「教員採用試験の競争率がまた下がった。しかし何とかなるさ」~世間のことは諦めたが、自分のことは諦めない

また教員採用試験の競争率が下がった。
しかしこれを「教師の質」の問題ととらえる人が多数派である限り、
状況は良くならないだろう。
まあそれでもここ10年間はなんとかなる。みんな、がんばってくれ。
という話。(写真:フォトAC)

【採用試験の競争率がまた下がった。私は驚かない】

 エリザベス女王の訃報がもたらされた9日、共同通信は小さく「小学校教員の競争率、過去最低 2.5倍、質の低下に懸念」という記事を配信しました。しかし私の気持ちはイギリス女王の方に振れていて、教員採用試験についてはあまり心動かされませんでした。分かっていたことですから、初めて読んでも既視感があります。
 
 ただ、記事のタイトルにある「質の低下に懸念」。まるで米も少なくなって餓えが目の前に迫っているのに「銘柄米が食べられなくなる」と心配するような話でため息が出ます。さらに記事中の、「文科省は『団塊世代の大量退職に伴い、採用者数が増えたことが競争率低下の主な要因』と説明」には前身の力が抜けてしまいました。
 
 団塊の世代は昭和22~24年に生まれた第一次ベビーブーマーのことで、現在73歳~75歳の人たちです。彼らが教員を辞したのはもう13~15年も前のこと。それがいまだに影響して教員が不足しているなど、文科省が言うわけがないのです(もちろん本気でそう説明したら恐ろしいことですが)。
 おそらく記者が勝手に推測して書いたのでしょう。世間の常識も同じですから。

【競争率低下は団塊の世代の大量退職のためではない】

 教員定数は児童・生徒数によって決まるもので、大卒者の人数によって決まるものではありません。1970年前後に団塊の世代が卒業するからといって政府が採用枠を広げるわけはなく、実際に大量採用の事実もありません。
 起こったのは団塊ジュニアとも呼ばれる団塊の世代の子どもたち(1971年~1974年生まれ)が、1980年~1983年にかけて義務教育の枠に入ってきたことです。そのときに大量採用があって、そこで教員になった人たちが今、最長38年の勤務を終えて次々と定年を迎えて退職してきたのです。

 調べればすぐに分かるのに「団塊の世代の大量退職」と書いてすんなりと通ってしまうのは、共同通信社にとって競争率の低下が大した問題ではないからでしょう。共同の記事をそのまま配信した日本経済新聞やYahooニュースなども同罪です。

 さらに言えば今回の2023年度向け選考では、小中ともに採用予定数も減って、大量退職を競争率の低下の原因にすることはできないのです。そうした事実も無視されました。

自治体はボヤく】

 また、記事に「文科省は競争率向上へ働きやすい環境の整備を進める」とありますが、これも今まで何度も言ってきたことで、いまだに言い続けているのはもうやれることがないからです。同じことを言って時間稼ぎをするのが精いっぱいなのです。

 直接的な担当者である地方自治体はさらに深刻で、島根県では教員募集の広告をつけたラッピングバスを走らせたとか、茨城県では採用試験を前倒しにして他を出し抜く作戦に出たとか、熊本県は受験会場に東京を加えたとか、佐賀県では夏秋2回の採用試験を行うようになったとか、いずれもSNSではクソミソに言われていますが、私は自治体に同情的です。
 
 定数法で決まっている以上正規教員数を増やすこともできず、予算がないから自治体独自の講師を雇うにも限界がある、もちろんすべての教員に自治体で勝手な手当をつけるわけにはいきません。
 人数も給与も増やせないなら仕事を減らすという方向もありますが、自治体にできるのはせいぜいが報告書の形式を簡略化するくらい。「我が県の特色として、英語の時間を倍にします」はできても「半分にします」はできないので結局のところ教科をはじめとする学習内容は不触領域のままおかれます。
 
 「部活動の外部移行」は政府も推奨し教員からの希望も多く、ここなら多く手をつけられるだろう、それこそ早く手をつけてくれとの声も多いが、冗談じゃあない、「地域ボランティアの活用」「社会体育への移行」と、この十数年に二度も必死の努力を繰り返したのに部分的にさえ成功していない、それどころか現職教師を「定額働かせ放題」から「正式なボランティア」に昇格させたのが関の山――。
 
 そうなるとラッピングバスだの試験の前倒しだのが、いかに独創的で効果的なものか、分かってもらえそうなものだ・・・そう自治体職員は嘆くに違いありません。

【世間は諦めたが、自分のことは諦めない】

 私はもう教員採用試験の競争率を上げることに何の興味もありません。教員免許更新制が始まったころから、これはたいへんだ、教師がいなくなるぞ、そうならないためにはああしよう、こうしようとさまざまに言ってきたのに、社会は何も変わりませんでした。

 これほどの危機にも関わらず、一部の人々は部活動の外部移行だの定額働かせ放題の元凶「給特法」の改正だの、できもしないことに夢を描いています。また別の人々は「いや問題はむしろ教員の質の低下だ」「その前にブラック校則を何とかしろ」「ワイセツ教員をなくすことが先決だ」「PTAは時代遅れだ」などといった話をしています。

 私は根に意地悪なところを持っています。もうこれからはあれこれ言わず、至宝のような日本の学校教育が原状復帰できないまでに崩壊するのを、このまま見ていましょう。私の一族には教師や元教師がいっぱいいますから、自分の孫やひ孫についてはもう学校はあてにせず、私たちだけできちんと育てていこうと思います。

 あ、教員採用試験の競争率ですか?
 大丈夫です。来年度から始まる定年延長制度のおかげで、向こう十年間は毎年大勢の現職老教師が残ってくれます。その分、採用枠が減るわけですから、競争率が今よりも大きく下がることはないでしょう。