(パウル・クレー 「風景の一瞥」)
【災害時の72時間の壁】
かつて市町村を跨ぐ人事異動で新しい学校に赴任した時、着任校が避難所に指定されていることを知っていったいどんな仕事をしなければならないのか調べたら、まったく何もしないで済むと分かってびっくりしたことがあります。
市の職員が二人やって来て、避難所を開設してくれるのだそうです。
できるのか?
避難所の開設といえば災害の直前、または真っ最中、あるいは直後の最も慌ただしい時間帯の仕事です。市役所にはバンバン電話がかかって来て、あれにもこれにも対応しなくてはならない時間、しかも避難所予定箇所は市内に数十もあるのです。
人数をどう配分しても私の赴任校に回せる市の職員は2人、ということなのでしょう。
この件については以前、一度触れて「そんなことなら避難所の開設と運営は学校に任せろ」という趣旨の記事を書いたことがあります。
災害が起きて最初の三日間は、生存率が急激に低下する「災害時の72時間の壁」と言われる期間です。とにかく住民の命を守る、生き永らえさせるというのが最大目標で、やれ支援物資をどうする、ボランティアをどう配分するなどと言っていられません。
しかし四日目以降の活動を円滑に行うために被災直後の三日間にやっておくべきことは山ほどあります。
学校が避難所になっている場合は学校に任せるなどして自治体職員の人数を浮かせろ、というのも一案です(実は任せてもらった方が学校にとっても後々都合がいい)。学校内のことは先生たちが一番よく知っていますし、集団を管理したり動かしたりするのは最も得意とするところです。
それと同様に、支援物資の分配だのボランティアの配置だのといった未経験の仕事は、それに従事したことのある熟練者に最初からやってもらうのが理想的です。
そんな人はいるのか?
もちろんいます。昨日お話しした「プロ・ボランティア」たちです。
【ボランティア・コーディネーター・ボランティア】
被災した市町村は被災地ボランティアに経験豊かな職員を数名、庁舎内に残すとともに、支援物資やボランティアのコーディネートを行う、そのためだけのボランティアを募ります。いわば「ボランティア・コーディネーター」のボランティアを募集するのです。
広く集める必要はありません。できるだけ直近の被災地で、余裕のある市町村にお願いすればいいのです。
逆に言えばすでに基礎的な復興を遂げた元被災地は、新たな災害に真っ先に駆けつけられるようボランティアグループをセットで用意しておく、その上でできれば、元被災地の方から申し出る。全国知事会や市長会、町村会などを通して周知しておけばさらによいでしょう。どうせ「いただいた支援のお返し」という話になるのですから、手に入れた最高の経験を次の被災地に生かすのが、最も素晴らしい「お返し」になるはずです。
物資もボランティアも動き始めるのは三日目以降です。
ボランティア・コーディネーターはその間に被災地の全体把握をしたり避難所の数や規模の確認、支援物資の集配所の設置計画、ボランティアを有効に活用するための基本計画などを立てます。
そしてそれをコンピュータに入力していきます。
【被災地ネットワークの構築】
これは私が知らないだけの話なのかもしれませんが、多くの被災経験から、最初の三日間に必要なもの、四日目から一週間以内に必要になるもの、それ以降のものといった大雑把な見通しは分かるはずです。
もちろん「火事には火を持って行け、水害には水を持って行け(火事場は水浸しで火の気がないから燃料を持って行け、水害では水が濁って飲めないから飲料水を持って行けの意)」といった違いはありますし、季節によって必要な物品には大きな差があります。
しかしこれだけ大きな災害が続くと自然に理解される経験則というものがあるでしょう。あるいは災害に際してしばしばつくられる「祈念誌」や「報告」を分析するだけでもかなりのことが分かります。
「この程度の規模の災害だったら三日目までに飲料水は〇万本、紙おむつは〇千パック必要」とかいったふうに、大雑把な数字をはじき出すのはそう難しくないように思うのです。
さらに被災後、しばらくすると流入してくる物資やボランティアと、各地区・各避難所で必要とされるそれらの数を、コンピュータ上で照合することだって難しくないはずです。
あとは計算によって公平に分配された人やモノを、バイクや他の交通機関を使って分配するだけです。
現在のAIをもってすればそうした災害対応のフォーマットを作っておいて、被災地の状況に応じてカスタマイズするなど簡単にできると思うのですがいかがでしょう?
もっとも私が思いつく程度のこと、きっと誰かが既に考え、一部は実現しているかもしれません。
【災害支援の新たな仕組み】
東日本大震災で大規模な地殻変動が起こって以来、震度5を上回る大きな地震や火山噴火が頻発しています。
また昨日今日の異常高温も含め、「世界は異常気象が常態化する新たなステージに入ったのかもしれない」とも言われたりします。
ここしばらくは自然災害が頻発する困難な時期が続くのかもしれません。今回のことも教訓として、いち早い、合理的な災害支援の仕組みを作り上げてほしいものです。