私たちが「勉強」と呼んでいるものを漢字の本場、中国では「学習」といいます。では「勉強」は何を意味するのかというと「強いて勉める」つまり何かを強制されることを言うのだそうです(だから昔の八百屋さんは「ヘイ、勉強しときやしょう!」といった言い方をした)。日本に中国語が入ってきた時代から、学習は子どもにとって楽なものではなかったようです。
さてそこで教師は、子どもたちが少しでも学習するためにはどうしたらよいのかと、あれこれ考えたり工夫したりしてきました。その結論のひとつが、「楽しい勉強ならきっと頑張って成績を上げるだろう」というものです。自分自身が楽しくて夢中で勉強した体験があるからです。
いくつかの国際比較の結果、日本の子どもは成績こそ良いものの、勉強が好きと感じている子は極めて少ないという結果が分かっています。そこでこの子たちに楽しい学習をさせれば、更に飛躍的に成績を上げてくれるのではないかという仮説が生まれます。
しかし実際にはそうとも言えないようなのです。
下の図は左に数学の成績を高い順に、右に数学が楽しいと答えた得点の高い順に並べたものです(いずれもTIMSS2007)。そしてその両者を結んでみると意外なことが分かってきます。それは「点数の高い国は、こぞって数学なんかさっぱり楽しいと思っていない」ということです。つまり「勉強はやればやるほど楽しくなくなるが、楽しくなくてもがんばる」という子がたくさんいないと、平均点は上がっていかないのです。
ここから更に厄介な次の結論が導き出されます。つまり、成績と楽しいかどうかということについては、三つの選択肢しかない、
「成績が低くても数学を楽しく学ぶ国」にするか、
「数学なんか楽しくないと言いながら成績がよい国」にするのか、
「両方ともそこそこでいい」とするか、
ということです。
これから先については、改めて深く考えてみましょう。 なお、図を見て「シンガポールのように、成績は上位で『楽しさ』については中位という道もあるのではないか」という見方をする人もいるかもしれません。ただし統計の専門家たちなら、この図を見ると真っ先に「シンガポールの数字は怪しい」と感じるに違いありません。何しろ小学校4年生で進路が別れてしまう国ですから、別の要素が入り込んでいるのかもしれないのです。
しかしそれにしても、成績はよいのに楽しいと思っていないという事実、あたかも日本の子だけがそうであるような報道しかされないのは、あまりにも不公平だと思うのですが。