「検査のあれこれと最終ショック」〜ガン病棟より」④

 レントゲン写真はさまざまに何枚も撮ります(手術後はほとんど二日に1回の割合で撮影したので、『こんなに被曝してガンになったらどうするんだ』と思ったりもしました)。CTも撮影しなおしです。そして初めての検査として、MRIと骨シンチグラフィー(骨シンチと呼んでました)を受けます。いずれも転移を調べる検査です。

 転移・再発と言いますが本来、転移と再発は別の概念です。転移というのは例えば肺で発生したガンが肝臓や脳で成長すること、再発は治療が済んだにもかかわらず同じ肺の中で再度活動しはじめることをいいます。がん細胞というのは一言でいうと「弱くてしぶとい」細胞です。簡単に崩れ、大半は簡単に死ぬのにごくわずかがしぶとく生き残って再び活動を始めると、そんな感じです。ですから(どの時点からか分からないのですが)本来の病巣はどんどん崩れ、分散したガン細胞は血液やリンパ液に乗って全身に広がるのです。そして広がった先で大部分が死に(とにかく弱いですから)、少数が生き残って活動を始めます。再始動の時期は早ければ最初のガンが発見されるより以前(つまりこの場合はCTなどで調べると同時に発見されます)ということもあれば数年後という場合もあります。しかし5年を越えて転移・再発ということは稀(乳ガンのみ12年)ですから、治療から5年間生き続ければとりあえず“治った”と考えることができるのです。これが「5年生存率」の意味です。

 最初のガンが発見されたとき、すでにあちこちに転移しているようでは手術はできません。肺の病巣を取り去っても肝臓や脳に転移しているのでは手術の意味がないからです。また肺全体にガンが広がっているようなら、これも手術はできません。肺全部を取ることはできないからです。
 CTやMRIは全身のガンを発見するため、骨シンチグラフィーは骨への転移を発見しようというものです。

 MRIとCTは得られる資料の質が違うといいます。しかし見た目はよく似た機械ですし得られる画像もそっくりですので、素人目には何のためにするのかわかりません。ただし決定的に異なることがあります。それは音がすることです。ボンゴそっくりの軽やかな太鼓音で、“コトコトコト”と激しく打ち鳴らします。数年後再びMRIを取った時はボンゴとは違った印象を持ちましたからそれは機械の特性なのか初めて経験でびっくりしたからそう感じたのかは分かりませんが、とにかく楽しくなるような音でした。

 骨シンチグラフィー(骨シンチ)は違います。これは放射性の物質を注射してそれが骨に至るのを待ち、CTやMRIとはちょっと違った形の機械で撮影すると、骨格を点描で描いたような写真ができるのです。その“点”にばらつきがある部分に、がんが転移している可能性があるのです。そしてこの機械にはあきれた特徴がありました。それはスコットランドの民族楽器「バグパイプ」とそっくりな音楽を奏でることです。
 これには本当に驚き、感動しながら検査室をでました。ところが検査室の扉を閉めようとしたとき、骨シンチの機械の向こうに、とんでもないものを発見します。ポータブルのカセットデッキです。音はそこから出ていたのです。
 検査技師は何を考えてあんなところで音楽を流していいたのでしょう。演歌やロックだったらすぐに気づいたと思うのですが、バグパイプはまったくトリッキーでした。

 すべての検査が終わって数日後、胸部内科の科長で主治医の先生が陽気な表情でやってきました。
「Tさん、良かった。(ステージ)Ⅲじゃない、Ⅱだ。ずっといい」

 ステージⅢbで5年生存率8%、Ⅲaだと15%(当時)。ところがⅡだと40%。生と死はほとんど五分五分です。地元の病院でⅢaと言われ、病巣の長径3cmもあるCT写真を見せられて「これはダメだ、完全にアウトだ」と思ったときはよかったのですが、自分にも生きるチャンスがあると聞かされて初めて、私は死の恐怖に震えました。

 

(この稿、続く)