カイト・カフェ

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「教員はまだまだ締めつける余地がある」~東京が変わらなければこの国は変わらない②

 調べてみると、東京都の教員採用試験、倍率は3・9倍もある。
 北海道・東北・九州の大部分の自治体の2倍以上だ。
 これならいくらでも無理が効く。
 教員の働き方改革など真面目に考えなくても、いくらでも締めつけが効く。

という話。 

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 (写真:フォトAC)
 

【東京都に講師不足はないのか】

 東京の娘の家を訪ねた夜、土曜授業の学校から戻ってきたエージュに訊くと、東京都の教員配置状況はかなり良い様子が窺えます。配置状況が良いというのは、教員不足が起きていないという意味です。

 全国で話題となっている講師不足を話題にしても、
「そういう話は聞きませんねえ。体育代替(妊娠中の担任に代わって体育の授業だけを行う)が足りないという話は聞きますが、これは昔からで――」
とはかばかしい答えが返ってきません。
「ホラ、教職のブラック状況が評判になって浪人をしてまで教員になろうという人がいなくなったり、結婚や出産で退職した先生たちが免許更新をしないで失効したりして・・・・」
と、なんとか話を引き出そうとするのですが、
「さあ、どうでしょう?」
 しかしやがて、
「もしかしたら教員が足りているのは都内でもこのあたりだけかもしれません。いわゆる文教地区ですから大学がいっぱいあって、学生時代のアパートにそのまま住んでいる人も多いから、その中で就職しなかった人たちの一部が講師に応募しているのかもしれない」
 家に戻ってから確認すると、私の方が認識不足でした。
 
 

【東京は人が多いという、当たり前の背景】

 東京都の場合、ここ10年あまりは採用試験受験者も減り続けていますが、採用予定者の方もほぼ一貫して減り続けているため、競争倍率は4倍前後でむしろ安定しているのです。 
 例えば本年度の公立学校教員採用選考(2022年度採用)の応募者は、前年度より1,120人減って過去12年でもっとも少ない1万226人。ところが採用も同じく減ったため、応募倍率は昨年度と同じ3.9倍でした。
 およそ4倍はかなりいい数字です。不合格が合格者の3倍もいれば必然的に教職浪人や本来は教員志望の仮就職者も増え、翌年の講師候補となります。

 しかも都内のほとんどは人口密集地帯で交通の便も良いですから、講師を探すといってもそれほど難しいことではないのでしょう。同じ首都圏でも人口が北西部に偏っている千葉県などとは大違いです。さらに私の住む田舎県などと比べると決定的に違います。

 私が最後に勤務した学校などは山間の小さな盆地でしたから、地区内に人を探せないとしたら(もちろん探せない)、10km以上離れた地方都市に頼るしかないのです。その街だってたいして大きなものではありません。来年度の合格を目指して頑張っている教職浪人もいなければ、教員免許を持ちながら夢を負ってアルバイトで糊口をしのいでいる――そんな若者もほとんどいません。もちろん再三申し上げている通り、結婚や出産を機に退職した教員の多くが免許を失効させてしまっています。それは東京とはまったく異なった状況です。

 東京には人材がいくらでもいるから深刻な講師不足が起こっていない。したがって教員がいくら辞めても困らない――これでは土曜授業がなくならないわけです。この先さらに教員に負荷をかけても、持ちこたえられそうです。
 
 

【教員はまだまだ締めつける余地がある】

 ここに日本の教育行政の難しさがあります。
 首都圏には日本の総人口の3割近い3700万人もが住んでいて、ここでのできごとが日本全体のできごとだと錯覚されやすいのです。東京で教員の組織改編が行われば全国に波及し、学力テストが始まればこれも伝播する。しかし地方で講師不足が生じても、それは一地方の特殊な問題であって全国的なものではない。少なくともテレビのキー局や大新聞会社の本社周辺、つまり東京では切実さをもって感じられないのです。

 首都圏ではまだまだ教員を締めつける余地があります。
「嫌なら辞めればいい。お前の替わりはいくらでもいる」
という言葉が生きていられるのです。
 そうである限り、地方で教員不足による学校の統廃合が噂される事態に陥っても、教員の働き方改革など進むはずがありません。

(この稿、終了)