カイト・カフェ

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「かくてパンドラの箱は開かれ、ジャニーは戦場に行った」~権威がなくなることへの期待と不安①

 広島でG7の首脳会議の開かれた先週、
 芸能界は二つの問題で大混乱だった。
 ジャニーズ事務所のセクハラ疑惑、市川猿之助一家心中(?)事件。
 しかしこの二つ、見かけはまったく同じじゃないか。
 という話。(写真:フォトAC)

【両極端に忙しかった先週】

 先週は広島におけるG7の首脳会議というビッグニュースがあった一方で、ジャニーズの藤島ジュリー社長が故ジャニー喜多川氏の疑惑について謝罪動画を発表したとか、歌舞伎の市川猿之助が心中未遂(?)事件を起こしたとか、あまりにも下品で下世話な好奇心をくすぐる話題が続きました。

 ジャニーズ事務所の問題はまだまだ先が長く、猿之助の問題はとりあえず基本的な部分が分からなすぎて――「2名分の致死量の向精神薬ってどうやって手に入れるの?」とか「いい齢をした大人がリビングで心中するの?」とか、「息子だけ別室、別方法というのはどういうことか?」「なぜ老夫婦は遺書を書かなかったのか」「パジャマ姿での自殺に抵抗はなかったのか」、「母親が既に亡くなっている時刻にまだ手間取っていて、結局、決行したのがマネージャの来る時刻というのはどういうこと?」とか、さらに「そもそも一家心中しなくてはならない問題があったのか」とか――すべてはこれからという感じではあります。

【みんな分かっていたことじゃないか】

しかし私は、事件が起こるに至った経過と、権威が崩壊する予兆という点において、今から二つの事件に興味があります。
 と、言うのはジャニー喜多川氏や市川猿之助氏のスキャンダルなんて、おそらくマスコミ関係者は全員知っていたはずなのに、前者は週刊文春以外ほとんど追及しておらず、猿之助氏の問題は女性セブンが明らかにして現在はむしろ出版社側の方が非難されているからです。
 
 ジャニー喜多川氏がタレントに対してわいせつ行為を行っているという疑惑は1960年代からあり、1990年前後には元フォーリーブス北公次氏が自らの著書で疑惑を追及し、2000年前後からは週刊文春が激しく追及して裁判となり、最高裁まで争ってわいせつ部分はほぼ文春の主張が通ったという事実があった、にもかかわらず、今日までほとんどのテレビ・新聞メディアは頬かむりをして取り上げずに来ました。
 
 一説によると新聞や雑誌の多くは放送局およびエンターテイメント部門と繋がっていて、ジャニーズ事務所を怒らせるとタレントが供給されなくなるため疑惑を扱えなかったといいます――というか、そんなことは芸能界の常識なのだと、みんな(私たち素人も)知っていたのです。しかし文芸春秋社以外の誰も問題とせず、報道するにしても腫れ物に触るように小さく扱って終わりにしていました。

【かくてパンドラの箱は開かれ、ジャニーは戦場に行った】

 パンドラの箱が開かれるためにはジャニー喜多川氏が亡くなり、その後も隠然と力を発揮した姉のメリー喜多川氏も亡くなって、何人かのタレントが事務所を辞め、喜多川氏亡き後に立った滝沢秀明氏も事務所を去って1年余りもの年月がたった今ごろのことです。
 
 昨日はジャニーズ事務所の最長老である東山紀之氏も、自身のワイドショーで、「そもそもジャニーズという名前を存続させるべきなのか」とまで言い始めています。おそらくそれは正しい判断で、滝沢秀明氏の時代にジャニーズ事務所を離れても芸能界で生き残る道筋はつくられていますし、いまやジャニーズの看板を背負うこと自体があらぬ疑いをかけられることになりかねない状況になっています。
 
 このさき難破船からネズミたちが大挙して逃げ出すように、事務所を離れるタレントは増えていくでしょう。そして――ここが問題なのですが――事件の反省がきちんとなされ、芸能界が変化する前に、ジャニーズ問題は忘れ去られてしまうのかもしれないのです。ある意味でジャニーズ事務所の正念場は、この先にあるといえます。


【支配をもくろむ組織は消えていい――とは言い切れない】

 一方で、ジャニーズ王国と言われた権威がなくなることも、必ずしも良いことばかりとは言えないかもしれません。
 なんといってもジャニーズ事務所は日本の芸能の一分野を確立し、維持し続けてきた組織です。スカウトや公募を通してジュニアと呼ばれる若手を組織し、集中的に訓練をして次世代へと繋げていく――そこには厳しい競争があって競争により最低の質は保障され、さらにジャニーズの質が芸能界全体を下支えする仕組みになっていたのです。
 
 また、ジュニアに選ばれた段階である程度希望が見えてきますから、多少学業はおろそかにしても安心して芸能活動に明け暮れることができますし、逆に早い段階で排除された者はつまらない夢をみることなく、別の道を追及すればよいのです。その意味で幼い時期での選別は必ずしも悪いものではありません。
 子どもたちに夢を与え適切に夢を奪う、その仕事をしてきたジャニーズ事務所がなくなるかもしれない、そこに子どもたちの不利益はないのでしょうか? 芸能事務所は山ほどりますが、ジャニーズブランドは特別でしょ?

梨園もまた】

 梨園もまた同じです。
 歌舞伎界は閉鎖的であると同時に極めて権威主義的な世界です。そんな頑固で古臭い世界の頂点に立つ人々には、厳しい自制・自戒と慎みが求められます。猿之助氏が日ごろ口にしているような「好き勝手やっています」を言行一致にしたらすぐに専制君主となってしまいます。
 女性セブンの報道が正しいとすれば市川猿之助氏はやりすぎです。しかしだからといって梨園の閉鎖性や権威主義がなくなって、なおあの様式美が継承され続けるかというと、なかなか難しい面も多そうです。もちろん“権威主義がはびこるようなら歌舞伎などいらない”といったところまで詰めるなら別ですが、一般的ではないようにも思うのです。
(この稿、続く)