かつて「母親の胎内の音のレコード」というものが発売されたことがあります。心音と血流の音だけの不気味なレコードでしたが、それをかけると赤ん坊が安らいで眠るとかで爆発的に売れました。確かに生命として誕生してから9ヶ月間聞き続けてきた音ですから、安らぐというのも分からないではありません。
ところがそれからいくらもしないうちに、「安らぐのはいいが、赤ん坊をいつまでも(心理的に)母親の胎内に戻しておくのはいかがなものか」という話が出て、それもその通りだということで、あっという間に廃れてしまいました。たぶん、今はないと思います。
ところで、母親の胎内で胎児が聞いていたのは、果たして本当に心音と血流音だけだったのでしょうか?
激しいロックの音や、軽薄なテレビ番組のバカ騒ぎ、妊婦やその周辺の人々の嬌声・・・胎児が9ヶ月間聞いていたのは、そういう音ではなかったのか
ということです。
もしそうだとしたら、大昔の(例えば、八王子の寺の鐘が谷中で聞こえたといった)静けさの中で最初の9ヶ月を過ごした胎児とは、明らかに違った赤ん坊が生まれてくるはずです。
人類は進化を止めたかもしれませんが、変化はあいかわらず続けているのかもしれません。