カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「犯罪に巻き込まれる」(最終)〜イタリア奇行⑥

 旅先でものを盗まれることの損失は金銭面だけではありません。精神的な損失も大きいのです。
 とにかくせっかくの旅が面白くなくなる。忘れようと思っても気分の悪さが繰り返し戻ってくる。

 旅行のプランナーで終始ネットを通じて支援してきたシーナも「私まで落ち込みそう」と言ってくる。アキュラの落ち込みは最も大きく、前向きな気持ちをすっかり失ってしまった感じです。
 最終日の最大の見学地であるバチカン美術館でも、ほとんど立ち止まることなくさっさと進んでしまいます(もっとも前半のエジプト美術はイタリアのものでなく、続く古代ローマの彫刻やレリーフは前日までウンザリするほど見学してきたという事情もありました)。さすがにタペストリーの間に入るとスピードは落ち、ラファエロの「アテナイの学堂」やシスティーナ礼拝堂の天井画では、ずいぶん時間をかけ長いこと鑑賞に耽っていました。しかし表情はいつまでたってもさえません。

 私たちのローマ最後の晩餐でも「19ユーロまではいいから」と言っても「一番安いのでいい」と言って譲りません(ウェイターのお任せにしてしまったのには、そういう理由もあります)。やはり旅行の最後にミソをつけたという感じはありました。しかし逆に、だから学んだということも少なくありません。

 満員の地下鉄になんか乗ってはいけないとか、現在最も盗まれやすいものはスマートフォンだとか、やはりロックはかけておくことが必要だとか、危険な情報はケータイから繰り返し削除しておかなければならないとかいったことです。国際電話のかけかたや犯罪にあった場合の対応の手順、そういうことも学びました。
 iPhoneには現在「iPhoneを探す(Find iPhone)」というアプリがあって、設定しておくと他のiPhoneやPCから位置を特定することができます。しかし事前に知っていても、私が設定したかどうかは別問題です。
 シーナから「LINEの私の書き込みが“既読2”から上がらない」という連絡が来ます。妻と弟はLINEを開いたが私(のケータイ)は開いていない(だからカード情報は洩れていない)という意味です。“既読”はそういうふうにも読むのかと感心したりもしました。

 最後にチョコレート・ボックスを買ったときもちょっとしたトラブルがありました。

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 買い物に行く前に一応スーパーマーケットで値段をチェックし、ホテルに戻ってからアキュラがネットで調べると11ユーロあまりの商品を7ユーロほどで買える店を発見するのです。さらにその店がどこか調べるとつい先ほど行ったのと同じ店で、違うのは昨年の10月の情報だったこと。わずか数か月で1・5倍ほどになってしまったわけです。さらに夕食後その店に買いに行くと、同じものが0・5ユーロほど値上がりしていたのです。
 アキュラは「夜間料金か!」と驚きますが、小さな7ユーロほどの箱の方は値下がりしていて、全体としてはむしろ値下がり状態です。
 ちなみに、「最後は成田で、円で買い物だ」と思ってついでにローマの空港の免税店を覗いたら、同じチョコレート・ボックス(大)が21ユーロもしました。さらに1・75倍になっているのです。日本円に直すと1000円の品物が数か月で1500円になり、免税店に入ると3000円といった感じです。そういうことも突然の貧乏旅行にならなければ学ばなかったことです。

 盗まれて学んだことも少なくない。安くはないがこれも授業料として飲み込むしかない、そう思うことにしました。しかしそれにしてもこの授業料、もう少し安くても良かったなといつまでもウジウジしています。

(この稿、終了)