カイト・カフェ

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「『なぜみんなは、あんなに嬉々として親になっていけるのだろう』と思った日から」~若者がもう子どもはいらないと言い始めた①

 半世紀前の私は、
 結婚することにも、子を持つことにも怯える人間だった。
 「なぜみんなは、あんなに嬉々として親になっていけるのだろう」
 そして今、似たような若者が急増しているというのだ。
という話。(写真:フォトAC)

【あれほど不安だった私が親になった日のこと】

 中高生時代からの友人で、もっとも早く結婚した男はそのとき25歳でした。一浪の上で4年生大学を卒業していますから社会人2年目での結婚。いま考えても早いことは早いと言えます。その1年後、彼は父親になりました。

 同じ時期を私は、フワフワと雲の上を歩くような生活をしていました。アルバイト崩れの就職で、これといった希望も見通しもなく、要するに地に足のつかない生活を送っていたのです。そんな私から友人を見ると、これはもう信じられない奇跡の話で、20代も半ばを過ぎたばかりだというのにどうして一人の女性の運命を背負えるのか、なぜ父親になるなどといった大胆な決断ができたのか、不安ではなかったのか、恐ろしくはなかったのかと、さすがに本人に聞くことはしませんでしたが、到底信じられない気がしていたのです。
 なぜみんなは、あんなに嬉々として親になって行けるのだろう?
 
 それから10年近くもたった34歳の年に(とは言ってもあと半月ほどで35歳)、私も結婚し、36歳で1児の父に、40歳で2児の父親になりました。30代半ばになって、さすがに腰も座り、人生にも自信がついて来たころのことです。
 しかしそれよりも私に勇気を与えたのは、仲間も周囲の人々もほぼ30歳までに結婚して親になっているという事実でした。もう「親になるのが不安」などとは言っていられなくなったということです。そこまでみんなができることなら、私だってたぶんできるだろう――そんな気になっていたのかもしれません。

【半世紀前の自分が今、目の前にいる】

 ひと月ほど前の産経新聞ニュースに「大学生の19%子ども望まず 大幅増加、物価高影響か 就職情報サイト調査」という記事がありました。就職情報サイトを運営するマイナビの調査結果で、昨年同時期の13・1%から大幅に増加したとありますが、この1年の大きな変化となると物価高しか考えにくいので、そこで「物価高影響か」となるのですが、果たしてどうでしょうか。

 さらに注目すべきは、
『複数回答で男女に理由を尋ねたところ「うまく育てられる自信がない」(57・4%)が最多だった。次いで「自分の時間がなくなる」(51・5%)、「経済的に不安」(51・0%)となった』
という部分です。半世紀も前の私と大して変わりない、同じような人間が大勢いる、しかも私のころよりずっと増えているわけです。

【この記事は信用していいのか】

 もっともこの就職情報サイトのアンケ―トだけだとツッコミどころはたくさんあって、記事によると対象者は、
マイナビに会員登録している全国の大学3年生、大学院生」
ですから、その若さで「子育てに自信がる」「自分の時間は不必要」「経済的にも自信がある」と言い始めたら、「コイツ、現状認識できてんのか?」とかえって不信感が募ってくるに違いありません。
 
 ではこれがあまり信用できない調査かというと、対象者を広げたそれ以外の調査によっても――例えば18~25歳の若者の調査「2023年…若者たちの価値観」(2023.12.31 まいどなニュース)、あるいは18~34歳の調査『「子どもなんてほしくない若者」が急増しているのは「声なき若者の絶望」の表れ』(2023.09.24 Yahooニュース)でも、「子どもはいらない」とする若者が増えているという状況は変わりないのです。しかも後者によれば「子どもを望まない」傾向は、2005年(平成17年)あたりから急速に高まっていて、まったく揺らぐことがないのです。
 
 子どもを望まない若者が、特にこの一年間で急増したというマイナビの調査は、対象者が結婚や出産に現実感の薄い年齢・環境(大学生・大学院生)の者に限っていたからでしょう。物価高が緩和すればすぐにも下がる数値かも知れません。しかし全体傾向としてはむしろ、不可逆的に、確実に増え続けていると考えて間違いなさそうです。
 なぜそんなふうになってしまったのでしょう。
 (この稿、続く)