カイト・カフェ

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「結局、金でしょ」〜学校における働き方改革の困った行方

 昨日の朝日新聞『登下校の見守り「学校以外が担うべき」 文科省が方針』 という記事が出ていました。

 文科省中央教育審議会の特別部会が、教員の長時間労働解消の方策として授業以外の11の仕事を、「教員のみが担える」「学校で教員以外が担うべき」「学校以外が担うべきだ」などに分類し、登下校の見守りや見回りについては「学校以外が担うべきだ」として保護者や地域住民の仕事として位置づけ、校内清掃は「基本的には教員以外が担うべきだ」として「合理的に回数や範囲を設定すべきだ」と提案したそうです。
 一方、給食指導は「基本的に教員のみが担える」に分類し、そのうえで教室ごとではなくランチルームで子どもたちが一斉に食べることなどによって、教員の負担を軽くできるとしたというのです。

【特別委員会の基本的な考え方】

 私はこうした記事の出たときはできる限り原典にあたるよう心掛けているのですが、今回の「方針」については出典を探すことができませんでした。
 文科省のサイトでは「学校における働き方改革特別部会(第4回)」が先週金曜日(9月22日)に開かれたことになっていますから、おそらくそこで話し合われたことなのでしょう。近々サイト上にもアップされるかと思います。

 ただこの話し合いの元となったであろう資料は、第三回特別部会のページにありましたのでリンクを貼っておきます(参考資料3 教員の行うべき仕事とは”指導文化”への挑戦と役割分担の検討(試案)(妹尾委員提出資料))注目は5ページの図版です。

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  どういう図かというと、まず縦軸に「子供の命・安全への関わり(高低)」をとり、横軸に「教員の専門性の発揮状況(高低)」をとります。
 そのうえで、命・安全への関わりが低く専門性も低いものはPTAや地域へ、命・安全性への関わりは高いが教員でなければならないというようなものでない場合は外部専門機関との協力で、その他を「教員のみが担える」仕事として学校に残そうというものです。

 なるほど専門家(学校マネジメントコンサルタント、アドバイザーだそうです)はこんなふうに考えるのかと感心しました。確かに道理です。

【学校に残っているものはすべて必要なものだ】

 ただし妹尾氏が分かっていないことは、学校のように歴史の深い制度が抱え込んでいるものには、それなりの必然性があるということです。

 これだけ多忙な世界になると不必要なものは自然になくなるか形骸化します。
 簡単な例で言えば30年近く前にとんでもない苦労をして作成した「全教科・全授業時間におけるカリキュラム」。今はそんなものがあったことすら忘れられているでしょう。
 あるいはこれも20年ほど以前、当時の文部省の突然の発案で作らされた「絶対評価の基準表」。カリキュラムより大変で、各学年厚さ5センチほど資料となって資料室の隅に眠っているはずですが誰も利用していません(使うためには必要な改定もしてきませんでしたから)。

 忙しい場所では不要なものは淘汰される、それが原則です。逆に言えば今学校に残っているものは基本的にすべて必要なものなのです。

「提出物のチェック、簡易な採点」は児童生徒の命・安全に関わらないし専門性も低いように見えるかもしれませんが、その子の学習状況を確認し問題の間違え方・思考の形を分析するのは専門性の高い仕事です。

「清掃」は教員でなくてもできる仕事です。しかし30人の子どもを平等に、時間いっぱい働かせる仕事は素人ではできないでしょう。「清掃指導」は極めて専門性の高い仕事なのです。

「学校徴収金の集金」はその子の家庭の経済状況、金銭に関する考え方、保護者の社会性を知る上でやはり必要な仕事です。全部を手放すことは難しい。

 もちろん必要なすべてを囲い込む必要ないので一部は外に出してもいい。しかし今度は誰が引き受けてくれるのかという問題が残ります。

【多すぎる仕事を誰にやってもらうか】

 教員の時間外労働問いとすぐにやり玉に挙げられる部活動。例えば吹奏楽の指導ができて、毎日夕方2時間ほど(土日はいずれか3時間ほど)指導に来てくれる人材を、吹奏楽部を持つすべての学校で揃えるなんてことは絶対にできません。
 全国にある中学校はおよそ1万。代表的な文化部である吹奏楽と合唱を合わせれば必要な顧問は1万を軽く越えるでしょう。運動系の部活はさらに多くの専門家を必要としています。

 普段の登下校の見守りはすでに外部委託(ボランティア)の進んでいる部分です。しかしその責任者であるPTA会長による誘拐殺人などという事件があって、むしろ学校に戻ってきそうな気配があります。

 いやそもそもPTA活動の負担の大きさから、脱会者が次々と出そうな状況で、さらに仕事をお願いするなんで、できることではありません。
 先生たちの仕事が多すぎるからPTAや地域住民にやってもらうというのはあまりにも安易です。内容によってはPTAを破壊し、地域を遠ざけかねないからです。

【結局、金でしょ】

 そうなると大量の予算を確保して、金で専門家を雇いやってもらうしかなくなります。

 「清掃」は児童生徒より清掃業者の方がはるかにうまくやってくれます。登下校の見守りや校内安全は警備保障の専門家に頼めばいい。テストの採点や分析はベネッセ・コーポレーションあたりに頼めば喜んで全国展開で対応してくれることでしょう。
 ただし金はかかる。

 願わくばそうした予算をもって正規の教員の数を増やしてくれる方がありがたい。その方がよほど安く、連絡も齟齬なく丁寧な仕事ができるに決まっているからです。

 結局、「仕事が増えて労働が過重なら人を増やすしかない」が原則であって、それをボランティアに頼もうなどという図々しい考えは、民間企業はもちろん普通の公務員でも考えないことです。

 アホくさい検討も、もういい加減に終わりにしてもらいたいものですね。