カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「勉強が楽しいわけがない」〜自分の目で見る⑦

 政府やマスコミは日本の教育についてウソばかりついています。ウソとは言い切れなくても常に、「日本の教育は間違っている」「レベルが低」「だから自分の言う通りにすればよい」といった方向に世論を引きずって行こうとします。しかし、
「こと教育に関して、『欧米では』ときたら、それは真似してはいけないこと」
なのです。日本の教育は世界最高峰にあって安易にいじってはいけません。

 例えば、
「日本の子どもたちは数学などの成績は良いが、楽しく学習している子は少ない」
 これもよく聞く話で、TIMSS(国際数学・理科教育動向調査)やPISAOECD生徒の学習到達度調査)など学力の国際比較をもとにした話です。しかし教育に関して「日本はダメだ」という話は必ず検証しなくてはなりません。この場合は簡単で、左に国・地域成績順に並べて、右に「楽しい(または好きだ)」という順に並べ、両者を対照して見ればいいのです。私はそれを8年ほど前、TIMSS2007でやったことがあります。
 結果は以下の通りです。

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 中学2年生で数学トップの台湾は「数学の勉強は楽しいと思う」生徒の割合で40位なのです(18か国・地域中)。2位の韓国は47位、4位の香港は38位、そして5位の日本は46位となっています。つまり成績の良い国・地域の子どもたちはこぞって「数学の勉強なんて楽しくない!」と思っているのです。
 逆に、「数学の勉強は楽しい」と思っている子どもがトップのアルジェリアは、得点では39位、2位のチュニジアは32位、3位のエジプトは38位です。他国を悪く言ってはいけませんが「みんなで楽しく低学力」みたいな話です。

 それはそうでしょう。理解しろ、分かるようになれ、できるようになれ、成績を上げろと頑張れば頑張るほど勉強が嫌いになるのはある意味当然です。
 苦しい先に幸せや喜びはあるにしても、苦しんいる最中に「楽しいと思え」といっても無理なのです。
 ですから「勉強が楽しい」という子を増やすことが大前提なら、成績が下がることを甘受するしかありません。両方果たせというのはあまりにも非現実的です。

 ところでそう話すと、
「両方1位になれとは言わないが成績はトップクラスで『楽しい』はせめて真ん中くらいというわけにはいかないのか。シンガポールはそれができているじゃないか」
と言いだす人がいるかもしれません。
 しかしそれは統計を知らない人の言うことです。

 表やグラフで全体の傾向とあまりにも異なる数値が出たら、それは数値自体が怪しいと考えるのが普通です。TIMSS2007について言えば「シンガポールの数値は怪しい」のです。
 この国について特に詳しいというわけではなく確証もないのですが、シンガポールは小学校高学年から留年制度がある珍しい国です。ですから小学校卒業段階では年齢こそ違っていても成績としては平準化しています。つまり日本の場合、中学校1年生といえば全員が12歳または13歳であるのに対し、シンガポールでは全員が一定水準以上の学力を持っていることになるのです。2年生もまたしかりです。
 さらにシンガポールの場合、小学校から先は進路別コースになっていますから、将来高等教育を受ける可能性のない子どもたちは、勉強もさほど熱心ではありません。
 そうした底辺校の生徒も含めて、TIMSSの調査を受けているのか。
 もしかしたらエリート校の中学2年生だけを対象に調査したのではないか――私はそうとうに怪しんでいます。

(この稿、続く)