カイト・カフェ

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「キミたちの情報が時限爆弾となって、人生の一番大切な瞬間に爆発する」~自分の名前を隠しなさい④

 たった数枚のレシートからも人物が推定できるのだから、
 ネットに垂れ流したキミたちの情報が人物を特定し、
 その言動を記録しているということも大いにありうる。
 そしてそれが人生の一番大切な瞬間に、発するかもしれないのだ。

という話。

f:id:kite-cafe:20220214113436j:plain(写真:フォトAC)

 10年近く以前に、中学生の子どもたちに話した内容を転載しています。

【単なるレシートがものを語り始める】

 別の話をしましょう。
 私は自分の財布の中に3枚のレシートを発見します。「スーパードラッグ」と「ほっともっと」と「酒の中村」の三枚です。たった三枚のレシートですが、ここにはたくさんの情報が詰まっていて、見た人はさまざまな推測をすることができます。
 では、これが私自身の者ではなく、どこかで手に入れた同じ人物のレシートだと考えて推理してみましょう。

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 「スーパードラック」では医療用テープを三種類も買っています。何かの治療に使うらしいのですが、三種類のテープを使い分けようというのですから、案外細かい人なのかもしれません。おまけに1512円の買い物に2012円払って500円のお釣りをもらっている、こいつは細かそうです。
 「ほっともっと」では「のり弁当」と「めんたい高菜弁当」と「ミックスカツ丼」、「ミニうどん」と「特製豚汁」を買っています。主食が三つだから一応三人家族と見ていい。しかし一人暮らしで三食分買ったのかもしれないとも考えられます。その場合はかなりズボラな男だから、これもメモをしておいて、さらに買い物を重ねたところから判断しましょう。

 「酒の中村」のレシートからは、この人物がかなりの酒好きであることが分かります。ウィスキーの4リットルボトルですから、誰かに送るものではありません。他のお酒やおつまみは買っていませんからこれから飲み会というわけでもないでしょう。
 高級とは言えないウイスキーの4リットルも一気に買うわけですから、お酒に対して特にこだわりがあるわけでもないでしょう。もしかしたら相当な倹約家なのかもしれません。

 たった三枚の領収書からこれだけのことが分かりました。逆に三枚しかないからこの程度しかわからないとも言えます。これが1000枚だったら、その人の行動範囲や活動時間、趣味や生活状況も浮かび上がってくるはずです。
 家族は何人なのか、収入はどれくらいなのか、何を好み、何をしたがっているのか、全部わかってしまうのです。もしかしたら本人も気づいていない興味や好みが、コンピュータでは分析できるかもしれません。


【他人ごとではなく、キミたちの問題だ】

 今、君たちはオンラインゲームにはまって、気軽に電話番号やメールアドレス、住んでいる地域などを入れているかもしれませんが、そうした情報が将来どんな使われ方をするのかは不明です。
 さらにゲームをする中で、キミ自身のものの考え方や判断の癖、会話の仕方や推理のしかたなどが採取され、分析されているかもしれません。偽名で登録しているから大丈夫などと安心してはいけません。偽名のつくり方にも癖はありますし、ゲームの進め方から逆に「こういう考え方をする人間は日本国内に50名しかいなくて、そのうちAとBは95%以上の確率で同一人物、しかも本名は〇〇だ」ということにだってなりかねません。そうなるとキミに関する情報は丸裸になってしまいます。

 パスワードやメールアドレスはそのつど別々のものにしていますか? そんな面倒なことはないでしょ? そうしたものから足がつく可能性もあります。その気になればコンピュータは何でも調べられるからです。そして30年ほどたって、君たちが会社の重役になったころ、突然、キミ自身の情報が使われ始めるのかもしれないのです。
「こいつは13歳の時も15歳のときも、こういう場面でこういう考え方をした。だから会社のこういう場面でこう考えるに違いない」
 そんなふうに作戦を練られてしまいます。
 そうなるともう世の中は映画の「マイノリティ・レポート」と一緒です。名前どころか自分全部がどこかのコンピュータの中にまとめられ、利用されてしまうのです。 

 今はどこの会社も自分のとろで集めた情報は他に出さないと言っています。それに私たちは「個人情報保護法」という法律でも守られてもいます。
 ですからお話ししたような、“どこかで個人情報が一か所にまとめられ、分析されている”ということは、ないことになっています。今はそうです。
 しかし20年後・30年後も同じだという保証はありません。法律なんて本気で犯罪を行おうという人にとっては軽く越えられる低い塀に過ぎないことがあるからです。あるいは真面目に取り扱っていても、情報は常に盗まれるということもあります。キミたちはそのことにも注意して、これからの時代を生きて行かなくてはならないのです。

 

【キミたちの情報が時限爆弾となって、人生の一番大切な瞬間に爆発する】

 以上の話は9年前に子どもたちの前で語ったものです。しかしその後のITの発達は予想以上でした。
 中国ではコンサートの数万人の観衆の中に、特定の犯罪者を顔認証で探し出すことができると言います。またゼロコロナ政策の中で、14億人の国民の一人ひとりについて、どこをどう動いて何をしたのか、誰と接触したのかまで追跡できると聞いています。監視カメラやスマホの位置情報が、すべて国家に管理されているからです。
 自由主義圏でも、韓国をはじめとするいくつかの国では、デモ参加や人に知られたくない場所に行くときは、スマホを家に置いて出かけなくてはなりません。国家に記録されているからです。

 日本国内では、何か新しいゲームを始めようとすると、GoogleFacebookのアカウントから入ることを求められることがあります。Googleの検索履歴やFacebookの書き込み内容と、ゲーム内の会話や位置情報を紐づけられたりするのはかないません。しかしそんなふうに注意していても、SNSの記述を分析すれば、私がどこの何ものかはすぐにわかってしまうのかもしれないのです。

 20年も30年も前のイキがった言動の責任を繰り返し問われるというのは、昨年の東京オリンピックの開会式前夜に大きな問題となりました。今はインターネットのなかった時代の出版物や映像が取り上げられるだけですが、将来的には匿名で行っているSNS上の発言さえ問題となるでしょう。

 かねてより評論家諸氏は、個人情報が政府に掌握されることに強い警鐘を鳴らしてきました。しかし国民がみずから進んで企業に情報を差し出すことについては、比較的無頓着だったと言えます。自分たちが抜き取る側にいるからでしょうか?
 しかし思い出してほしいものです。
 SF映画の中でも世界を牛耳っているのはアンブレラ社(バイオハザードシリーズ)だとかサイバーダイン社(ターミネーター)、あるいはタイレル社(ブレードランナー)といった民間企業なのです。
 繰り返し、子どもたちには警告しましょう。
 今は気にしなくても何も起こらないかもしれないけれど、やがてキミたちの情報は時限爆弾となって、人生の一番大切な時間に爆発するかもしれないのです。

(この稿、終了)