カイト・カフェ

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「生活環境を整えないと教員の性犯罪は減らない」~教師と性犯罪④ 

 教員の性犯罪が後を絶たない。
 だから自覚を促そう、厳罰化しよう、前歴を調べよう――。
 しかし普通、問題があると元具体的な原因を探って対処しようとしないか?
 実は原因も対処法も、政府やマスメディアは分かっているのだ。
 しかし誰もそれをしない。したくないから意味のない対策に終始するのだ。

という話。f:id:kite-cafe:20210226071858j:plain
(写真:フォトAC)

【教員の自覚を問うのは最悪手】 

 一昨年(2019年)12月の新聞記事の一部に、こんな文面がありました。

長崎県教育委員会は今年度、公立小中高の全教職員約1万4千人を対象に「心と性に関するチェックシート」を導入した。選択式の設問で、「小児性愛」の傾向が自分にあるのか自覚してもらうのが狙いで、回答は回収しない。県教委の担当者は「自分の行為をわいせつと認識していない教員にいくら研修をやっても届かない。自覚させることで問題の根絶をめざす」と話す
 私はそうとうに頭にきて、これを取り上げそこそこ長い文章を書きました。

kieth-out.hatenablog.jp 失礼にもほどがあります。それに「自覚に訴える」指導は何の打つ手もなくなった最後に繰り出すもので、効果のあった例がありません。長崎県教委の試みは、教師の意欲を挫いただけで終わったことは容易に想像できます。

 どんな問題にも原因追求には標準的な手順というものがあります。まずやるべきは実態調査です。
 無銭飲食だったら犯人の懐具合、暴力事件だったら両者の言い分、自転車盗ならその必要性――。そして性犯罪だったら昨日の「風俗に行けば?」も含めた「他に方法はなかったの?」が最初です。
 「オマエの自覚はどうなっているんだ?」は調査ではなく説教です。

 【悲しいほど明らかな問いと答え】 

 性犯罪の原因追求でその人の性生活を問うのは正しい方向です。具体的に言えば、
「家では満足できなかったの?」
ということです。

 しかしその問いかけを思いついた瞬間に、私の頭の中には「これはダメだ」と答えも出てきてしまいます。
 日に15時間も働いて土日も出勤する教頭を始め、毎月100時間も残業をした上に持ち帰り仕事までする教師の現状では、性生活どころか家庭生活自体が危機です。

【独身教師の生活】

 私自身を振り返っても、独身時代は朝6時30分までに学校に出かけ、基本的には8時45分までは学校にいました。なぜ8時45分なのかというと、そこから飛び出してレストランに飛び込むと9時のラストオーダーに間に合うからです。万が一遅れると、24時間営業のコンビニなどない時代ですのでアパートに帰ってのインスタントラーメンだけになってしまいます。明らかに9時を過ぎる場合は、逆に早めにレストランへ行ってから学校に戻るようにしました。もしかしたらそうした時間の使い方の方が多かったのかもしれません。
 そんな生活が毎年240日(当時の授業日数)も続いたのです。

 土日や長期休業中はずっと楽で、部活動も公式試合や練習試合でなければ午前中で終わります。あとは部屋の掃除や洗濯をし、翌週あるいは新学期の準備をすればいいだけですから生活自体は難しくありません。しかしこれでは恋愛はできないでしょう。

 まず出会いの機会がありません。あっても継続的な交際というのが難しい。少しでも時間ができたら、溜まっている仕事を進めておきたいのです。仕事を後回しにすればあとが地獄です。次から次へときますから。
 ですからがんばってデートの時間を生み出しても月に1回程度。そんな不誠実が長続きするはずもありません。教職員の結婚が職場結婚中心になるのはそのためです。

 もっとも職場結婚には大きな利点があって、そうでなければあとの生活が大変になります。
 超過勤務手当も出ないのに果てしなく働くという教師の働き方が、配偶者に理解されることは稀なのです。夫のみが教員という場合は妻を専業主婦にして乗り切りますが、逆の場合は夫婦間の確執のタネとなります。「家事を全部夫に任せて自分は仕事」というふうにはなりにくいからです。
 

【既婚教師の生活】

 私自身の結婚については改めて書くこともあると思いますが、知り合って3年目に、とりあえず籍をだけでも入れておこうという形で果たしました。一緒に婚姻届けを出しに行ったのが4回目のデートです。平均すれば1年に1回しか会っていないわけですから七夕婚みたいなものですが、それほど愛し合っていたというのではなく、互いにタイミングを計っていたら先がないことが分かっていたので勢いでやってしまったわけです。

 半年の別居婚を経て4月に同居を始めたらすぐに上の子ができて、その子が2歳になったころから私が9時までに寝かせつけてそのまま寝落ちし、午前3時から持ち帰り仕事。妻は家事を一通り済ませると午前0時か1時ごろまでの持ち帰り仕事。夫婦一緒に寝室にいるのは深夜の2~3時間ほどですが、睡眠時間が重なっているだけで話をすることもありません。
 それが常態になると、どちらかがその気になっても声をかけるタイミングがわからなくなってしまいます。

 以上が私の性生活の簡単な描写で、それがすべてです。夫婦になった経緯は特殊ですが、あとは似たり寄ったりでしょう。
 若い独身の先生たちはいつまでも学校に残って仕事をしていますが、既婚者は同じ量の仕事を家に持ち帰ってしているだけなのです。

 幸い私は教職が好きでしたし、育児という強力な趣味を持っていましたから性犯罪に陥ることなく教員生活を終えることができました。しかしいつだって崖っぷちにいたことは間違いありません。

 【生活環境を整えないと教員の性犯罪は減らない】

 おそらく政府も地方自治体もマスコミも分かっているのです。
 若い独身の教員が週末のデートを心待ちにして、既婚者たちが夫婦の時間を楽しみ、仲良くできる生活環境を整えないと教員の性犯罪は減らない。
 
家族や家庭が命を懸けても守るべき価値でなくなったら、ひとは何をしでかすか分からない。
 しかしそれを認めると、いま新たに進めようとしているプログラミング学習や小学校英語、リモート学習などを撤回するか、教員を大幅に増員するしかなくなります。
 それは両方ともできない。だから個人の資質を問題にし、自覚に訴えるしかないのです。

 教員の働き方改革によって、これまで学校で支え励まし合ってきた若い独身の先生方が、仕事を抱えて家に帰されるようになります。これからは独りぼっちで鬱々と机に向かうわけですから、これまた心配なことです。

 しかしそうは言っても性犯罪を犯す教員は少数で被害者もわずかで、だからその程度の犯罪は我慢しましょうと、教職員と児童生徒・保護者以外は思っているのかもしれません。

(この稿、終了)