カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「犯罪に巻き込まれる」Ⅳ〜イタリア奇行⑤


 翌朝、目を覚ましてLINEをチェックすると妻からの応援メッセージ、そして娘のシーナからは「LINEの画像のクレジットカードが心配なので、紛失届けを出しておきました。ユーロはまだありますね。足りないようなら円を交換するしかありません。盗難から5時間。心配です」という書き込みが――画像のことはこのときまでまったく思い出しませんでした。カードを使い慣れている人間とそうでない者との差なのかもしれません。
 LINEに載せた画像と言ってもおもて面だけで、裏の確認コードまでは曝していません。そんな状況でどんな不正使用が可能なのか――。しかし世の中には私の知らないこともたくさんあります。可能性としてはわずかでも、被害にあえば大きなものになるので仕方のないことです。帰国してから調べるとクレジット・カードの不正利用の一番は、番号の覗き見だとありました。やはりシーナは正しかったのでしょう。しかし心の準備のないところでカードが失効すると、少なくとも慌てます。
 確かにユーロは余り気味で多少の円も持っていました。しかしそれはもともとカード払いを前提としていたもので、それができないとなると一気に貧乏旅行です。手持ちの円を両替するやり方もありますが、手数料が20%となると気が進みません。
 そのとき手元にあった外貨は115ユーロ。成田でのレートで計算すると15870円です。そのうち最終日に支払わなければならない宿泊税36ユーロ(5000円ほど)を差し引いても1万円以上残っています。二人分とはいえ残り1日です。1万円もあればなんとかなる、それが日本の常識です。ところがイタリアではそうはいきません。
 とにかく円安と現地の物価高のおかげでいちいち値段が高い。一番安いパスタ2皿と水だけで16ユーロ(2200円)もするのです。街の屋台で最安値の二人分も12ユーロ(1600円)あまりです。

 幸い最後の見学地であるバチカン美術館は予約で支払いを済ませていましたし、バスや電車の三日券も持っています。必要なのは最終日の昼食夕食そして土産代だけ。その相手も最小に見積もれば5か所のみ。それなら何とかやって行けそうです。そしてその最後の一日を過ごし……。

 昼食はバチカンの路上でピザサンドと水、あわせて12ユーロ弱。テルミニ駅構内のスーパーマーケットで土産のチョコレートボックス(大2、小3、合わせて41ユーロ強)をチェックし、ホテルの枕銭に2ユーロ確保。これで残り19ユーロとなります。これなら夕食も食べられそうです。
 しかしここまで細かい計算になるとどれだけ節約するかだけでなく、逆に1ユーロもあまらせないぞといった妙な欲望も生まれ、夕食の選択も面倒になります。レストランでは結局ウェイターを呼んで、
「ボクたち、旅行の最終日で使えるお金は19ユーロしかない。で、スパゲッティを2皿と水(小さな方)が欲しいんだけど何か選んで」
みたいなことを言って19ユーロ未満に抑えてもらいました。パスタの最低価格は7ユーロですから、最低よりはマシな夕食です。

 しかしいい年をした親子の、ローマの最後の晩餐にしては、やはり寂しい気がしないわけではありませんでした。

(この稿、さらに続く)