をとはとへ


 英語の困難のひとつは、明らかに、文字が26種類しかないことに由来しています。日本語の場合、五十音表に表される45文字以外に、濁音や半濁音などを入れると80以上の表記があり、基本的には日本語の全発音、それで表現できます。ところが二重母音など、日本語よりはるかに多様な発音を持つ英語が26文字しかないと、必然的にひとつの文字で複数の発音をあらわすことになります。

 たとえばappleのaとAprilのaはまったく違った発音です。

「ea」というつづりは繰り返し出てくるものですが、どんな単語のどこにくるかで発音は何通りにもなります。ちょっと考えただけでもeagle、ear、heart、early、ready、tearは全部違います。これでは混乱するのがあたりまえで、アメリカの子どもに読字障害や書字障害が多いのは当然でしょう。

 日本語の表記で厄介なのは「を」と「は」と「へ」だけです。

「を」については言語学者金田一春彦さんがある誘拐事件の際「『を』と『お』を明確に発音し分けられるのは長野県から山梨県西部の人間だけだから、犯人はそこの出身者に違いない」と断言してみごとに外したことがあります。「を」を「wo」と発言する人たちは、意外に多かったのです。

 その一方で、(今回インターネットで調べたら)「現代の日本人は『を』と『お』を識別できない」と本気で信じている人も山ほどいて、これにも驚かされます。

「駅へ」と発音する時の最初の「え」と最後の「へ」を発音し分ける人はいないはずです。しかし高知県の一部の人たちは「私は」の最初の「わ」と最後の「は」を明確に発音し分けると聞いたことがあります。ぜひとも一度、聞いてみたいものです。

 子どもたち日本語の表記を教えるときには、そんなことを説明してみると賢い子は覚えていてくれるのかもしれません。日本語の仮名遣いが確定した明治期、多くの日本人は「私fa、駅fe、荷物wo取りに行きました」といった感じの発音をしていたはずなのです。