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「無視してもいいけど、無視すると面倒でもある結婚式の家族関係論」~息子アキュラの結婚式で考えたこと④

  古くからあって、すでに時代遅れとも思われていること――、
  そうした《昔の常識》が今も生きている場合がある。
  無視してもいいが、無視する以上は覚悟が必要だ。
  意外なものが連動する。
 という話。 (写真:フォトAC)

 仕事をする上で、前年度踏襲は良くないという言い方はしばしばされるところです。しかし冠婚葬祭のような長く続いて来たものを変える場合は、よほど丁寧に吟味しないとあちこちで軋みが生じます。
 例えば結婚式と披露宴。

【親戚や友人への挨拶:一気にやってしまうのが楽】

 アキュラは親戚友人を招いて普通程度には盛大に式・披露宴を行いましたが、これが全くせず、神社で手を合わせただけで済ませたら何がどう軋んでくるのか――。
 
 昨日も申し上げたように、結婚式と披露宴はどんどん形を変えながらも古いものを引きずっています。そのひとつが結縁(けちえん)です。式を通じて新しい縁を結ぼうという性格です。それをまったく意識しない人もいますが、強く意識する旧世代にとって、式に呼ばないということは「自分とは縁を結ばない」という意思表示にも映るのです。
 もちろんアキュラにもっともな理由があり、確固たる信念をもって《このさき親の兄弟姉妹たちとは親戚づきあいをしない》《親(私たち夫婦)が死んでも声をかけることはない》ということであればいたしかたありません。理解できる話なら私たちも応援します。しかしそこまでの理由がないとしたら、式を挙げずに済ますのはなかなか面倒なことです。
 
 具体的に言えば、だれにとっても初めて会う席が誰かの葬儀ではかなわないのです。3年も4年も経った悲しみの場に出てきて「初めまして」では、あまりにもバツが悪い。そんなつまらぬことで場をギクシャクしないでほしい――。
 そうならないためには結婚したらすぐにでも一軒一軒回って挨拶するしかないのですが、それはそれで面倒くさく現実的でもありません。伯父のひとりは函館、もう一人は鹿児島ということだってあるのですから。
 だから一族郎党友人を招いて一気に挨拶してしまうのが楽でいい――それが結婚式や披露宴を行う意味の一つです。

【金(かね)の循環を途切れさせるのも面倒】

 冠婚葬祭において前例踏襲をしない場合、心得ておかなくてはならないもうひとつの軋みは金の問題です。親の代も含めて、これまで親戚・友人の間でやり取りしてきた祝儀や香典のバランスが崩れてしまうということです。

 祝儀や香典というのは参列者の喜びや祝意、あるいは哀悼の意の多寡を示すものではありません。元を質せば、
《喜びや悲しみの席に、自分の食い扶持や記念品代を持って参加しましょう。儀式の開催費用についても一部負担します。私も以前してもらったし、今後もしてもらいたいからです》
といった、いわば互助会的なものなのです。貧しくて結婚式を挙げられないのも気の毒ですが、葬式は疎かにすれば一族郎党や村全体に祟りの起こる可能性もあります。だからいい加減には扱えないのです。

 祝儀や香典を受け取らないというのは、そうした貸し借りの循環を崩すことになります。
 もちろん本人としては、
「私は式をしませんし祝儀も受け取りませんが、あなたの結婚式には呼んでくださってもけっこう、それなりに準備して参加します」
ということもあります。しかし相手にしてみれば、
「おやおや式をやらんのかい、それなら祝儀を渡さずに済むから助かるワ」
というわけにもいきません。喜ぶ人ばかりではないのです。本来は払うべきものを払わないということを負債のように感じる人だっています。

 そうした人たちは別の機会に一封包んで持ってきますが、その時の金額計算はまた厄介なものになります。渡された方も貰い放しというわけには行きません。
 自分は結婚式を開かず、ご祝儀ももらわなかったから招かれても出ません、という訳にも行きませんが、招く方は少々躊躇う場合もあるでしょう。躊躇われて有り難い場合もあれば、躊躇わないでほしい場合もあります。そうした問題を考えること自体が面倒だという人だって当然いるでしょう。

【財産分与に関わる:兄弟同じだと助かる】

 お金の問題と言えば私の場合、アキュラに「お金のことでは親の世話にならないことにした」と言われて困ったことがあります。
 それは姉のシーナが結婚する際、結婚資金としていくばくかの金を出しているからです。「シーナには出したがアキュラは本人がいらないと言っているからナシ」という訳にもいきません。だからといって遺言状に「弟には結婚資金を出していないので、その分、遺産は弟に余計に」というのは、筋は通っていますが気分の良いものではありません。

 ただアキュラの場合、そこそこ悩んだこの問題にもあっさりと解決策が見つかりました。式・披露宴が本人主催になりましたので、私たちもご祝儀を持って行けばいいだけです。それで一件落着です。
 しかしこんなことも、普通にやってくれれば悩まずに済んだ問題でした。

【無視してもいいけど、一応気にした方がいい結婚式の家族関係論】

 もっとも男性の三割、女性の二割が生涯未婚を貫く今日、「式はやった方がいいよ」とか「やらない場合はこんなことに気をつけよう」とアドバイスすることは、それ自体がパワハラだったりセクハラだったりするかもしれません。
 また結婚する気のある二人なのに資金がなくて身動きが取れない、そういう場合もあるでしょう。ある結婚サイトによると、結婚に関わって式から披露宴・新婚旅行・新生活開始まで380万円もかかるというのです。
 しかし考えてみましょう。先ほどの生涯未婚率を逆に取れば、男性の七割、女性の八割は少なくとも一度は結婚しているのです。その380万円が何とかなっているということです。心強いでしょ?

(この稿、続く)