カイト・カフェ

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「子どもたちはペン先をどこから見ているのか」〜変体少女文字の話①

「変態少女」ではありません。「変体(少女)文字」の話です。

 1900年の小学校令施行規則改正の際、政府によって切り捨てられたさまざまな仮名文字のこと「変体仮名」と言います。それまでは例えば同じ「sa」と発音するひらがなでも、元字が「散」であるもの、「斜」であるもの、「乍」であるもの、「作」であるもの、「左」であるものと5種類もあったのです。また崩し方も様々で、まさに無数の「sa」が存在したと言えます。 
 けれどそれを全部認めていたのでは勉強になりませんし印刷・出版もできません。そこで「左」に由来する「さ」の文字だけを残し、あとは「変体仮名」として切り捨ててしまったのです。

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 今も残る変体仮名としてはウナギ屋さんの看板に残る「う奈ぎ」の「奈」(本当はそれを崩したもの)くらいしかありません(今、調べたら蕎麦屋さんに「生(き)楚(そ)者(は)゛」と書く例もあるみたいです)。

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 変体少女文字はその変体仮名にヒントを得た造語で、1970年代から80年代にかけて全国を席巻し、500万人の少女の字体をひとつにしてしまったあの「丸文字」のことを言います。ジャーナリストの山根一眞「変体少女文字の研究―文字の向うに少女が見える」(1986 講談社)で命名しました。

 山根によると、変体少女文字は自然に発生し、別に練習するというふうではなくいつの間にか広がって行ったと言います。500万人を魅了したというのもすごいですが、90年代に入って突然なくなってしまったというのも驚くべきことでした。

 なぜ丸文字は成立したか。その原因として、ひとつには横書きの文化が広がってきたこと、もうひとつは筆記用具の発達がある―山根はそう主張します。

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 日本語は本来縦書きを中心に発達してきました。
 縦書きの場合、ほとんどのひらがなは左下に向かって流れ、撥ねのある場合もいったん上方で円を描いてから下へ向かうようになります。
 しかし横書きにした場合、たとえば「す」は、最後は左に流し、そのままペンを右回りに回して次の文字に向かわなくてはなりません。あるいは左へ流さず、そのまま止めてすぐに右へ行きます。それらを繰り返すと必然的に文字は丸くなってしまうのです。

 しかしもっと重要なのは筆記用具の問題でした。

(この稿、続く)