カイト・カフェ

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「子どもを持つことについて、若い人の知らないことがたくさんある」~若者がもう子どもはいらないといい始めた②

 望んでも手に入れられなかった人、
 それがなくても十分な人は除こう。その上で、
 これといったもののない人は、「平凡な道」も閉じない方がいい。
 そこにあるものについて、キミたちの知らないことがたくさんあるからだ。
という話。(写真:フォトAC)

【まずは特別な人々の話】

 子どもを持つ持たないの話をするとき、最初に除外しておかなくてはならない二組の人々がいます。
 ひとつは縁や運に恵まれなかった人たちです。人生は思うに任せないものですから望んでも結婚に縁のなかった人もいれば、たいへんな努力を重ねても子どもに恵まれなかった人もいます。そういう人たちのことは大切に思っていますし、何かを言う資格が私にあるとも思えません。ですからこの人たちについては、そっと触れないでおきたいと思います。
 
 もう一組の人々は、結婚や子どもについて考える間もなく忙しく働いて、有意義な業績を残し、今も疾走し続ける人たちです。念頭には昭和の歌姫、中島みゆき松任谷由実のことがあるのですが、あの人たちは結婚をする必要も、子どもを持つ必要も全くなかった人たちです(と、勝手に思っています)。
 彼女たちの存在価値は誰の目にも明らかですし、後世に残す作品も山ほどあります。「何かを生み出す」という意味では子どもをつくるも曲を作るも同じ、という側面は確実にありますし、育てる大変さは子どもも音楽も似たようなものでしょう。
 ふたりとも子どもがなく、松任谷由実は結婚しましたが中島みゆきはしませんでした。結婚してもしなくても、子どもを産んでも生まなくても、どちらでもいい人たちです。

【平凡な人々は平凡な人生の可能性を棄ててはいけない】

 ただ、そうした才能や仕事に恵まれなかった普通の人々、つまり私のような凡人は、いちおう当たり前のように結婚して、普通に子をもうけ、普通に朽ちて行った方が楽という側面があります。いい悪いの問題ではなく、楽かどうかという話です。
 
 なぜかというと、私たちの多くは自分で思っているほどに個性的でも有能でもないからです。「何かお手本があること」「前例のあること」「当たり前と思われていること」は生きて行く上でけっこう有り難いのです。
 一度しかない人生、横道に逸れたり冒険をしたりということも大切ですが、疲れたら無理をせず、お手本を見たり前例に従ったり、ボーっと生きていたりする、そんな可能性がないと、緊張感の高すぎる人生に私たちはつぶれてしまいます。
 子育てに苦労しつつ子どもから喜びを与えてもらい、手が離れたら自分たちの人生を少々楽しみ、やがて親の介護に苦労し、いくらもしないうちに介護される側に回る――そういう平凡な人生は、少なくとも人間の、生物としての生き方に沿ったものです。破綻がありませんから失点の可能性も少なくて済みます。
 ですから凡人は、普通の人生を送る可能性を、安易に捨ててはいけないのです。
(もちろんそれが必要なら、ここぞというときに平凡な可能性をバシッと切り落とすのは一向にかまわないことです)

【子どもを持つことについて、若い人の知らないことがたくさんある】


《赤ん坊は金がかからない》

 若い人たちのあまり知らないことのひとつは、「子どもが子どもでいるうちは、案外お金がかからない」ということです。
 赤ん坊の着る物なんてたいていはおさがりで済みますし、ミルク代だって月々何万円もかかるものではありません。完全母乳だったら表向きはタダです。紙オムツも今はほんとうに安くなりました。
 また普通の感覚の持ち主なら家に子どもがいる状態で遊び歩いたりしませんから、その分、自分自身のために使うお金が少なくなります。それをミルク代やオムツ代に当てればいいだけのことです。
 戸惑うほどにお金がかかるのは18歳を過ぎてからのことで、それは計画的に貯金したり奨学金制度について十分学んだりしておきましょう。

《助けてくれる人はたくさんいる》

 子どもを持つことについて、若い人が知らないことの二つ目は、子育てを支援する仕組みは意外とたくさんある、ということです。
 地域には保健師さんが巡回していて支援組織も立ち上がっていたりします。子ども園や児童センター・学童保育、保育園・幼稚園・小学校・中学校、PTA。団地や新興住宅地に住んでいれば自然と立ち上がる同年輩のお母さんたちのグループ、親父の会。
 子育てを夫婦二人だけでやって行こうとすれば大変ですが、半分は社会がやってくれますし、まだまだ若い祖父母もあてにできます。小学校に上がるとさらに楽になり、中学生になると寂しいくらいにすることがなくなります。「親より金」みたいな時期に入りますから、貯金だけはがんばりましょう。

《大丈夫、親がダメでも子は育つ》

 三つめは、誰でも知っていることですが、「子どもは親の思い通りにならない」ということです。
 「私のような未熟な人間が子どもなんて育てられるのだろうか」と芯から生真面目なあなた、大丈夫ですよ。意図的に影響を与えようとしても子どもは思った通りになりません。それと同じで、子どもはあなたの未熟さを単純に背負って成長するわけではないのです。完成された大人のもとで育つのもいいですが、子として、親として、いっしょに育って行くのも悪くはありません。
 実際にはたくさんの人の影響下で育つわけですから、あなた影響なんて心配しなくていいほど小さいのかもしれません。それでも心配なら、早い段階から保育園に入れるとか、ジジババをどんどん頼るとかして、たくさんの人間を子どもの周辺に侍らすといいのです。人数が増えれば増えるほど、あなたの影響力は薄まります。

《触れば触るほど子どもは可愛い――それが本能だ》

 四つ目は――これがもっとも重要な件ですが、子どもは信じられないほど可愛い、ということです。子どもを可愛がる本能が、私たちのDNAにはすりこまれています。
 
 これに関して、現代の若者には不利な面と有利な面があります。
 不利な面は、昔と違って赤ちゃんと自然に触れ合う機会がほとんどないということ。兄弟が少ないですから年の離れた兄や姉の子どもの世話をさせられるとか、生まれたばかりのイトコがいるといったこともなく、隣近所に赤ん坊のいることも少なくなっています。学校の家庭科の、保育実習でしか小さな子どもに触ったことがないという子も少なくありません。ですから小さな子の無条件に可愛い様子を、経験する機会があまりにも少ないのです。
 
 有利な点は、「男性が家事・育児の半分を担うのは当然」という社会風潮が広まって来ていて、子どもが生まれるとかなり早い時期から男性も育児に参加させられることです。当然のことをするわけですから「させられる」は語弊がありますが、早く赤ん坊に慣れ、戸惑いや怖れを克服してしまうと、子どもは一気に可愛くなるものです。昔の父親はどう扱ったらいいのか戸惑っているうちに、子どもと触れ合う黄金の時を失ってしまいました。だから楽しさ・面白さも知らないのです。
 
 自分の時間がなくなるから子どもがいらないという若者たち――特に男性は、子どもの世話する楽しさ面白さを知らないからそう思うのです。ゲームのスキルを上げるのも育児のスキルを上げるのも同じように面白い。難度が高い分、後者の方がより面白い。 乳幼児のステージをクリアすると、子どもの方が未満児レベルにステージアップしてしまいますからまた別のスキルが必要。小学生の親であることと高校生の親であることでは、求められる技能が全く異なりますからまたスキルアップ。ゲーム好きにはたまらない世界ではないですか?