「いざというとき、誰が時間を融通してくれるのか」~セーフティネットとしての人間関係 

 不慮の事故や病気、貧困に対する公的保障は充実してきた。
 しかし「時は金なり」、
 その「時間の危機」に対する備えは自己責任だ。
 時間を貸してくれる人脈は自分で用意しなくてはならない。

という話。

f:id:kite-cafe:20220206161318j:plain(写真:フォトAC)


【シングルマザー「日ごろの人脈」に助けられる】

 昨日の神戸新聞NEXTに「突然の学校臨時休校…子どもの預け先に困ったシングルマザーを救ったのは、疎ましく感じていた『日ごろの人脈』」という記事がありました。

 内容は、まず小学校低学年の子どもをもつシングルマザーのAさんのもとに、新型コロナクラスターの発生のため、小学校を5日間休校にするという連絡が入るところから始まります。
 すでに有給休暇は二日しか残っておらず、五日間休むとなると三日間は欠勤扱い。近くに両親がいるものの現役で働いているので頼むに頼めず、アテにしていた学童保育はここも閉所。ファミリーサポートを頼むにしても1日6000円、五日で30000円では経済的に不可能。低学年の子をひとりで留守番というのも考えられない。
 そこで思いついたのが、近所づきあいのあるSさん。ダメ元で頼むと1日ならず二日も預かってくれることになり、自身の二日の有給と会社の好意による子連れ出勤によって、何とかしのぐことができたという話です。
 Aさんはもともと社交的な性格ではなく、近所づきあいも疎ましく感じていたのですが、「子どもが地域になじめるなら」ということで、できるだけ近所と交流するよう努めていた、その努力が功を奏したわけです。

 

【貧乏人の相互安全保障】

 近所づきあいなど、昔は当然でした。
 私が子どものころ、隣の若い奥さんなどは母のことを「姉さん」「姉さん」と呼んで、しょっちゅう「お塩がないから少し貸して」とか、「お砂糖を少々」とか言って訪ねて来ました。おそらくいちいち返してもらってはいなかったと思います。そうした一対一の関係ではなく、母もまた別の誰かに借りをつくって、いちいち返していなかったのです。
 映画「Always三丁目の夕日」や、現在放送されているNHKの朝の連ドラ「カムカムエヴリバディ」などに描かれた風景を思い起こせば、すぐに理解できることです。

 ちょっと話を寄り道しますが、私は大学生のころにとんでもないお坊ちゃんグループと付き合ったことがあるのですが、この人たちとご一緒して学んだことは「金持ちは決しておごり合わない」ということです。互いに常に十分なお金を持っているのでおごってもらう必要がないということもありますし、貧乏な友人におごったりすればかえって失礼です。返してもらうあてがありませんから。

 おごり合いというのは貧乏人の文化で、金がない時にも一緒に飲み食いできるという相互安全保障なのです。

 

【時は金なり――その金がない「時間の貧困」】

 現在の日本は社会保障も行き届いていますから、にっちもさっちもいかない貧困には必ず出口があります。とりあえず市役所に行って窮状を訴えれば、なにかしらの方策を教えてくれるでしょう。しかし公的な出口の不十分な問題はいくらでもあるのであって、その代表が時間の貧困です。
 「時は金なり」と言いますが、その資金がカツカツの人は少なくありません。神戸新聞の記事に出ていたシングルマザーが代表で、有給休暇が2日しかないというのは貯金通帳に2万円しか残っていないのと同じくらいの危機状態です。ところが彼女には「時」という資金を融通してくれる「ご近所さん」が存在した、というのが話の肝。
 日ごろから近所づきあいという「持ちつ持たれつ」をしていたおかげで、急な時に「2日」という時間を借りることができたのです。ファミリーサポートなら2日で1万2000円もかかるところを、ダダで預かってもらえた。――もちろんその分はあとで何かの形で返さなくてはなりませんが、おごり合いみたいなものですから急ぐ必要もないでしょう。利子をつけることもないのです。

 

セーフティネットとして人間関係】

 最近、私の近所で町内会を脱会してしまった家族があります。「町内会やPTAは任意であって強制ではない(だから嫌な人はどんどん抜けよう)」というのはひとつの流行です。また別の主張に「結婚は夫婦二人の問題であり、無理に配偶者の家族と付き合うことはない」というのもあります。職場の公的私的な飲み会や行事を厭う声も少なくありません。
 しかしこれらを言う人は、昔からある組織や人間関係の、セーフティネットとしての役割を軽視しすぎています。
 
 もちろん大災害に遭って町内会を単位で運営されている避難所に入っても、堂々と「早く食料を寄こせ」と言える人、PTAでつくられるママ友関係から流れてくる情報は要らない、守ってもらえなくてもいいという人、どんな困難に遭っても配偶者の実家は頼らない、職場内の裏情報・オイシイ話もいらない、すべて自力で克服するという人はいいでしょう。
 しかし将来に備えて生命保険に入ったり個人年金に加入したりする程度の危機管理意識のある人なら、町内会やPTA、義理の両親や職場内組織への多少の入金と時間の投入、心遣いなどは、保険料を支払うつもりでやっておくべきだと思うのです。
 ことは時間の問題だけではありません。危機管理投資としたら、大した金額でも労力でもないでしょう。