カイト・カフェ

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「学問と芸術は暇でないとできない」~私のアリアナ体験① 

 学問も芸術も暇でないとできない。
 40年あまりも仕事と家庭に夢中になって、
 新しい音楽や芸術に出会うこともなく過ごしてきた私は、
 ある日、とんでもなく意にかなう音楽と出会ったのだ。

という話。

f:id:kite-cafe:20201026062752j:plain(写真:フォトAC)

 

【学問と芸術は暇でないとできない】

 フランスの哲学者ルネ・デカルトは1649年10月、スウェーデン女王クリスティーナの求めに応じてストックホルムに移ります。高齢を理由に何度も断ったのですが、最後は女王が差し向けた軍艦に乗せられての、ほとんど拉致だったようです。
 翌1950年の1月から女王のための講義が始まるのですが、当時23歳のうら若き女王は大変な勉強家であるとともに優秀な政治家で、多忙のために進講は午前5時から始めるという無謀さでした。北欧の真冬の午前5時です。

 デカルトは暇に任せて学問をするタイプで朝も遅いのが普通でしたが、寝坊をしていると女王が寝室にやってきて、“大好きなルネ”のベッドに飛び込んで叩き起こしたというから大変です。おかげで2月になると風邪をひいて肺炎を起こし、そのまま亡くなってしまったのです。享年53歳でした。

 学問や芸術は基本的に暇に任せてやるものだと私は思っています。
 作曲家にも小説家にも有名な人であれば締め切りはありますが、たいていは緩やかなもので、ホテルに缶詰めにされてといった話は聞きますが、“納期が遅れたので別の人にお願いします”という話にはならないのが普通です。
 デカルトも興が乗れば深夜いくらでも研究を続け、おかげで朝寝坊ということもあったのでしょう。それをいかに相手が女王であっても、たたき起こされたのではたまりません。
 
 

【多忙で時代に取り残される】

 大げさな前置きをしましたが、私も学校の仕事が最もおもしろく家庭では子育てが一番忙しかった30代から40代くらいのころは、音楽にも美術にも文学にもほとんど触れることなく過ごしていました。もともとかなりの読書家だったのですが、文学以外に読んでおくべき本が山ほどあって詩だの小説だのといったわけにはいかなかったのです。

 特に流行の音楽などは、中高生くらいまでだと放っておいても友だちを通して情報が入ってきますが、大人になると面倒くさがらずコンサートに行くとか絶えずラジオを流しておくといった努力をしないと、あっという間に時代に遅れてしまいます。
 私について言えばボンジョビだのマドンナだの、あるいはマライア・キャリーだのといったあたりから遅れ始め、ビヨンセレディ・ガガテイラー・スウィフトジャスティン・ビーバーといった歌手は、名前は聞くもののどんな人なのかどんな曲を歌うのか、まったくわかりません。日本国内で言えば浜崎・安室、ミスチル・ドリカムあたりからです。もちろん知らなくても困りませんから、努力する気にもなれないのです。

 しかし良くしたもので定年退職をして第二の仕事も辞めてしまうと、音楽も自然と向こうから近づいてきます。
 
 

【Amazon Music】

 きっかけはアマゾン・プライムでした。
 ネット通販のアマゾン・プライムには最初、商品の送料がタダになるということで入会しました。利用回数の多い我が家では圧倒的に有利なのです。当時は年会費3800円だったと思いますが、現在は4900円です。

 会員になると多くの特典があります。映画がタダで見られるとか雑誌や本が読めるとか、あるいは写真を無制限にアップロードできるとか――。そしてそのひとつがAmazonMusicで、内外の200万曲を無料で聞くことができます。ただしそうは言っても新しいアルバムはすぐには入ってきませんし、“この曲を聴きたい”と思うとないことも多く、その場合は有料版(7000万曲)へ移行することになります。私は特にこだわりがないので、無料版のままです。

 AmazonPrimeでは音楽や映画をマホやコンピュータでの視聴するのは簡単ですが、テレビの大画面で同じことしようとすると特別な装置が必要になります。いくつか種類がありますが、私は“FireTVstick4K”というのを購入して、これで映画を観たり音楽を流したりしています。サウンド・スピーカーをテレビに外付けしているので、けっこう音がいいのです。

 そんなふうに機器を取りそろえ、曲のリストを選んでボタンを押せば、あとはエンドレスでBGMのように流しておくことができます。
 私は「映画音楽」だとか「70年代・80年代ロック」だとか、あるいは「ジャズ」「ジャズ・ボーカル」「ボサノバ」「フュージョン」等々、気分によっては「ケルト」なんてものを流すこともあります。

 ところがさすがに飽きてきて、そこで2カ月ほど前、気まぐれから「R&B(リズム・アンド・ブルース)」というリストを押してしまったのです。さして意味のある行為ではありませんでした。
 
 

【R&B(リズム・アンド・ブルース)】

 正直に言うと、リズム・アンド・ブルースの「リズム」はまだしも、「ブルース」の方はまったくわかっていません。たぶん理由のひとつは私たちの親の世代に「淡谷のり子」という様々な意味で怪物みたいな歌手がいて、彼女が「ブルースの女王」と呼ばれていたからです。独特のゆったりとした物憂い音楽で、英語圏には絶対にない音楽です。少なくとも私の知っている「リズム・アンド・ブルース」には欠片すらありません。

 高校時代に少しだけ聞きかじった「R&B」は、スティービー・ワンダーとかジェームス・ブラウンだとか、あるいはスタイリスティックスだとかアース・ウインド&ファイアーだとか、黒人が主体で、リズムでガンガン押してくる激しい音楽で、一部はソウル・ミュージックと呼ばれ、一部はダンス音楽として使われた――そんなジャンルです。
 マイケル・ジャクソンは「キング・オブ・ポップス(ポップスの王)」でしたが、子どものころお兄ちゃんたちとやっていたジャクソン5(ファイブ)は明らかにR&Bです。

 いずれにしろ当時は他方にサイモン&ガーファンクルとかレターメンといったコーラスの美しいポップスの歌い手がいて、ビートルズですら一部はロックではありませんでしたから、R&Bファンにはかなりマニアックな人々、泥臭い連中といった印象があって、私は容易に近づけなかったのです。

 しかし今回、AmazonMusicの「R&B」を聞いて根本的に考え方を改めさせられました。
 その契機となったのが、アリアナ・グランデの「7rings」でした。

(この稿、続く)