ChatGPTで遊んでいて気づいた。
いまや私は世界中の人々とメールのやり取りができる。
Voicetraを使えば、世界中の人々と会話もできる。
もはや学校で英語を学ぶ時代は終わっているのだ。
という話。(写真:フォトAC)
【子どもたちは文明に押し潰されそうになっている(!?)】
文明というのは、それまで人類が行ってきたことを道具や機械、システムによって代行してもらおうというものです。したがって文明が進むと、人間は楽に、豊かになるはず。それが必ずしもそうでないのはひとつの謎ですが、いま、文明人の最先端を走っているはずの小中学生が、昭和の私たちよりはるかに多くの学習を強いられているというのはどういうことなのでしょう?
現代の子どもたちは、小学生のうちから英語もプログラミングも習わなくてはいけないのに、相変わらずかけ算九九を覚え、漢字の練習をし、体育では走り、音楽では歌わされているのです。
それもこれも世界がグローバル化して英語の必要性が増したり、コンピュータなどという厄介なものが生れたりしたからです。そんなものがなければ昭和の子どもたちと同じように、令和の子どもたちも野山をのびやかに走り回っていたのかもしれません・・・と書きかけて、私はふと立ち止まります。
それはあまりにも不自然で不健康な状況です。子どもたちが文明のために押しつぶされそうになっているなんて!
【生成AIに文章を書かせるのも、何か違うことがある】
それに気づいたのはChatGPTと格闘している最中でした。私にはどうしてもAIがよく理解できないのです。
普通のネット検索と同じようなつもりで質問を送ると、次から次へといい加減なおしゃべりを始めることは経験済みです(*1)。ではどんな使い方があるのでしょう?
生成AIで高校入試の調査書を書き上げてしまおうという猛者の話が、ネットニュースに書かれていたことがありました。「生徒35人分の総合所見を書きなさい」と指示すれば、たちどころに書いてくれそうなことは分かります。しかしそれだけだと、いくらでも入れ換え可能な当たり障りのない文章が35人分並ぶだけです。
私立高校などでは面接もありますから、あまり空虚な文章だったり本人と合わなかったりすればすぐにぼろが出てしまいます。公立高校だってのちのちのことを考えれば、少しでも実態に近づけておかなければなりません。そこで情報を入れ始めるのですが、これがなかなか大変です。
「特に理数系の科目に強く、計算力・分析力・判断力はクラスでもトップレベル。しかし知識に偏するのではなく、むしろ実験や観察を好む。本人は国語が苦手だと言うが、説明文や論説文といった論理的な文章では、むしろ一般より高い能力を発揮する。音楽や美術にも好んで取り組んだ。数は少ないが友だちとの関係も良好で、クラス委員に立候補するなど、積極的で集団生活を大切にする気持ちも強い。総じて真面目で前向きな生徒である――そんな生徒についての総合所見を、200字以内で書け」
本文できっかし200字分の情報を入れておいて、あとをAIに依頼するのは、何か違うような気もするのです。
【どうやら外国語には強いらしい】
そこで考えて、「ああ和文英訳が得意らしい」と思い出し、英訳をしてもらうことにしました。文章は先日の特活に関するNHKテレビの番組で、桑子アナウンサーが読んだ一文です。
「その特活ですが、実は日本では縮小傾向にあることが今回分かりました。番組が専門家とともに都内の公立小学校を対象に調査しました。2023年度、学校行事をコロナ禍前と比べて削減したか聞いたところ『はい』と答えた割合が9割近くに上りました」
コピペでChatGPTに入れると英訳は瞬時でした。
"The special activities, as it turns out, have been revealed to be on a declining trend in Japan. The program conducted a survey targeting public elementary schools in Tokyo in collaboration with experts. In the academic year 2023, when asked whether they had reduced school events compared to pre-COVID times, nearly 90% responded with 'yes.' Additionally, concerning the sports day "
この英訳が正確かどうか、私には判断できないので、再びChatGPTに和訳してもらいます。
「特別活動は、実際には日本で減少傾向にあることが明らかになりました。プログラムは、専門家と協力して、東京の公立小学校を対象に調査を実施しました。2023年度、COVID前と比較して学校のイベントを削減したかどうか尋ねられた際、ほぼ90%が『はい』と回答しました」
ほぼ同じです。もしかしたらChatGPTがズルをして、私が最初に書き込んだ和文をほぼそのままなぞって来たのかもしれません。ですから本来は異なるAIに確認させるのが正しいやり方かと思いますが、現段階ではこれで十分でしょう。ちなみにドイツ語でも同じことができました。
この使い方をすれば、私はアメリカ人であろうとドイツ人であろうと、はたまたイタリア人でも中国人でも、ありとあらゆる国の人々とメールのやり取りができることになります。ビジネスであろうと娯楽であろうと、あるいは愛のささやきであろうと、自由自在です。
そこでふと頭に浮かんだ言葉がこれです。
「英語って、もう勉強する必要、ないんじゃないのか?」
【英会話は会議室ではなく、現場で学ばれる】
「しかし会話はムリだろう」ということには当然なります。否、そんなことはありません。自動翻訳専用機のポケトークはすでに80か国語に対応し、スマホアプリの「VoiceTra」は31か国語に対応してしかも無料です。
もちろん機械が間に入るわけですから、外国語を習得した人が現地の人々と丁々発止のやり取りをするような具合にはいきません。話は最後まで聞かなくてはなりませんし、いつも装置を持ち歩かなくてはなりません。電池切れも心配です。けれどそうした欠点を考えても、80カ国語の即時変換は補って余りある魅力でしょう。さらに言えば、一度翻訳機になれた人も、いつまでも装置に頼っているわけはないのです。
考えても見てください。インバウンドで賑やかな土産物店やレストランで、従業員たちはこの機械をどのように使うか――。
もちろん最初は「いらっしゃいませ」と装置に入力し、“May I help you?”と発声させます(*2)。しかしいつまでも同じ動きを繰り返しているはずがありません。“May I help you?”で通じる体験をした店員は、一日も経たないうちに自らの口で“May I help you?”と言うようになるに決まっています。間に機械を挟むのは面倒ですから。やがて数日中にフランス語や中国語など、数か国語で声をかけられるようになるでしょう。
さらに言えば土産物屋やレストランで客が従業員と交わす会話には限度があります。「これは何?」とか「もっと安くならないのか」とか「使い方はどうするの?」とか、そういった質問に答え、支払いの手順うをについてよほど親しくならない限り「今日の大谷の入団会見、見たかい?」みたいなことにはならないのです。仮になったとしても、面倒な会話が始まったらまた装置を持ち出せばいいだけのことです。そんなふうにして、おそらく一年以内に、だれでもかなりの数の外国語で接客ができるようになっています。しかも大部分が現場で覚えたいわば車夫英語(*3)ですから、発音は完璧です。
おそらく、すでに一部ではこうした「使える英語」が広がりつつあるはずです。さらにはそう遠からず、イヤホン型の翻訳機が開発され、私たちは外国人と日本語で話し、日本語で聞き取る時代が来るはずです。
【英語学習は昭和レベルで十分、プログラミング学習はいらない】
だから学校での英語教育をやめてしまえというのではありません。言語は道具であると同時に文化そのものですから、英語を学ぶということは英語圏の人々の考え方に慣れること、いわば教養です。したがって数学や理科、音楽や美術などと同じように学んでおく必要があります。
けれど小学校からやる必要はなく、ましてや高校の授業はすべて英語で行うと言ったレベルの高さも必要ないのです。もちろん語学に才能があって英語をやりたい人は続けていただいてけっこう。ただし皆で苦しんで時間を無駄にすることはない。
プログラミングも同じで、いまや簡単なプログラムならChatGPTがたちどころに書いてくれるそうです。コンピュータが人間を乗り越えると言われるシンギュラリティが発生すると、大部分のプログラムはコンピュータ自身が書くことになります。それなのに日本の子どもは全員が、プログラミングを学ばなければならないのです。そんなバカなことがありますか? プログラミング的思考を学ばせたいなら、数学の中でやれば十分でしょう。
そんな無駄な努力をさせるより、掃除の時間を週 5回に戻して日本人らしさに磨きをかけてもらう方が、その子にとってどれほど有益か計り知れないと、私は思うのです。
(この稿、終了)