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「貧乏人こそ結婚しろ:結婚式の経済学と本質的でない最後のアドバイス」~息子アキュラの結婚式で考えたこと⑤

 金がないから結婚できないと思っているあなたに、
 とんでもない思い違いだ。貧乏人こそ早く結婚しろ。
 そしてもうひとつ。式や披露宴のあり方には、
 別の原理もあることを忘れるな。
 という話。
 (写真:フォトAC)

【貧乏人こそ結婚すべき】

 よく「お金がないから結婚ができない」というカップルの話を聞きます。しかしそれが純粋な金銭問題だとすると、とんでもない思い違いだと教えてあげなくてはなりません。なぜなら、貧乏人こそ早く結婚して安定した生活を送るべきだからです。

 古に「一人口は食えなくても二人口は食える」というように、二人暮らしはひとり暮らしよりはるかに経済的です。キャベツ一つ買ってきても豆腐一丁買ってきても、二人だと無駄にする可能性は激減します。そもそもキャベツの一個買いができる時点で、二人暮らしの勝ちでしょう。
 二人なのに冷蔵庫はひとつ、テレビもひとつ、洗濯機もひとつ。二人暮らしだからマンションは少し大きめと考えても、別々に小さな部屋で暮らすよりははるかに安く上がるはずです。
 江戸時代から昭和初期くらいまで、「二人口は食える」はおそらく結婚する理由のトップ3に入っていたはずです。意識してそう答えたかどうかは別ですが。

 え? その前の新婚旅行に行く金がない?
 貧乏な内は安上がりなところで我慢しましょう。日程の関係でそうなったという面もありますが、私の二人の子は上の娘が伊豆、下の息子は(配偶者が九州にいたので)五島が新婚旅行の地です。外国旅行など貯金ができたら改めて行けばいいのです。いま行かないことで、慣れない海外でオタオタして新妻に失望されるという危険も回避できるわけで、その方がずっといいのかもしれません。

 いやさらにその前の結婚式自体が問題? 雑誌に「招待客平均50名で300万円余り」とか書いてあったのを見て、すっかり腰が引けている感じ?
 しかしそんなこと昔からほとんどの人が解決してきた問題でしょ? ということは「ほとんどの人が300万円を工面できる仕組み」が、世の中にはあるということです。
 安心してください。(あなたもその仕組みの中に)入ってますよ。

【結婚式の経済学:収入の部】

 あなたはお友だちの結婚式にご祝儀としていくら包んでいきますか? 3万円? まあそのあたりが相場でしょう。NHKのチコちゃんふうに言えば「ところで、その3万円ってなに? 何のためのお金なの?」 

 ――もう分かるじゃないですか。招待客のほとんどは自分の飲み食いの代金どころか、引き出物の代金まで持ってきてくれるのです。
 ある結婚情報誌の調査(*1)によると一般的披露宴における飲食費の平均は20,900円、引き出物の平均は7,594円だそうです。合わせて28,494円、祝儀として持ってきてくれた金額とほぼ同じです。3万円との差額の1,506円が挙式費や新郎新婦の衣装代、会場装花の一部になるわけです。
 もっとも3万円は友だちなど一番若いグループの相場であって、会社の上司や親戚はそんなわけにはいきません。一けた多い金額を包んでくる人も少なくないのですが、だからといって彼らが若者より一けた多く飲み食いするわけでもありません。彼らが3万円を超えて余計に持ってきてくれたお金のすべてが、新郎新婦の自由に使える収入ということになります。
 そう分かってくると、この先はいくらでも作戦が立てられます。
 
 1人当たり1,506円が寄付されるようなものですから、招待客は増やせば増やすほど衣装代などに回せる金額が増える――極端に言えば1万人呼ぶと1,506万円相当の結婚式ができることになります。さらに3万円しか持ってきそうにない若者は減らし、親戚や名士ばかりで固めればかなりの収入増が見込まれます。新郎新婦との関係性にもよりますが、3万円しかい持って行かないことが恥になるような人もいるのです。
*1 ゼクシィ【結婚式のお金はいくら?】相場や項目別平均費用などまるっと解説!

【結婚式の経済学:支出の部】

 もちろん支出を減らす、という方法もあります。
 考えても見てください。私たちの通常の生活で1回の食事に20,900円も使うことって、あります? せいぜい1万円も使ったら大した食事でしょ? だったらその差の10,900円分は寄付してもらいましょう。それだけで50人なら54,5000円の収入増です。引き出物ももう2,000円下げて、そのぶん10万円も寄付してもらいましょう。

 新郎新婦自身が使う費用も、抑える工夫をしなくてはなりません。 娘のシーナは母親譲りのケチということもあって、ウェディングドレスは知り合いのかたから1万円の謝礼で譲ってもらった手作りのもの(右の写真*2)、色打掛はレンタル料30数万円のものを何かのモニターに応募して6万円ほどで借りました。これだけでもずいぶん違ってくるでしょう?
 ちなみに35年ほど前に私自身がハワイで結婚式を挙げた時、新郎である私のスーツのレンタル料は一セット5,000円ほど、妻のドレスがたった6,700円でしたが、写真で見ればなかなか立派なものです。ズボンの裾なんか仕付け糸で止めただけのものでしたが。(下の写真*4
 話を冠婚葬祭全体に広げて、さらについでの話ですが、「葬式は儲かる」(*3)というのは死者がドレスや打掛をレンタルしないからです。さすがに結婚式で儲けを出すのは難しいかもしれませんが、やり方次第ではトントンくらいで収めることは大いに可能でしょう。
*2:そのドレスを着るのはシーナが3人目でしたが、過去二人はとても幸せな結婚生活を送っています。つまり由緒がいいのです。その点で私も気に入りました。
*3:私の父が亡くなった時は、私も弟も現職でしたので勤め関係の弔問客も多く、100万円近い収入が出てしまいました。おかげで仏壇仏具一式をそろえることができました。
*4


【日ごろから、親を大切にしておこう】

 ゼクシ―の計算によると結婚式にかかる費用の総額は平均3,038,000円、招待客が持ってきてくれる祝儀の平均が1,804,000円だそうです。つまりあと1,234,000円を何とかすれば式と披露宴は乗り切ることができるのです。
 結婚式のあとは新婚旅行、そして新生活のスタートですが、旅行に30万円、新生活に70万円、合計100万円をかけたとして、式の不足分と合わせた総額は2,234,000円。新郎新婦とその二組の両親、合わせて6人で分ければ、何とかなる金額ではありませんか? ひとり372,000円の持ち寄り――それでもダメなら友人間クラウドファンディングか借金。結婚する以上、その程度の借金は背負えなくてはなりません。
 割と思いつかないのがお祖父ちゃん・お祖母ちゃんです。頼まなくてもお祝いに80万円、ポンと出してくれることもありますからチェックしましょう。いずれにしろ日ごろからの行いが問われる瞬間です。
 さてこれで満願成就です。さっそく式場探しに出かけましょう。

【本質的ではない最後のアドバイス

 結婚式の費用が300万円、祝儀の総額がおよそ180万円と書きましたが、注意しなくてはならないのは、式場によって300万円全額を先払いしなくてはならない場合があるということです、と言うかそちらの方が一般的です。つまり「とりあえずの300万円」が必要になるわけで、そのことは頭に入れておきましょう。私の息子のアキュラは、それで詰みそうになりました。
 
 アキュラが、牧師もいない、神主も来ない、上司も同僚も呼ばない式を挙げたのでイラっとしたという話はしました。しかしよく考えたら35年前の私の結婚式にも上司や同僚はいなかったのです。それどころか友人もおらず、ハワイでの結婚式は私たちの夫婦と二組の両親の計6人だけ、別の日に行われた披露宴は親戚と(当時ですから)ご近所のみの、始まってみたら大カラオケ・パーティになっていた、という変則的なものでした。
 臆病な保守主義者(臆病だから保守主義)の私が、なぜそうした変則的な式・披露宴を行ったのか――実は結婚式や披露宴をどうするかという問題には、もうひとつ決定的な要素があるのです。
 それは、
「男子たる者、結婚式で妻に《裸になれ》と言われても《そのまま踊れ》と言われても、絶対に従わなくてはいけない。うっかり無視したりすると、のちのちことあるごとにネチネチと言われ、一生続く」
という伝説です。《妻の意思》が《常識》と衝突したら《妻の意志》を優先すべき、ということです。
 妻がなぜあれほどまでに「結婚式や披露宴をしない」ことにこだわったのかは、今となると謎です。それに対して私が《常識》を振り回して、何とか妥協を迫った成果が、あの最小の形で行われた式と披露宴だったのです。
 こうしたことで、親のやらなかったことを子に迫ってもいけませんよね。
(この稿、終了)