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「西暦2000年、東京都の挑戦」~教員の給与と出世②

 20世紀の最後の年 東京都は思い切った教育改革に乗り出す
 そのひとつが校長・副校長を置いて強い権限を与え
 その下に主幹教諭を置いてピラミッド型の組織を構成しようとするものだった
 しかし他の道府県は容易に追従しようとしなかった
 どうしてか――

という話。

f:id:kite-cafe:20191106084853j:plain(「東京都庁」PhotoACより)

 

【地域によって制度は違う】

 昨日紹介した教員の給与と身分に関するネット記事「副校長42万円、校長45万円…『小学校教員の平均給与』調査」には一般的ではない部分がかなりあります。筆者の勤務地である東京都特有というより、細部になると教育制度は各地方自治体ごと少しずつ違うということです。

 例えば、
(教員の)役職には教諭、主任教諭、指導教諭・主幹教諭があり、経年によって受験資格を得ます。その権利を得た後、希望者は受験をして昇任していく形となっています。役職が上がればその等級も上がっていくわけです。上記以外には教育委員会で働く行政職として指導主事という職種もあります。
は、東京都の職制をよく説明していますが全国共通というわけではありません。

 

【統一されなかった校内体制】

 この制度は2000年ごろ、東京都が独自に始めたもので、一般企業と同じように職員の地位に細かな階層性を築き、給与と地位に差をつけることを通して、教員の意欲を引き出すとともに上意下達のしっかりした仕組みを作ろうとしたのです。

 国はその後2007年の学校教育法改正で
・小学校に、副校長、主幹教諭及び指導教諭(以下「副校長等」という。)を置くことができることとし、これらの職務を次のように定めた。(第37条第2項)
 (「次のように」の部分は略)
・副校長を置くときは教頭を、養護をつかさどる主幹教諭を置くときは養護教諭を、それぞれ置かないことができることとした。(同条第3項)
・第37条の規定は、中学校に準用することとした。(第49条)
という形で追認しました。しかし多くの自治体はすんなり東京都に倣うことをしなかった――というより真似ができなかったのです。

 職員の階層性を増やすためにはそれにふさわしい給与を保障しなければなりません。
 指導教諭には一般教員より高い給与を、主幹教諭にはもっと高い給与を、教頭、副校長、校長はさらに高給にということなのですが、そもそも一般職と教頭、校長の給与差が大したものではないので、その間に主幹教諭だの指導教諭だのを置いても十分な給与差がつけられなかったのです。もちろん教頭や校長の給与を飛躍的に伸ばすか一般教員の給与を大幅に下げればいいだけのことですが、財政的に、あるいは人材確保の上で、双方ともできることではありませんでした。
 そこで多くの自治体は組織改革を一部に留め、大幅な変更をしないまま2007年をやり過ごしてしまったのです。

 

【東京都の場合】

 他の道府県ができないことを、東京都はなぜできたのか。
 それは言うまでもなく、発展途上国はおろかヨーロッパの小国をもしのぐ潤沢な予算と当時の石原慎太郎知事の強力なリーダーシップがあったからです。
 石原都知事は「東京から日本を変える」と宣言し、「都立高校の統廃合・再編」「都立大学の改革」「心の教育革命」と称する国歌斉唱と国旗掲揚などとともに、この「学校経営・管理および教員人事管理政策」に取り組んだわけです。

 ただしいかに豊かな東京都とはいえ、一般教員が月額35万円なら主任教諭は40万円、主幹教諭が50万円、校長となれば月収100万円といたふう大きな差を生み出すことはできず、昨日から参照している記事によれば、
等級が上がったとしても、教諭から主任教諭だと月数千円、主任教諭から主幹教諭・指導教諭にステップアップしても月数千円~1万円弱程度アップの世界です。責任と仕事量は格段に上がるにもかかわらず、です。
といった程度でした。これでは意欲の高まりにも限度があります。得るもの(収入と地位)と失うもの(時間、エネルギー、同僚との仲間意識など)との間でも均衡が取れません

 その結果、都では他に見られない不思議なことが起こり始めたのです。
 それが校長の不足です。

                                                  (この稿、続く)