「セーフティネットとしてのPTA」~PTAについて改めて考えた②

 PTAというのは学校の欠けたる部分を補助する組織だ。
 それを任意団体だから入るも入らないも自由だ、というのもしっくりこない。
 学校からすればあれば有り難く、なければ教員がやるか放置されるだけだ。
 だから私が副会長(校長)だったら、保護者にはこんなふうに話しかけるだろう。

という話。

(写真:フォトAC)

【PTA副会長がご挨拶申し上げます】 

 皆さんこんにちは。ただいま紹介にあずかりました副会長のT****です――とは言っても先ほど入学説明会であいさつした校長のT****ですから、よもや忘れておられないでしょう。本校のPTAは三人目の副会長が私ということになっています。PTA=ペアレントティーチャーの組織の、教師側の代表者ということです。

 さて、いま会長さんの方からお話があったように、PTAは任意団体ですから何が何でも入らなくてはいけないというものではありません。ですから「私には関係ないワ」とおっしゃる方は今すぐに席を立ってくださってもかまいませが、それでもせっかくいらっしゃったのです。とっておきの情報もありますので、よかったら最後までお付き合いください。

 さて、すでにお兄ちゃんお姉ちゃんが本校に在籍している保護者の皆さんはご存知かと思いますが、PTAの活動というのはこれがけっこう面倒くさいものなのです。
 学級PTAでは参観日のたびに担任の先生と相談して懇談会のテーマを決め、予め進行計画を立てて話し合いをしなくてはなりませんし、資源回収では各地域の人員を把握して移送のためのトラックや乗用車を手配しなくてはいけません。 
 運動会では駐車場係や運営のお手伝い。前日準備では万国旗を張ったり周辺の草取りをしたり――あ、グランドの端にある入場門、あれは毎年PTAの皆さんがつくってくれるものだって知っていました?
 PTA作業ではプールの清掃や廊下の壁塗り、日ごろは子どもにやらせられない窓ふきだとかトイレの徹底清掃だとか、せっかくの休日を丸々使って働かなければならないのですから、ほんとうにたいへんです。
 もちろん任意団体なので、何が何でも加入しなければならないというものではありませんが。


【意外と気持ちにひっかかることも多い】

 おっとすみません。目立つところで朝の交通当番、あれを忘れていました。横断歩道で安全を確認して、子どもを渡してやるあの仕事です。あれ、年に3回くらい回ってくるのですよ。
 7時半から8時くらいまでやってそれからの出勤ですから、お勤めをされている保護者はたいへんです。
 おまけに通りかかった車がスーッと止まって、窓から顔を出したママ友が、
「あ~ら○○さん。交通当番? ご苦労様。私はPTAに入っていないからいいけど、入っている人はたいへんよねェ。これで雨でも降っていたら最悪! でも大事な仕事! 頑張ってね、ウチの子もよろしく~!」
 なんて言われたら殺意が芽生えますよね。横断歩道が血に染まる・・・。

 冗談はさておき、立場を変えて、皆さんがPTAの会員でなく、うっかり知り合いが当番をやっている道路に入ってしまったとしましょう。どうします?
 まさか先ほどふざけて言った保護者のように「ご苦労さま! うちの子もよろしく!」なんて言わないとは思いますが、何となく通過しにくい、顔を見られたくない、そんな感じですよね。だって相手は会費を払ったうえに当番なんかやっているわけですから、平気で通過するのは難しそうです。

 ああ、通過するのは難しいと言えば、さっきお話しした運動会の入場門、あれだってPTAの前日作業のおかげだと知ったらなかなか通過しにくいものでしょう。知らなければ気にならないのですが、さっき私が話してしまいましたから皆さまご存知――。裏口から静かに入るしかありません。
 いやいや、もちろん入場門から堂々と入ってくださってもいいのですよ。何といってもPTAは任意団体、会に入るか入らないか、入場門に入るか入らないかは自由に決めていいのですから。

 それにPTAの会員がぐんと減って今のような活動ができなくなったとしても、実際にはそんなに困らないのかもしれないのです。プール掃除だって先生方が何時間かかろうとちゃんとやってくれますし、運動会の万国旗張りだって、どんなに夜遅くなっても先生たちがやってくれるに決まっているからです。
 学校の先生というのは、子どもの安全や成長のためならいくらでも我慢できる人たちなのです。運動会は子どもにとっての夢舞台。万国旗も入場門もない地味な運動会なんて、先生たちに我慢できるはずがありません。
 最近は心の病気で休職される先生たちが全国で毎年5000人以上にのぼります。早期退職の先生方もずいぶん多くなりました。みんな歯を食いしばって頑張っておられます。でも、もっと頑張ってもらいましょう。

 あ、そんな皮肉な言い方をしたからって、PTAに加入して一緒に支えてくださいという話ではありません。PTAは任意団体なのですから、入るも入らないも自由に決めてくださればいいのです。


【本当は自治体がすべきことも多いが――】

 ただ、資源回収での収入が備品や修繕に使われる他に、クラブ活動でも使われていることはご承知ください。本校には金管クラブと陸上クラブがありますが、4年生なってお子さんがいずれかのクラブに入る予定があるとしたら、多少は気を遣いましょう。自分が入会していないPTAの補助のおかげで、ウチの子が生き生きと活動できる、というのではどう考えても寝覚めがよくありません。
 ああ、もちろんだから入会しろという意味ではありません。

 おっしゃる通り備品や修繕やクラブの補助は本来、市のやるべき仕事です。プール掃除とかトイレの徹底清掃だとかも、業者に委託すればずっと丁寧にやってくれるはずです。ペンキの剥げた教室なんて学問の場として最低じゃないですか。それもPTAでなく、専門家に任せるべきでしょう。

 しかし「べき」では何も動かないのです。市だって予算はギリギリですからプール掃除に業者を入れろと言ったら「じゃあ、何を外すの? 図書費を半分にする? それとも校務員さんを2校兼務にしようか?」ということになります。ない袖を振らせることはできないのです。結局、先生たちで何とかするか、何とかできなければ放置するしかありません。


【特別な人間関係を持つ】

 先ほど会長さんは「PTAの活動は刺激的でとても面白い。人生の大きな転機となる」とおっしゃいました。私もそう思います。しかし同時に、私はPTA活動がつくる新たな人間関係にも注目します。
 “ママ友ならたくさんいるワ”とおっしゃる方もおられるでしょう。もちろんそれも大切な人脈ですが、PTAがつくる人間関係はその先に担任教師もその他の教師も、教頭先生も副校長も校長もいるのです。学校の敷居がぐんと低くなります。

 子どもの様子が少し変で不安な時、いきなり担任のところを訪ねる保護者がどれくらいいます? あるいは担任の先生に不信感を持った時、誰に相談すればいいのか、誰が話しやすいのか、分かりますか?

 私はこの世界に30年以上もいるのでよくわかるのですが、子どもの問題がまだほんの小さな“芽”くらいのときに、学校にドカドカと入り込んであれこれ言ってくるのはほとんどがPTAの役員の方々です。何しろ敷居が低いですから土足でも入り込めてしまうのです。そして問題が小さい段階ですから、あっという間に解決してしまいます。解決しなくても、将来の不安への準備ができます。
 自分はそんなにズカズカと学校にはいれるような人間ではないという方、もちろん性格は変えられません。しかしそういう友だちがいたら、何かと心強いでしょう? そしてそうした人と仲良くなるには、とりあえず一緒に活動するしかないのです。

 PTAで培った人間関係は校長・教頭に近いところにありますから情報も速い。
「ねぇ、ねぇ、ねぇ、校長先生がちょっと口を滑らしたんだけどさァ」
といった話は、特殊な人間関係の中でしか共有されないものです。


【子どものためのセーフティ・ネット】

 言いたいのは、PTAは子どものためのセーフティ・ネットだということです。いわば保険です。何もなければいいのですが、何かあったときには決定的に役に立つ、それが学校におけるPTAのひとつの側面です。

 会員になったところで、会費は取られるワ、仕事はさせられるワで、ロクなことがありません。たいていのひとはそのまま無事6年間を終えて、その意味では入会しないというのも選択肢のひとつです。しかし普通の人は若死にする予定がなくても生命保険に入りますよね? 大企業の社員でも失業保険には入っておく。それと同じで、万が一のことを考えると、会員でないことは保護者を大いに不安にさせるものです。

 さて、今日はPTA副会長として長いお話をさせていただきました。私や会長の話を聞いたからといっても無理に入会することはありません。PTAは何といっても任意団体ですから、入るも入らないも自由です。
 また、私の話は聞き流してもいいような軽いものですから、あまり深刻にとらえなくてもけっこう。外に行って「校長が、何が何でもPTAに入れといったような話をした」などとおっしゃらないよう、お願いいたします。
 入ってくださいとも、入りましょうとも申し上げませんでした。仮にそう聞こえたとしても、言ったのは校長ではなくPTAの副会長ですから、その点もよろしくお願いします(アハ!)。