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「部活は教員の本来業務ではないのか」〜小学校教諭の約3割、中学校教諭の約6割が「過労死ライン」③

  月曜日に 、
 教師本来の仕事が教科教育だけだというなら、登下校の指導や深夜の見回り、万引き指導や校外で起きた暴力事件、いじめ問題への対応も「教師本来の仕事」ではありません。入学式や卒業式、修学旅行、給食指導だって本来業務ではなくなります 
 と書きましたがこれは少々筆が滑りました。
  言っていることに間違いはないのですが、そもそも「学校の先生の仕事は国語や算数・数学といった教科教育だけだ」と思っている人がそんなに多いわけではなく、道徳や総合的な学習の時間、あるいは入学式や卒業式・修学旅行といった特別活動は学習指導要領に規定された立派な教師の“本来の仕事”です。

【部活動は教師の”本来の仕事“なのか】

 問題は登下校の交通安全指導や深夜の見回り、校外で起こる万引き暴力事件あるいはいじめ問題に関する指導、そして部活動が教師の“本来の仕事”と言えるかどうかということですが、その中で部活動についてだけは学習指導要領に記載があります。 
「生徒の自主的,自発的な参加により行われる部活動については,スポーツや文化及び科学等に親しませ,学習意欲の向上や責任感,連帯感の涵養等に資するものであり,学校教育の一環として,教育課程との関連が図られるよう留意すること。その際,地域や学校の実態に応じ,地域の人々の協力,社会教育施設や社会教育関係団体等の各種団体との連携などの運営上の工夫を行うようにすること」第1章総則―第4 指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項―2−13)。
*新学習指導要領(平成29年3月公示)でも似たようなものです(第一章総則―第5 学校運営上の留意事項―1−ウ)。  これを読む限り部活動も「学校教育の一環として」ですから教師の“本来の仕事”です。少なくとも勤務時間内の部活動についてはどの先生も異論のないところでしょう。しかし現在のように部活動の多くの部分が勤務時間外に行われている現状を考えると、やはりしっくりこない面があります。“本来の仕事”の大部分が時間外にあるというのが引っかかります。
 

【教職調整額の罠】 

 ここで意識しなくてはならないのが「教職調整額」です。これについては文科省のサイトの「教職調整額の経緯等について」に詳しいので是非とも読んでほしいのですが、簡単に言うと、
 教員は、勤務態様の特殊性があり、一般行政職と同じような勤務時間管理はなじまない。 ので、
  教員の勤務態様の特殊性を踏まえ、教員については、勤務時間の内外を問わず包括的に評価した処遇として、①時間外勤務手当を支給しないこととし、②その代わりに、給料月額の4パーセントに相当する教職調整額を支給 する、つまり教師の時間外勤務は計算不能な面があるから一律に手当てを支払うということなのです。

f:id:kite-cafe:20191207210833j:plain これによって教育上必要と考えられるすべての活動は、無限の勤務の中に含まれることになりました。そして手当がなされている以上、勤務時間外に行うものであってもすべての活動は教員の“本来の仕事”の枠に入れられてしまったのです 。

【しかし時代はあまりにも変わってしまった】

 時間外に行うテストの問題作り・採点、学級だよりの作成や通知表作成――そういった教師として当然やるべき仕事と同様に、先ほど上げた校外における生徒指導も部活も同じく “教師本来の仕事”です。 
 ただし、「調整額があるから部活を果てしなくやれ」という管理職はいません。それどころか登下校指導や深夜の見回りなど勤務時間外に行う普通の活動についても「調整額があるからやりなさい」と命じることはありません。それはやってはならないことだからです。 

  なぜかというと前述の「教職調整額の経緯等について」の最後にあるのですが、給与の4%は昭和41年度に文部省が実施した「教員勤務状況調査」の結果(一週間の超過勤務時間が小中平均で1時間48分=月8時間)をもとにして算定しているからです。 
 したがって管理職が調整額を盾に勤務を命じると教員は当然「では月に8時間分だけやらせていただきます」ということになりかねません。それでは学校は回っていきません。 
 そこで時間外の指導が必要な場合、管理職は「お願いします」という頭を下げるしかないのです。
  先週のNHK「金曜イチから」でスポーツ庁の官僚が、 
「校長が職務命令としてお願いできるのは『部活の顧問をしてください』というところまでで、『残業してまで部活の顧問をしろ』とは命令できません」 
と言うのも同じ意味です。

「金曜イチから」に出演していた名古屋大学の内田良准教授はその点を問題視します。 

 そして暗に調整額を止めて普通の残業手当にせよといった方向に誘導しようとします。きちんと残業手当がつけば管理職は労務管理を厳しくするようになり、時間外勤務は縮小すると考えるのです。
 
しかし現実には不可能です。 

 実は10年ほど前、「働いても働かなくてももらえる」ということでヤミ給与あつかいされるようになった調整額を是正しようとして、当時の文科省が計算をしたことがあるのです。ところがその時点で教員の超過勤務は月35時間。当時の調整額予算1800億円をはるかに越えて5000億円も払わなくてはならないという試算になってしまったのです。 
 そしてそれが今や「小学校教諭の約3割、中学校教諭の約6割が『過労死ライン』(月80時間超)」なのです。今のまま残業手当支給に変更したらどんなに切り詰めても教育予算は破たんしてしまいます。

  だいぶ長くなりました。今日はここまでとしましょう。
  結論を言えば、内容的にも制度的にも部活動は教師の“本来の仕事”の一部です。しかしそれを“本来の仕事”として受け入れるには、教師の仕事はあまりにも膨大になってしまったのです。
(この稿、続く) 

 *ひとつ言い忘れました。 
 「教職調整額、給与の4%」はよく言われることですが、それが金額でいくらかということについてはあまり語られません。一般に教員給与は高く見積もられているので、4%といってもけっこうもらっていると思われるフシもあります。
  そこで初任給をもとに考えてみるのですが、平成28年度の教員の初任給はほぼ24万円。そこからはじき出される調整額はたった1万円弱です。 
 校長と言えど平均給与は45万円ほどですから調整額も1万8千円程度。 
 過労死基準ギリギリの超過勤務(月80時間)をしていると考えると時給225円。校長クラスでこうですから他は何をかいわんやです。 「調整額もらってるんだから文句を言うな」と言えるレベルではありません。 
 あ、校長は教員ではない(*1)ですから調整額は出ませんけどね。