「卒業:十五の君へ」~10年近く前に生徒の卒業文集に載せた

 書類を整理していたら、
 10年近く以前に中学校の卒業文集のために書いた文章が出てきた。
 そろそろ卒業式の具体的な内容を考えなくてはならない時期。
 何かの役に立つかもしれないと考え、ここに載せる。
という話。

f:id:kite-cafe:20210127064916j:plain(写真:フォトAC)


【卒業:十五の君へ】

 数年前、アンジェラ・アキの「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」という歌が流行ったことがあります。
 人生が見えなくて不安な十五歳の少年が、未来の自分に対して「何を信じて歩けばいいの」と問う、その問いに「未来の自分」が答える形式の歌でした。
 その中に「未来の自分」がこんなふうに言う場面があります。
〝自分とは何でどこへ向かうべきか 問い続ければ見えてくる〟
〝人生のすべてに意味があるから 恐れずにあなたの夢を育てて〟

 ここには見過ごしてはいけない深い意味があります。

 人間をつくるのは資質と環境です。オリンピック選手やノーベル賞受賞者は、「誰でも努力すればなれる」というものではありません。人並み外れた体力や運動神経・頭脳といったものがないと努力だけで到達できるものではないのです。 しかし才能があればどうとでもなるというものでもありません。
 その才能を生かし、伸ばすような環境(良き師や友に恵まれること、保護者の十分な協力や支援が受けられること、あるいは自由に活動できる社会に支えられていることなど)がなければ、才能は単なる宝の持ち腐れとなってしまいます。
 もちろんオリンピックやノーベル賞は特殊な例であって「普通」の私たちは「普通で望める最高のもの」を目指すしかないのですが、そのときに必要なことも、「自分の才能を見極め、自分が持っている環境を良く知ること」です。

〝自分とは何でどこへ向かうべきか 問い続ければ見えてくる〟
 というのはそういうことです。
 
 自分はどういう願いを持ってどういう方向に向かって行きたいのか、そのために自分の中で使える力は何なのか、その力は十分育っているのか、他に育てるべき力はないのか。自分の一番すぐれているところは何なのか。
 今、自分はどんな教師のそばにいるのか、どんな師を望むことができるか。どんな友だちと生きているのか、その友だちは何を持っているのか、そしてその友はどんな人間に育っていこうとしているのか。
 自分の周囲には何があり、何が欠けているのか――。
 それらを見つめ考えることが、
 自分とは何でどこへ向かうべきかを問い続けることなのです。

 しかしただボーッと考えていても分かることではありません。自分の力は実際に試しながら把握するしかありませんし、自分の環境はさまざま活動の中で、周囲がどう反応し、どう動くかを通して理解することができないからです。
 
 今、キミが手にしている卒業文集には、三年間のすべての活動が盛り込まれています。そのページの一枚一枚をめくるごとに、友だちのこと、クラスのこと、生徒会で行ったこと。文化祭のこと、修学旅行やキャンプのこと、部活動のこと、日々の生活のこと――、それらが思い出され鮮やかに甦ってくるはずです。
 自分の文章からはもちろんですが、友だちや先生の文章からも、その人なりの見方・考え方で、その人にしか気づかなかった風景が次々と見えてきて、記憶をさらに豊かなものにします。
 さらに友や師の言葉の中に、自分のしたかったこと、自分のできること、自分を支えてくれた友や家族の姿、先生の姿も鮮やかに浮かび上がってくるのです。
 それがキミの持っている、現在の資質と環境なのです。

「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」の中にはこんな歌詞もありました。
〝大人のぼくも傷ついて眠れない夜もあるけど 苦くて甘い今を生きている〟

 もっともそれは二十代か三十代の「ぼく」の言い方であって、私くらいの年寄りになるとそう簡単に傷ついたりはしませんし、人生も苦くて甘いといったものではなくなっています。
 そして落ち着いた話し方で、こんなふうに言うこともできるのです。
「世の中は、今キミが考えているほど甘くはないけど、今キミがおびえているほど恐ろしいものでもない。
 きちんと努力を積み上げ、まじめに生きていけばきっと明るく楽しい未来が現れる。なぜなら世の中はそのようにつくられているからだ。そのように私の先輩や仲間たちがつくったからだ。
 今、もしかしたらキミは努力したってムダだと思っているかもしれない、がんばったって意味がないと感じているかもしれない、しかし努力し積み上げたものには必ず意味がある。それはキミが望んだ『意味』とは別のものになるかもしれないが、必ず意味はある。だから不安がらず、今の生き方を続けなさい」


「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」では、それをこんな言い方で歌っています。
〝人生のすべてに意味があるから 恐れずにあなたの夢を育てて〟

 がんばりましょう。