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「今日も心病んだ教師のもとで、何十人もの児童生徒が不安定な教育を受けている」~東京都の新任教員の、20人にひとりが1年以内に退職した②

 最初から早々に辞めるつもりで入社してくる若者がいる。 
 教員はなかなか辞めない分、代わりに病んでいく。
 今日も心病んだ教師のもとで、
 何十人もの児童生徒が不安定な教育を受けている。
という話。(写真:フォトAC)

【最初から辞める態勢】

 新年度早々、早くも辞める新規採用者が続出している。
 中には4月1日に行っただけで退職代行サービスを使って退職した若者もいた。
 しかも翌日には別の企業の面接を受けて採用が決まっている。
 退職代行サービス会社の代表は、
「新卒からの依頼は、去年4月は20件だったが、今年は、18日までで139件に。退職理由のほとんどが入社前と後のギャップ」
と話している。
 以上は一昨日(4月24日)のテレ朝ニュース「配属ガチャ、初日に退職...超売り手市場の新入社員の現状 入社先に何を求める?」の冒頭から拾ったものです。

 超売り手市場ですから、辞めても簡単に就職でいるという事情が、超短期間退職の後押しをしているのは確実でしょう。記事によれば、2023年3月に卒業した新入社員が対象のアンケートでも、
「いまの会社であと何年働くと思うか?」
という問いに対しては、
「『3年以内』が24.1%で、『10年以内に退職予定』という人が49.1%」
だったといいます。仕事を始める前から「10年は勤める気がない」という若者が四分の三もいるということです。

【公立学校の教員の離職率が高いわけではない】

 実際に職業別離職率(採用から3年以内に辞めた人の割合)を見てみると、
1位:飲食サービス業界・宿泊業界… 離職率49.7%
2位:娯楽業界・生活関連サービス業界… 離職率47.4%
3位:教育・学習支援業界… 離職率45.5%
4位:医療福祉業界… 離職率38.6%
5位:小売業界… 離職率36.1%
となっていて、1位の「飲食サービス業界・宿泊業界」はほぼ半数が3年以内に辞め、5位の小売業界でも3分の1以上が辞めてしまっています。ちなみに、3位の「教育・学習支援業界」は主として予備校・学習塾の関係であって公立学校の話ではありません。

 ここまで見てくると人材の流動化、雇用市場の活性化はいかにも進んでいるかのように見えますが、実は全職業の離職率の平均は15%ほどでここのところほぼ一定。公立学校の教員に至ってはこれもわずか0.4%程度と飛び抜けて低いままなのです。世の中はさほど変化しているわけではありません。
 
 予想に反して教員があまり辞めていないことについては、「安定した職業だから」だとか「社会的ステータスが高い(?)からだ」とかいろいろ言われますが、「営業や事務といったスキルのないまま、今から民間企業で働ける気がしない」とか「辞め時が難しく、担任の替わる年度末を待つうちにずるずると辞め損なう」とかいった理由の方が実際でしょう。できるだけ周囲に迷惑のかからないよう、時機を見て長く引っ張っているうちに辞め時を失ったり、心を病んだりすることになるのです。

 ただ、昨日引用した記事の「東京都教員、新規採用者の1年離職率4.9%」は全企業の平均離職率(3年間)に匹敵し、公立学校の教員としては飛び抜けて大きな数字になっています。別記事には「3年連続上昇」とありましたが、東京の新採教員のみが離職率が高いのか、東京の若い教員のみが精神疾患で倒れているのか、別に調べてみる必要がありそうです――新たなニュースを待ちましょう。

【今日も心病んだ教師のもとで、何十人もの児童生徒が不安定な教育を受けている】

 不思議なことに先のテレ朝ニュースの中盤では、ひとまず腰を落ち着けてじっくり実力をつけようといった「石の上にも三年」みたいな意見も並んでいて、簡単に辞めてしまう若者ばかりではないことも示しています。
 もっとも、さっさと見切りをつけるにしても我慢して頑張るにしても、健康な若者の異なった判断という話ならかまいません。辞めざるを得ない状況に追い込まれているわけではないのですから。
 学校教育の世界では、就職1年目で辞めた新規教員の半分近くが、精神疾患で辞めざるを得なくなったのです。ここにはもちろん「辞めないで休職しているだけの人」「復帰プログラムに乗っている人たち」の数は入ってきませんから、心病んだ新任教諭の実数はさら多くなるはずです。その状況は放置されるべきではないでしょう。
 今日も心病んだ教師のもとで、何十人もの児童生徒が、不安定な教育を受けているのですから。
(この稿、終了)