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「教育内容を昭和に戻せばすべて事足りるのに」~ウサギとカメの教育科学④

 小学校の飼育活動も中学校の部活動も、
 子どもの成長に価値があるからここまで続いてきた。
 それをなくして何を成し遂げたいのだろう?
 しかも実際にはなくすこともできないのに――。
という話。(写真:フォトAC)

【教師の負担を増やしているのは飼育活動でも部活でもない】

 教員の働き方改革というとまずやり玉にあがるのが部活動、そして気がつけば小学校の飼育活動、両者とも教員に勤務時間外の活動を強いるという意味では、非難され、削減の対象となるのは当然です。
 しかし両方とも実績のある、効果の大きな教育活動であることは論を待ちません。また教員の多忙化、教職のブラック化の原因を部活動や飼育活動の過熱に帰するのも間違いでしょう。

 ここ10年、あるいは20年という期間に、部活や動物飼育が過剰になってきたという事実はありません。むしろ抑制されてきたくらいです。それにもかかわらず負担感が大きくなったのは、教育活動の本業の方が過剰になり、部活や飼育活動に手が回らなくなったからです。
 
 再三あげていますが、昭和になくて令和に存在する校内の活動は、全国学力学習状況調査(全国学テ)、教員評価・学校評価、総合的な学習の時間、特別な教科道徳、環境教育、キャリア教育・キャリアパスポート、薬物依存防止教育、コンピュータ・リテラシー教育、小学校英語、プログラミング教育等々、等・・・。その他、SDG‘s教育だの、カード教育だの、個々の学校で強いられている追加教育はあげたらきりがありません。
 そして注目すべきは、どれほど追加教育が増えても、そのための専科教員(専門の教師)の配当がなく、すべて担任教師の仕事として加算されていったという事実です。第二次安倍内閣鳴り物入りで「特別の教科道徳」を立ち上げた時ですら、道徳専科を置かず、あれほど不信感を露わにした学級担任にお願いせざるを得なかった様子を見ても、政府はこれ以上教員を増やす気持ちはまったくないのです。
 今日、小学校の教科担任制が注目されていますが、あれだって大部分は教員同士が時間を融通し合い、二クラス以上教える教科と教えなくてよい教科とを生み出しているにすぎません。
 
 指導内容は増える一方なのに教員は増やさない――。
 私が教員になった昭和後期は、平和教育に人権教育くらいしかなく、そこに「性教育」が加わって、「こんなことまでオレたちが教えなくちゃいけないのか」とぼやいているがせいぜいでした。それが今はやるべきことが数えきれないほどになっています。

【教育内容を昭和に戻せば事足りる】

 よく知られるように残業手当の代わりに支給される教職調整額(本給の4%)は、昭和41年の勤務実績(月8時間の超過勤務)を元にしています。だったら学校のすべてを昭和に戻すだけで、時間外労働は目標の「月42時間上限」の五分の一以下になるはずです。
 
 ちなみに昭和41年は私が中学校に入学した年で、小学校時代の飼育栽培活動も中学校の部活動の様子もよく覚えています。休日の作物や動物の世話は子どもと保護者たちの仕事で、中学校の部活にも先生たちは稀にしか顔を出しませんでした。試合直前の2~3週間、毎日来てくれるのがとても新鮮でした。
 部活動に顧問教師がびったり張り付くのは、全国的に部活動が盛んになる中でたびたび事故が報告され、時には死亡事故もあって顧問の不在が問題になって以降のことです。

 それとともに運動部の大会が県のレベルを超え、関東甲信越のようなブロック大会から全国大会へと広がるにしたがってより高い技能が求められるようになり、教師はさらに深く入り込まざるを得ませんでした。
 そのため部活動は昭和後期のころに最高潮を迎え、私などは部活をやらなかった日は(年末年始の連続5日間を入れて)一年間にたった12日、ほとんど休むことなく稼働していたくらいです。
 ただ、部活動は顧問教師の努力が成績と結びつきやすい世界で、私が頑張れば頑張るほど子どもたちの成績は上がり、喜びは共有される、そういった思いが私たち教師を突き動かしていました。だから苦しくなかったという側面はありますが、それもこれも昭和の方がずっと余裕があったからです。

 平成の30年間は、部活の抑制と外部委託の試みに明け暮れた年月でした。体罰問題を含む練習の過剰や生徒の健康問題が主たる理由でしたが、教師の本業本体が異常に重くなり、教師が負担に耐えられなくなったことにも原因があります。
 だとしたら地域移行も仕方ないのですが、それって可能なのでしょうか?

【部活動の外部委託はうまくいっているのか】

 昨日朝のNHKニュースでは中学校の部活動の地域移行がうまく行っている例として、広島市のとある中学校が紹介されていました。もとは11月1日にNHK広島放送局が扱った特集「“先生なし”の部活動 現場の実情は 生徒の受け止めは」だったようです。
 それによると、
広島市は、市立の中学校64校に合わせておよそ900ものクラブがあります。このうち、外部の指導者が確保できた12校の14クラブをモデル事業にして取り組みを始めています」
のだそうです。
 64校に900なら1校当たり14クラブ。全体としては十二分な数かと思うのですが、なぜか12校14クラブだけで外部委託が始められているようです。
 
 こうしたニュース番組ではいつもの例で、生徒に訊けば「専門の指導が受けられていい」と言い、顧問教師に訊けば「ずいぶんと負担軽減されていい」と言います。広島市の場合、問題は指導者が集まらないことではなく、指導者の補助をする「部活動支援員」が集まらないこと、しかしその点を除けば、本質的な部分はすでにすべて通過できたような話になっています。しかし実際はいかがなものか。64校に900クラブといった恵まれた環境にあればいつでも全面移行できそうなものを、なぜ二の足を踏んでいるのでしょうか?

【部活消滅から部員を救うための地域移行は・・・】

 もうひとつの問題は、サッカー部のない学校や部員のそろわない学校の生徒を対象に立ち上げたクラブに、参加者がわずか6人しか来なかったことです。スポーツ庁の案ではこちらに重点があって、地域移行は有能な選手を眠らせないための施策であっただけに、むしろこちらの方こそ大問題です。
 しかしスポーツ庁はこの点を読み誤ったのです。実はほとんどの親は本気で自分の子を大谷翔平や三笘薫にするつもりはなく、中学生ともなると子どもの方でも自分の実力を知って、サッカーや野球にこだわらず、卓球でもバドミントンでも、仲間と楽しく体を動かせればいいだけだと感じているわけです。甲子園や国立霞ヶ丘を経てプロへ、などと本気で考えている子は、野球部やサッカー部のない中学校へなど進学していなかったのです。
 
 いずれにしろ部活動の地域移行はうまくいきません。行政はこのところ「地域移行は休日だけの話だ。平日までは面倒見きれん」とアナウンスするに忙しく、半ば逃げ腰。保護者も「休日の指導を専門家がやってくれるなら」と条件付きで受け入れているだけで、これが専門家でなくて学生アルバイトばかりだとか、高い受講料がかかるとか、はたまた親の送り迎えが必要だということになったら容赦はしません。
 部活動はタダでセミプロ級の指導者(教員)の指導が受けられる、生徒と親の既得権なのです。それを考えたら有料かつ保護者の負担前提の地域移行など、うまくいくはずがないのです。