きっぱなしにできればいいのですが(これを「置き勉」と言うのだそうです。初めて聞きました)、最近「置き勉」を禁止する学校が増えてきて、何でもかんでも持ち帰らなければならないのです。

 余談ですが、ここで私はちょっと首を傾げました。私の知る限り、半世紀前から(つまり私自身が中学生のころから)一貫して学校というところは「置き勉」禁止だったからです。教科書やドリル帳を置いていくという発想自体がないので「置き勉」という言葉もありませんでした――それが私の地域の実情です。

 番組は続けて、この「登校荷物重すぎる問題」について解決策を講じた中学校を紹介します。
 校長はまず、学校が「置き勉」を禁止する理由について2点、話をしました。

 一つ目は家で宿題をするため、そしてもう一つは毎日登校するための準備をするという習慣作りのためだそうです。それがこれまでの学校の考え方でした。しかしこの校長はここで英断をするのです。
 子どもの健康を考えたら26kgを持ち歩くのは異常です。そこで毎日、教師が宿題のために持ち帰るべき教材を指示し、あとは個人の判断で不要なものは置いて行っていいことにしたのです。
 おかげで生徒の荷物は軽くなり、校長に言わせると「けれど宿題を忘れる等の問題はほとんど出ていません」とのことです。
 メデタシ、メデタシ。他の学校も真似をすればいいのに――といった流れですが、私はそれは違うと思うのです。

【ほんとうに学習に支障をきたさないか?】

 理由は二つあります。
 些末な方から言えば、家に持ち帰るべき教材を教師が毎日チェックして必ず伝えるという作業が、意外と難しいのではないかと思うのです。
 「何のそれきし」と思われるかもしれませんが、教師の多忙はそうしたロクでもない仕事の堆積ですから些細なことでも注意しなくてはなりません。

 教科担任は授業の終わりごとに「今日の宿題はこれとこれ。だから教科書と問題集、そしてノートは必ず持ち帰るように」と指示しなくてはなりません。確認し忘れると、「だって先生が言ってくれないんだモン」と必ず文句を言われます。
 中学生は一度指示すれば全員が守るというものではないので、帰りの会では係が確認をします。
「数学係から連絡です。今日の宿題はこれとこれですから、教科書と問題集、そしてノートは必ず持ち帰るようにしてください」
「国語係です。国語は教科書と漢字練習帳を持ち帰ってください」
「英語係です・・・」
 もう面倒この上ない。しかし生徒の健康のためです。我慢しましょう。

 しかしそれだけの配慮をしても集中力のまったく効かない生徒もいます。そんな子は翌日、
「済みませ~ん。昨日、教科書を持ち帰るのを忘れてしまったので宿題できませんでしたァ」
 そこで教師は思うのです。
(何もかも持ち帰ったって宿題を忘れるやつはいるのに、「教科書を忘れました」なんて、「置き勉」のおかげで絶好の言い訳を与えてしまったようなものだ。昔のままにしておけばよかったのに・・・)

 しかし「置き勉」は生徒の健康のためです。それに比べたら学習の定着なんて大したことではありません。

【「置き勉」を許さない現実的理由】

 「置き勉」を許さない方がいいと思うもう一つの理由は、ある意味でさらに深刻です。それは「置き勉」となった教科書・問題集はどこへ置けばいいのかという問題です。

――学校にはロッカーくらいあるだろう。
 もちろんあります。しかしそのロッカーは生徒が登校するとカバンやサブザックを入れる場所なのです。給食着や運動着が入っています。部活に必要な物品が入っていることもあります。
 時期によっては絵の具セットや習字道具、柔道着も入る場所です。そしてこの話題を6月に取り上げると分からないのですが、冬は分厚いコートやジャンパーを押し込まなくてはなりません。
 今でも入りきらなくて困っているというのに、この上どうやって「置き勉」を置くのでしょう?

――机の中は?
 それもダメです。机の引き出しは空にしておいて、朝、登校してきた生徒がその日使う教科書やノート、筆入れなどを入れる場所です。「置き勉」が入ったから今日使う教科書が入らないなんて、とんだ本末転倒です。

 ニュースで紹介された校長は「置き勉禁止」の理由を宿題と生活習慣で説明しましたが、一番大きくて決定的な理由は「置き勉の置き場しょうがない」ということ、それが普通の学校の姿です。
 教科書や問題集ですら置き場所がないのですから、部活で使う剣道の道具なんてさらに厄介です。高価なものですから体育館の隅にむき出して置いておくわけにはいきません。それ相応の場所が必要です(私の以前勤めた中学校には鍵のかかる専用の部屋がありました)。

 テレビで紹介された学校は「置き勉」ができたのですから、例えば生徒が急減してロッカーが大量に余っていたとか、市が予算潤沢でわざわざ作ってくれたとか、それ相応の事情があったのでしょう。そうでなければ容易にできることではないのです。

【子どもたち、ガンバレ!】

 もちろん根本的な解決策のひとつはロッカーを増設すればいいという単純なことです。
 ただし、私は児童館の仕事をしている時に20人分のロッカーの増設を企図したのですが、業者が持ってきた見積もり金額は30万円です。
 学校だとすべての教室でそれ以上かかるわけですから大変な額になってしまいます。まさかそれを市の土木費から回してもらえるはずもなく、教育予算の中をやりくりして生み出すしかありません。

 しかし社会科教師が怒って叫びます。
「そんな金があったら世界地図をもう一本買ってくれよ。ウチの学校の世界地図、3本中1本はいまだにソビエト連邦があるんだぜ!」
 図書館司書も悲鳴を上げます。
「図書費は絶対に削らないでくださいね。ウチの図書館の人名辞典なんて、いまだにガンジーが生きているんですよ!」
 それを聞いた校長がなだめます。
ガンジーくらいが何だよ。隣の学校の人名辞典なんて豊臣秀吉が生きてるんだぜ」
(ソリャ、嘘ダロ)

 児童生徒諸君!
 済まないがたった3年間(小学校は6年間)のことだ。重い荷物で頑張ってくれ。
 大人はキミたちがどんなに大変でも、学習内容を減らしたり税金を増やしたりするのはまっぴらだと思っている。
 それにカバンが重いといったって、二宮金次郎の薪よりは軽いはずじゃないか。そうダロ?