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「私語の多い子には何と言って注意するの?」~指導助言の質を高める方法②

 集中力がなく、何度言っても私語の止まらない子、
 そんな子に言ってやらなければならないことがある、
 行うべき対処法がある。
 みんな大学の講義で学んだことだけどね、
という話。(写真:フォトAC)

【私語の多い子には何と言って注意するの?】

 私は若いころ、先輩の先生からこんな指導を受けたことがあります。
《集中力がなくてすぐに私語をしてしまう子どもを指導するのに、言い方が三つある。
 人が話をしているときは、
「しゃべってはいけない」と言うのと、
「黙っていなさい」と言うのと、
「しっかり聞きなさい」と言うもの。
 もちろん最後が一番優れている。なぜならひとが話しているときに他の子がすべき積極的な態度が、明確に示されているからだ。
「しゃべってはいけない」のような、前半を後半が否定する形の指導は効かない。子どもの頭には「しゃべって」は入るが後半の「いけない」と捻る言葉はしっかり入ってこないことがある。そうなると教師の指示は、
「ひとが話をしているときは、しゃべって!」
 つまり「しゃべりなさい」ということになりかねない。私語を奨励しているようなものだ。
 2番目の「黙っていなさい」も、黙っているだけではその間じゅう頭の中を妄想が駆け巡り、やがて沸騰して黙っていられなくなる瞬間を待つだけになってしまう。もちろんその間にストレスは貯まるから言葉が「黙っていなさい」の堰を切るときは大事になる。
 だから黙っていることの苦手な子、私語がさっぱり収まらない子には、具体的で積極的な活動の指針を見せてやるしかないんだ。それが「人が話をしているときは、しっかり聞きなさい」だ》

【さらに優れた方法があった】

 私はそのアドバイスを忠実に実践しようとしましたが、必ずしも上手く行ったわけではありません。それだけでは不十分だったのです。しかし今ならもう一工夫できそうです。チコちゃんに教えてもらいましたから。
 それは例えば――、
ひとが話しているときは話をしっかり聞かなくてはなりません。『なるほど』とか『うん』とか、あるいは『そうだね』『そうか』とか、心の中で呟きながら、いちいち頷いて聞くのです。さあ、実際にやってみよう!」
 そう言って練習させればいいのです。

 このやりかたの最大のメリットは、指導された子がそのあともしっかり聞いているかどうかを、目で見て判断できることです。頷いているどうかを見るだけでいいのです。そして忘れているようなら目を捉え、《今から私も頷きながら聞くので、真似して一緒にやりなさい》と目くばせで合図をします。たいていの教師は児童生徒が発言しているときは発言者の目を見て、頷きながら聞いていますからそのついでにやればいい簡単な仕事です。
 もちろん当該の子が頷きながら聞いていたら誉めることも忘れません。小学校の高学年以上だったら(中学生も)あとで機会を見て個人的に誉めます。低中学年はみんなの前で誉めてやれば、翌日から頷きながら聞く子どもがどんどん増え始めます。そして特に教室の前3列くらいまでの子が一生懸命頷くようになるとクラス全体の集中力が飛躍的に高まります。クラスの学力は前3列が握っているようなものです。

【行動療法の話】

 このように目に見えない内面的な状況(この場合は「しっかり聞く」)を行動(頷く)という目に見える形に変え、誉めたり叱ったりする心理療法を行動療法といいます。行動療法はその語感から「行動させて治す治療法」のように誤解されますが、おそらく元は「行動主義心理学心理療法」だったのでしょう。行動することとはあまり関係がありません。

 行動療法のもとになった行動主義心理学というのは簡単に言うと「目に見えない“心”というものを対象とせず、目に見えるものと目に見える形に変換されたもののみを対象とする心理学分野」のことです。心理療法としては「アメとムチ」を多用することが多く、現在も世界の主流となっています。
 教員免許を取る際に基本的な講座として今でも教育心理学は必修になっていると思うのですが、行動主義的な考え方は学校教育の津々浦々に浸透しています。例えば制服。
 
 制服にはさまざまな意味があって、例えば、統一的な服装を決めることによって子どもたちの外面に貧富の差や親の意識の差が出ないようにするとか、子どもたちの意識を一つにまとめて愛校心を高めるとか、他校に対して差別化を図って責任の所在を明らかにするとか、いろいろ言われますが、あまり知られていない重要な役割として「心の見える化装置」というものがあります。
 心の状況をほぼ自動的に「目に見える形」に変化させてくれる制服は、とても便利なのです。この現象を「服装の乱れはこころの乱れ」といいます。

(この稿、続く)