カイト・カフェ

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「何が教頭を性犯罪へと仕向けたか」~教師と性犯罪②

 教頭という地位ありながら、50歳を過ぎて初めて性犯罪に手を染める、
 その重大さを考えてみる必要がある。
 なぜ教頭は突如、性犯罪者になりしか。
 そこには「もともとの小児性愛嗜好」では済まない何ものかがあるのだろう。

という話。f:id:kite-cafe:20210224070850j:plain(写真:フォトAC)

【なぜ教頭は突如、性犯罪者となりしか】 

 一昨日は「教員は犯罪と極めて親和性が低く犯罪者となりにくい。それなのに性犯罪だけは世間並みで、相対的に跳びぬけて多いと言うことができる」というお話をしました。

 しかしもちろんネット上で言われるように「教員には小児性愛者が多い」ということにはなりませんし、教員採用のシステムが選択的に性犯罪の傾向のある人間を拾い出しているとも思いません。
 ここ10数年について言えば社会の目も厳しくなり、厳罰化が進むとともに「非違行為根絶のための教職員研修」みたいなものも山ほどやっているのです。それでもなくならない以上、別の方面からも考えてみる必要があります。

 さらに一昨日お話しした神奈川と静岡の教頭先生のような例、若く担任を持っていたころの評判はものすごくよくて、だから管理職なったはずが、おそらく50歳を過ぎて初めて破廉恥罪に走ったということの重大性を考えなくてはなりません。
 ことさら教頭にこだわるのは、この職にある以上、若すぎるほど若いということはないし、一応の身辺調査はできているだろうし、校長とともに学校の看板を背負っているという意識は多少はあるだろうしという意味であって、必ずしも人格者だと思っているわけではありません。

 しかし人はどうしたらこんな犯罪者になるのでしょう?

【私が悪事を働くとき】

 私自身のお話をしましょう。
 酒が弱くて中ジョッキ1杯で顔が真っ赤になります。それからもう一杯ビールをお代わりしてウイスキーに変え、ダブルを2~3杯飲むとそれで終了。息が苦しくなって足元もふらつき、以後一滴も飲めなくなります。
 だから友人と一緒のときも1次会のみ。乗る電車が1時間に1本しかないのを気にしてさっさと切り上げて帰宅します。もっともこの一年間は、コロナ禍でそれもないのですが――。

 ところがタイミングが合わないと駅で電車待ちをして家に戻るまでに1時間以上もかかってしまうことがあります。そして帰宅後コンピュータでメールなどのチェックをしていると元々入っている量が少ないので酔いが醒めしまい、そこから飲み直しということなります。そのウイスキーが底なしなのです。
 私としては酔って倒れ込むように眠りたいのですが飲めば飲むほど頭が冴えてしまい、眠れる気がしません。コンピュータに向かいながらそのまま720mlのボトルの半分も空けてしまうことがあります。

 今なら2時過ぎまで飲んでも翌日の午前中ずっと調子が悪いだけで済みますが、20代で独身の頃はその「飲んでも酔わない」時間を外で過ごしていました。具体的に言えば夜の8時過ぎにはいったん潰れた私が9時過ぎには復活して、あとは延々と飲み続けるわけです。その時間が「私が悪事を働くとき」でした。

 悪事と言ってもその店で知りあったばかりの女性を口説いたり、いつもはしない後輩への説教を延々としたり、路上にあったお店の看板をアパートへ持って帰ったりといった他愛ないものばかりでしたが(看板は他愛なくないな)、いずれもシラフの私だったら絶対にやらない、絶対にできない行為です。それが平然とできる。普段よりもむしろ明晰な意識をもって行えるのです。羞恥心や道徳心が見事に抜け落ちてしまっている――。

【何が彼を性犯罪へと仕向けたか】

 私の破廉恥と不道徳は今のところ飲みすぎた場合だけですが、全く異なる原因よって同じ現象が起こる可能性はないのか?

 それについて、精神科医国際医療福祉大学大学院の和田秀樹教授は、『精神科医「高学歴な人が性犯罪に突然走るワケ」 -「脳の誤作動」で理性は簡単に壊れる』(2019.10.13 PRESIDENT Online)という品のないタイトルのネット記事で、次のように書いています。
 欲望を実際の行動に移さないような機能が人間の脳には備わっている。それが理性であり、脳科学者たちはそれが大脳皮質、とくに前頭葉の働きだとしている。
 年齢を重ね、高齢者になると次第に前頭葉が委縮し、その機能低下が起こる。そのため腹が立った時に衝動が抑えられずに暴言を吐いたり、暴力を振ったりする人が増える。これが暴走老人のメカニズムと考えられている。

(中略)
 だが、脳委縮がなくても、一時的に脳機能の低下を引き起こすことがある。原因となるのは、寝不足や薬やアルコールの影響、ストレスなどだ。そうした状況で人は普段は抑えている欲望が抑えきれなくなって、行動に移してしまう。

 そして事件を起こして来院した二人の男性に対するアドバイスとして、次のような話をしたと記しています。
「あなたの欲望そのものは、誰にもある類のもので、異常と悩むことはありません。しかし、ストレスや寝不足で、行動に移してしまったということは、ストレスや寝不足に弱いタイプなのかもしれません。それを肝に銘じて、なるべく、ストレスをため込まないようにし、過労を避けるようにしてください。あと、アルコールを飲まれるときも、外でなく、家族とご一緒のときがいいと思います」

 教員が性犯罪で逮捕されたとき、その動機として一番持ち出されるのがストレスです。
 静岡県で二件のわいせつ目的誘拐事件を起こした教頭も、
仕事のストレスがあり、弱いものを虐げたいという気持ちがあった」
「職場でパワハラモラハラがあった。学校や教育委員会に迷惑をかけようと思った」

と発言をしています。しかしストレス反応の分析は間違っていると言えるでしょう。
 ストレスによって募ったイライラを虐待によって解消としたというよりは、ストレスによって正常な判断が抜け落ちたという方がむしろすんなりと腑に落ちるからです。

【脳や心の中を調べずに問題は解決しない】

 だからと言って許されるものではなく、裁判でも心神耗弱の認定を受けたり情状酌量の材料になったりすることはないでしょう。それでかまいません。ただし「ストレスによる破廉恥、不道徳」という主題は、今後、教員の性犯罪を防ぐという観点で一度は検討されなければならないものだと私は思うのです。

 教職は精神疾患による休職者を年に5000人以上も出す苛酷な世界です。中学校教員の8割が過労死ラインをはるかに超える月100時間超の残業に耐えています。その中にあって教頭(副校長)は毎日15時間以上、月に200時間もの超過勤務をしているのです。神経のすり減らし方も尋常ではありません。その頭の中、心の中で起こっていることの分析なしに、教師の不祥事を語ることはできないと思うのです。

(この稿、続く)