緊急事態宣言が発出されて一週間以上たつというのに、
一向に感染拡大が収まらない。
政府は国民に不審の目を向け、罰則規定を設けようとしている。
しかし待て、その前に国民を誉めなくてはならない状況があるだろう!
という話。
(写真:フォトAC)
【感染症対策のために国民の自由は制限されるべきか】
緊急事態宣言発出から一週間以上たちましたが感染拡大がなかなか収まらず、日本中がヤキモキしています。
焦れた政府が今月12日に新型コロナウイルス対策の強化に向けた関連法改正案の概要を提示したところ、そこに「入院勧告に従わない感染者には感染症法で1年以下の懲役または100万円以下の罰金の刑事罰を設ける」とか、「緊急事態宣言下で事業者に休業を命令できるよう新型コロナ特別措置法を見直し、違反した場合に行政罰の『過料』を科すことができるようにする」とかいった内容があり、与野党およびマスコミから一斉に問題視する発言が出ました。国民の自由を縛るべきではないとか、国民の行動を罰則で抑えるべきではないといった原則論が噴出したという形です。
ところが15日に至ってNHKを始めとする各種世論調査の結果が発表されると、
(感染症対策のために)個人の自由を制限することについて、86%の人が『許される』と回答しています(2021.01.15「新型コロナ対策 個人の自由制限『許される』86% NHK世論調査」など)。
といった調子で、これによってマスコミの論調も大きく変化していきました。制限は仕方ないにしても新型コロナ対策という特別な場合に限って行うもので、一般化されてはいけないといった方向です。常識的といえば常識的な結論でしょう。
【真面目な人々は怒っている】
マスコミ関係の人々は国内の86%もの人々が自由の制限に同意するとは思っていなかったのかもしれません。国民の考え方があまりにも一方に進んでしまうことに恐れをなしたのかもしれません。しかし少し考えればこれは当たり前の結果です。
日本国民の少なくとも86%以上くらいは、みんな真面目に新型コロナを恐れ、神経質なくらいに対策を打っているのです。通勤時間の駅前の様子を見れば一目瞭然です。ほとんどみんなマスクをしているじゃないですか。つい2か月前、GoToトラベルやGoToイートで客足が去年の6割まで戻って来たと言っていましたが、逆に言えば外食好き・旅行好きの人たちの4割は飲食・旅行に出なかったのです。
そんなふうに真面目に対策をしてきた人々にとって、今日の状況はあまりにも不本意です。
自分たちばかりが我慢させられて、バカな都会人は、アホな若者は、自由気ままに遊び歩いて感染を広げている、それはあまりにも不公平ではないか、そんなふうに考える人々も出て来ます。中にはもう政府はアテにならない、民間の自粛警察に活躍してもらうしかないと怒って「出でよ自粛警察!」とかいった文章を書く人まで出て来ます(私です)。
感染拡大防止に協力しない人を個別に指導する仕組みをつくらない限り、こうした不満は必ず募り、限界を越えると私刑に走らざるを得なくなります。どんな場合もそうです。
【全体指導で心がけたいこと】
政府の大臣・次官レベルだと、国民に対して直接できることは全体指導だけです。会見などを開いて国民に呼びかけるのが精いっぱいといえます。ところがこの“呼びかけ”、大臣たちが思っているほど簡単なことではありません。毎日、対象に呼びかけ、毎日、対象の行動変容を計っている学校の教師に訊いてみればすぐに分かります。
例えば学級にいじめ問題があり、“いかにいじめが悪いことか”を担任が力説したとしましょう。
その説教が「3年B組金八先生」のように優れたものなら、生徒は反省してきっといじめをなくそうと努力するだろう――そう考えるのは素人です。
そもそも先生の一言でさっと態度を改めるような素直な子どもが育っているクラスではいじめなど起きないのが普通ですが、もし実際に起こってそれを厳しく指導したとき、起こるのは、いじめっ子は頑なになり、他の子たちは震え上がるという現象です。
いじめっ子にしてみればすぐに自分のことだと分かりますし、みんなの前で非難されて面白いはずがありません。多くは耳をふさぎ、ふさがないまでも信頼関係のない人の言葉はこころに浸みて行きません。
感染拡大防止に寄せて言えば、「いま徹底的な外出自粛をしないと大変なことになる」と言われると、86%以上の人は震え上がって対策を頑張ろうと思います。しかし残りの14%くらいはそもそも大臣の会見など聞いていません。彼らはニュースの時間にスマホでYoutubeを見たりゲームをしたり、あるいは居酒屋やカラオケで飲んだり歌ったりするのに忙しいのです。
もちろん去年の4月のように訳の分からないウイルスに国民全員が震え上がったときは、情報は彼らの耳にも自然と入ってきました。しかしあれから1年近く、私たちはコロナ事態にずいぶん慣れてきています。
教室のいじめ問題がいつまでも解決せず担任が叫び続けていると、次に起こる現象は良い子たちがイライラし始め、一部が言うことをきかなくなるということです。いじめっ子たちは相変わらず話を聞いていませんから何の行動変容も起こりません。
そもそもいじめをなくすのは担任の仕事なのに、それもしないで私たちばかりが責められる――もうウンザリだ。どうせ頑張っても「悪い」「悪い」と言われるなら、いっそ私たちもいじめてやると、良い子の一部は考え始めます。そして非協力になる。
感染拡大防止で言えば、感染対策や自粛にものすごく努力してきた人たちが「連休中の人々の気の緩みのためにさらなる感染拡大を招いた」と言われるときの気持ち、そしてその後の自粛要請に不熱心になるのがそれです。
【感染症対策に信賞必罰を】
新型コロナウイルス感染対策に罰則を持ち込むことに関して、私は本当を言うと気が進みません。
ギンギンの民族主義者で日本人こそ世界で最高の民族のひとつだと信じているので、罰則抜き、個人情報保護、人権最優先でやっていけると思いたいのです。
しかしどうやっても感染防止に努力できない人もいますよね?
私の中のもうひとつの思考原理、「人間は弱いものだ」も、感染対策を十分に果たせない人間の存在を示唆します。
だったら仕方ありません。医師の勧めにも関わらずPCR検査を受けない人、検査の結果陽性であっても出歩く人、休業指示が出ても従わないお店などには、それなりの罰を受けてもらうしかありません。
そして頑張っている人々やお店については、それなりの評価を与えなくてはなりません。
例えば先週一週間の報道をみると「人出は十分に減っていない」とか「感染拡大は止まっていない」とか後ろ向きのものばかりでした。昨日も「首都圏一都三県で月曜日としては過去最高の新規感染者」とか「4月の緊急事態宣言に比べると人出が3倍」とかロクなニュースがありません。しかし細かく見ると悪いことばかりではないでしょう。
東京都の新規感染者は970人(12日火曜日)~2001人(16日金曜日)と相変わらずたいへんな数でしたが、曜日によって条件は異なります。そこで前の週の同じ曜日の新規感染者と比べると次のようになります。 なんと12日から16日まで、5日連続で下がっているのです。昨日は一週間前の日曜日より98人多いという結果が出ていますが、それは三連休の中日だった10日の新規感染者が少なかったことに原因がありそうです。おそらく3連休の検査数が極端に少なかったのでしょう。神奈川県・埼玉県・千葉県の3県も「日曜日としては過去最高」だそうですが、他の曜日と比べれば大したことはありません。
目を関東の1都3県から外に向ければ、大阪府も愛知県も6日連続マイナス。昨年の4月に緊急事態宣言のでた13都道府県のうち16日にマイナスになったのが八つあって昨日も三つあります。日本全体もマイナスでした。
また、直近一週間の新規感染者の数(10万人あたり)をグラフにすると次のようになります。 右で急上昇してから急降下して水色の線が東京都ですが、ホラ、がんばっているじゃないですか。これを誉めずして何を誉めたらよいのでしょう。
学校でも国家でも、良い子たちのことはついつい忘れがちですが、悪い子同様にこちらも大切な存在なのです。
この子たちを誉めて踏ん張らせなければ、集団の基礎が崩れて行ってしまいます。