「繰り返し英語教育について」

「Youは何しに日本へ」という番組が好きでときどき見ています。月曜日6時半からの放送です。

 少し以前ですが2月3日の放送に、ベルギーから芸能活動をめざして来日したという18歳と19歳のカップルが出ていました。本国の音楽市場はあまりにも狭いので日本でデビューするというのです。しかし実績はゼロ。作曲したゲーム用音楽を売り込むところから始めるという、何とも頼りない計画です。このあたりが日本の若者と決定的に違います。

 予約してある旅館も住所のみで名前も分からず、番地を頼りに都内を右往左往しているうちにお寺の境内へ迷い込んでにっちもさっちもいかなくなります。

 途方に暮れているとそこに庫裡から若いお坊さんが出てきて――ここからが本筋なのですが――とんでもなく流暢な英語で話しかけます。「場所が分からなくなってるの? 私が探してあげよう」といった感じです。

 やがて、おそらくそのベルギーの子の英語が下手なことに気づいたのでしょう、「フランス語の方がいい?」とか言って今度はフランス語でバンバン話を進めて行きます。ベルギーの公用語はフランス語とオランダ語なのです(一部ドイツ語)。なんて嫌な坊主でしょう。カッコウ良すぎます。

 これは東京都台東区谷中のお坊さんの話です。これが私たちの近隣のお坊さんだったらどうでしょう(別に〇〇寺がどうこうということではありません)。英語やフランス語がペラペラなお坊さん、その宝をどう扱うのでしょう。

 先日開かれた文科省有識者会議では、小学校英語を3年前倒しにすることや中学校の英語の授業を原則英語で行うことなどの方針を確認し、今後、小中高を通じた英語教育の目標や教材、指導方針について検討していくことにしました。その席上、委員の一人である楽天三木谷社長は英語教育の現状について「日本にとって死活問題だ」と発言したそうですが、児童生徒個人にとってどうなのかは、話し合われた様子もありません。

 昨年12月に文科省が出した「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」では、英語教育の目標を、中学校卒業段階で英検3級〜準2級程度、高卒段階で英検2級〜準1級程度を目標とすると言っています。英検3級というのは中卒レベルですからで、卒業段階で高校生程度の英語力をつけようというのです。そんな高すぎる目標が達成できるとは思いませんが、半分でも成功するとして、そのとき生徒の英語力にふさわしい職業や環境を、政府は子どもたちに用意することができるのでしょうか。

 いくらグローバル化が進もうとも、私はこの近辺が外国人の溢れる土地になるイメージ浮かべることができません。日本中の地方都市がシンガポールのような国際都市になることだって考えらない。それが普通でしょう。だとしたらそれだけ高い英語力を身につけさせられた子どもたちはどうなるのか。

 語学は、ピアノとともに習得に最も時間のかかるお稽古事です。投入されるエネルギーも時間もハンパではありません。それだけつぎ込んで将来の日本の様子が今とほとんど変わっていないとしたら、それこそ努力をドブに捨てるようなものです。

 現在の日本という国は、私のようにまったく英語ができなくても少しも困らず生きていける国です。そんな国で全員を有能な英語使いに育てて持つ使い道がありません。一部の子の英語力は高まるかもしれませんが、ほとんどの子が疲弊し、自己肯定感をボロボロにするだけです。

 そうした暁にできる日本というものを、“有識者”たちはどう考えているのでしょう。