カイト・カフェ

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「パニック vs パニック」〜わけのわからない人々のわけのわからない暴力・暴言

【学校の怪人】

 二十年以上前の話ですが赴任したばかりの中学校で、休み時間が終わりに近づいて“さあ教室へ行こう”と研究室を出ようとしたとき、
廊下から「ウグァオ〜〜〜!!」というとんでもない叫び声が聞こえ、
そのあとにダダダダダダダダッと数人が走ってくる音が聞こえて、
慌てて扉を開くと目の前を大柄の生徒が走りすぎ、
そのあとを3〜4人の男性の先生たちが追いかけて、
そのうちの一人が最初に男子生徒に飛び掛かり、
まず足を掛けて押し倒すと、残りの2〜3人が次々と上から覆いかぶさる

――そうやって上から押さえつけている間に一番下の先生が次第に袈裟固めの形に態勢を整え、
もう大丈夫、完全に押さえこんだという状況になってから、一人二人と身体を起こし、
袈裟固め”を残して周囲を取り囲み見下ろす感じになったのです。

 恐ろしかったのはその間、生徒の方は「ウグァオ〜〜〜!!ウグァオ〜〜〜!!」と獣のようなうめき声をあげていて、袈裟固めの先生が「よし! よし! よし!」となんとも説明しがたい声をかけている以外、何の音もしなかったことです。

 遠くで他の教室から飛び出した子どもたちが、私と同じように恐る恐るこちらを見ていましたがやがてやってきた教師に促されて教室に戻されます。
 そして十数分・・・というのは私の心象で本当はおそらく2〜3分、押さえつけられた生徒の息が整って次第に静かになってきたかと思ったら、まるっきり柔道の「参った」同じ要領で袈裟固めの先生の背中をパンパンと叩き、
「大丈夫だ、先生」
 それで終わりです。

 ほかの先生たちは黙ってその場を立ち去ろうとし、柔道もどきの二人は服についたホコリを叩き落とすと、“袈裟固め”先生は生徒を促し、相談室の方へ歩いて行こうします。
 私は唖然というか呆然というか、何か超常現象を見たような、キツネにつままれたような、ものすごく恐ろしくもの奇妙なものの目撃者になってしまったような、不思議な感じを受けていました。

 私以外のみんなの了解できていることが私には分からない、私だけが知らない何かがこの学校にある、とんでもない学校に来てしまった・・・。
――と、そこまでくればもうホラーですが、そんな私の様子に気づいた一人の先生が教えてくれました。

「いつものこと、時々起こる。殴ったり投げ飛ばしたりしたら体罰になるので、ああやって押さえつける、まあ正確な言い方をすると向こうが先に倒れて後ろから来た俺たちが将棋倒しになって重なり、それでしばらく動けなかったってことだな」
(どこが正確な言い方なんだ?)

【豊田議員の場合】

 これを思い出したのは「文芸春秋」10月号で、「ハゲーッ!! 違うだろうーッ!!」の豊田真由子議員が、ご自身の言動について、
「私が積み重ねてきた地元の方々との信頼関係が次々と崩されていってしまう。その恐怖で、パニック状態に陥ってしまったのです」
とおっしゃっていたからです。

 パニックによる暴言暴行。
 最初に挙げた中学生の例もそうですが、およそ信じられないような暴言・暴行・暴力・奇行の原因として考えられるひとつはパニックです。パニックだと考えるとうまく説明がつく場合が少なくありません。一時的に混乱しきって別人格にようになってしまうのです。

 先の中学生が柔道の“参った”をしながら「大丈夫だ、先生!」というように、豊田議員も「本当に自分なのか、いまでも信じられないほどです」と、暴言・暴行中の自分と、そこから覚めた後の自分を鮮やかに分けています。
 まるでパニックに襲われているときの自分と普段の自分は別人格だと言い出しかねない感じです。

 それは本人だけではなく、先ほど私が「何か超常現象を見たような、キツネにつままれたような、ものすごく恐ろしくも奇妙なものの目撃者になってしまったような不思議な感じ」と書いたように、周囲の人間から見ても同じ人間とは思えないような見事な切り分けになります。

【恐怖の連鎖】

 では人はどんな時にパニックになるのか。

 先の中学生はその後卒業までに、私の知る限り2〜3回同様の事件を起こしていますが、いずれも生徒指導の場で教師に追い詰められたときのことでした。教師が「もう一手で詰む、自白させられる」という段階になると「ウォー!!」と叫んで暴れまくるわけです。
 こちらも承知してますから頃合いを測って詰めているつもりなのですがレッドラインが不安定で、しばしば手元が狂い発症させたりします。

 豊田議員の場合は、
「私が積み重ねてきた地元の方々との信頼関係が次々と崩されていってしまう。その恐怖で」
とご自身がおっしゃっていますが、「文芸春秋」では続けて、
「ミュージカル風の節をつけて『次はどんな失敗が来るのかな〜』と言ったのも、ふぎけているのではなく、本当に次はどんな目にあわされるのか、恐怖のあまりのことでした」

「情報ライブ ミヤネ屋」では司会者宮根誠司さんなどは「そんなこと、全く信じられん!」と否定的ですが、私はあり得ると思っています。
 パニックというのは要するに個人または集団における突発的な混乱ですから、その後起こる事象は何であってもいいのです。暴力でも暴言でも奇行でも、泣き叫びであろうとミュージカル調であろうと。

 豊田議員の場合、直接の動機となったバースデーカードの誤配について、ある集会の席で機嫌を損なった役員から、
「『いつまで立ってんだ! 早く座れ、バカ野郎!』と全員の前で叱責されてしまいました」というようなことになっていました
 これについて議員は「意気消沈しました」と表現していますが、「恐怖で震えた」が正しい言い方でしょう。
 子どもと違って大人は他人から頭ごなしに怒鳴られることには慣れていません。豊田議員ほどのエリートであればなおさらです。その恐怖、慄きは、想像に難くないところです。

 日ごろから、
 Aさんは幾度となく、『わぎとではないか』と思えるほど失敗を繰り返していました。お願いしていた仕事について『しました』と嘘をつき、直前になって『していません』と言うことも何度もありました。
といった調子でしたから、こんな秘書のために自分の議員生命が脅かされるのはたまらないのです。

【秘書のパニック】

 しかしこうなると、元を質せばすべて被害者である元秘書が悪いということになりかねません。しかしそれも違います。

 高速道の出口を間違え、移動の道筋や時間を間違え、バースデーカードの名前が表裏で違っていたり、そのことを謝りに行くと言っておきながら謝りにいかなかったり、持ってくるべき資料を忘れたり連絡をし損ねたり――豊田議員の言い分を鵜呑みにするとまるで秘書として務まりそうにない人ですが、それでもこの世界で飯を食ってきた人です。そこまで無能ということもないでしょう。

 おそらく、豊田議員は身内に対して、自分で思っているよりははるかに恐ろしい人なのです。
「ハゲーッ!! 違うだろー!!」
ほどのことはICレコーダに録音された時が初めてにしても、それに近い口調で、それに近い表情で、似たようなことをしてきたに違いありません。

 先ほども書きましたが、
 子どもと違って大人は他人から頭ごなしに怒鳴られることには慣れていません。
 しかし「次にまた怒られたらどうしよう」「間違ったらどうしよう」という恐怖は、仕事の迅速さや正確さより、むしろミスを増幅させます。あれこれおびえている分、仕事は遅れます。報告すべき事柄も、怖くて後回しになります、特に失敗の報告は。

 結局、豊田議員という人は結局人間をうまく使うことのできない人なのでしょう。
 人の気持ちがわからない、人の動きが読めない。
 今ふたたび議員としての活動を始めようとしているみたいですが、そう考えることができるだけでも国会議員にふさわしくない人です。
 もう終わった人ですね。

 しかしそれにしても「文藝春秋」の中で繰り返される、
「ラインで聞いた」
「ラインで指示した」
 やはり気になりますよね。

(参考)

kite-cafe.hatenablog.com