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「校長先生、PTAをなくしちゃって怖くありません?」~PTAをなくす学校が出てきた②

 学校は危険なところ、事件事故がいつでも起こる場だ。
 学校は保護者の協力を得てようやく立っているに過ぎない。
 その“協力してくれる保護者”とは何か、
 具体的で、象徴的で、実質的な“保護者”とは、PTA会長のことである。
 という話。(写真:フォトAC)

【PTAのない学校が怖くないか?】

 昨日は、PTAがなくなってしまったらPTAの予算や人手をアテにしてやってきたことのほとんどができなくなってしまうではないか、一部は教師たちが担うことになって多忙に拍車をかけるではないか、外部への働きかけが弱くなって設備その他で他校に後れをとるかもしれないではないか――そういったお話をしました。

 しかし学校が貧乏になったり、教員の働き方改革に一校だけブレーキがかかったりしても、ある意味でそれは大した問題ではありません。管理職も一般教職員も数年じっと我慢していれば他の学校に異動になります。しかしその数年間をPTAのない学校に勤務し続けるということは、非常に危険な綱渡りを続けることと同じなのです。保護者も一般の先生方もあまり意識していませんが、注意深く観察していればわかります。
 実際の学校は年に数回、もしくは十数回、PTAに助けられてようやく存続しているに過ぎないのですから、その助けがなくなってしまうのは恐ろしいことなのです。

【学校の透明性をどう担保するか】

 学校は常に何らかの事件が起きている場所です。同年齢で同じ地域に住んでいるという以外の何の共通性もない子どもたちを、数十人から数百人も集めて勉強と集団生活を強要しているわけですからトラブルが起きないわけがないのです。
 けがや集団感染、いじめやケンカ、不登校体罰、不審者、災害・・・と話のタネは尽きません。したがって事件・事故をゼロにすることはできないですが、事後処理を謝ると、学校問題は社会問題へと発展してしまいます。これまで世間の耳目を集めた事故・事件の大半が、事後処理の失敗によるものだという点は必ず押さえておくべきでしょう。

 中でも“学校が事実を隠蔽しようとしている”“教師が(特に校長が)保身に走っている”と疑われると、事態は取り返しがつかないほどに悪化してしまいます。被害者や加害者のプライバシーや事件・事故の詳細な顛末については、公できないことも多いと誰でも知っています。しかし伏せられるべきものが適正に伏せられているかどうか、必要以上に隠されていないかどうかは、部外者の誰にも分からないからです。

 こんなときの最良の方法は事後処理の最初から、外部の人間を入れてしまうことです。当該の事件・事故を取り巻く状況が刻々と移り行く中で、学校が何を材料としてどんな判断をし、どういった行動につなげていったかを、同時進行で見聞きし、記録してもらうわけです。内部を晒すわけですから、学校にとって不都合なこともたくさん出てくるかもしれませんが、隠蔽を疑われて何年も泥沼の対応を続けなくてはならないことを考えると、たいていのことはそれよりマシです。取るべき責任はその時点までに取っておけばいいだけのことです。
 では誰に入ってもらうのか――。答えは今のところ簡単です。PTA会長です。

【会長が保護者を代表し、会長が事件に関わる】

 具体的な経験から言えば、学校給食の異物混入で2度、PTA会長に来ていただきました。2回だけ来てもらったというのではなく、異物混入が1年ほどの間隔を置いて2度もあったので、それぞれ数回の会合のすべてに出てもらったということです。2度目には正式な抗議文・要望書も出してもらいました。

 給食に異物が入っていたと聞けば保護者も不安になります。疑心は暗鬼を生み出し、あることないこと、さまざまにうわさが飛び交う可能性があります。そんなときPTA会長が最初から関わっていると知れば皆が安心するのです。会長なら同じ学校の同じ保護者として、訊くべきことを訊き、善処を求めるべきは求めてくれているに違いない、そんなふうに思えます。
 さらに疑問を深めた保護者がいれば、学校ではなく、PTA会長に直接、聞けばいいのです。こちらの方がよほど敷居は低いし、学校に面倒をかけずに済みます。おそらくいつでも質問できると考えただけで、不安も不審も払拭されてしまうに違いありません。
 
 さらにこれが異物混入といったレベルの話ではなく、重大な体罰・いじめ、学校が目標となった襲撃事件、子どもの自殺・事故死といった深刻な問題だったら、副会長から会計まで、PTA役員総出で分散して現場に張り付いてもらうようにします。保護者代表の参画というのはそのくらい重要で必要なものなのです。
 
 ついでの話ですが、私の勤務していた学校でプールが新造され、そのさい立ち木を数本伐採することになりました。私などは迂闊で何も考えませんでしたが、当時の校長は、
「学校の樹木と言うのはうっかりすると記念樹ということもあるので簡単には切れない。それに周辺にはタイムカプセルが埋まっている可能性もあるから、調べてからでないと掘り起こせないのだ。PTA会長にぜひ調べてもらってください」
と言い出し、実際にすべてやっていただいたことがありました。これも地元に詳しいPTA会長だからできることで、地域外から来ている教員にできる仕事ではないと思いました。

【学校の、日常的な情報源としての会長と役員たち】

 ところで、先ほど事件・事故はゼロにはできないと申し上げましたが、それでも少ないに越したことはありません。その点でPTAの情報収集能力は決定的な要素となります。

 学校がまったく気づいていない事件や事故、保護者の不安や不満、地域で起こっているできごと、他の地区のPTAの動きや自治体の教育行政の変化や変更――そうした情報を握るとPTA会長はすぐにも学校へ足を運び、協議をすることになります。立場がありますから会長自身が急いで対応し、たいていはそれで先手を打つことができます。
 また急がずに済む話なら、月に一回ほどの割合で開かれる役員会を待ちます。会の始まる前と終わったあとで、重要な話が雑談みたいに切り出されることもよくありました。知り合いの保護者から託された話題も、しばしばあったと思います。

 担任の先生方は常に保護者と接していて、連絡帳や電話などを通して情報のやり取りを欠かしません。ですから家庭のことも地域のことも、ある程度はよく知っています。ところが校長・副校長・教頭といった管理職には、そうした日常的に会話する保護者がいないのです。学校評議会のような組織もありますが、保護者ではありませんし会うのも年1~2回と限られています。
 
 普通の学校の校長にはPTA役員という強力な味方・情報源があるのに、PTAを潰してしまった学校の校長先生はどうやって学校運営を続けて行くのでしょう。一朝、事件があった時、対応の透明性をどう担保し、つまらぬ憶測から学校を守っていくのでしょう? そもそも情報や保障のないことに、不安になったりしないのでしょうか。
 私なら耐えられないところです。
 
(この稿、続く)