カイト・カフェ

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「歌詞も世界も全く違っている」~私のアリアナ体験②

 何という気もなしに聞き始めたアリアナ・グランデの「7rings」
 見始めたライブ映像。
 しかしじっくり向き合ったら、
 とてつもなく深い才能が、複雑に絡み合っていることが分かった。
 アメリカ恐るべし。

という話。

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(写真:フォトAC)

 

【7rings(七つの指輪)とMy favorite things(私の好きなもの)】

 アリアナ・グランデの「7rings」は、聞けばすぐにわかりますが、映画「サウンド・オブ・ミュージック」の挿入歌「私の好きなもの(My favorite things)」のアレンジ曲です。「My favorite things」はおそらく世界で最も多くアレンジされカヴァーされた曲のひとつで、ダイアナロスとシュープリームスの版もすてきですが、私は若いころからジョン・コルトレーンの「My favorite things」が好きで、機会があるたびに聞いていました。
 その名曲を、現在世界最高の歌姫、アリアナ・グランデが歌うのですから悪かろうはずがありません。
 
 

アリアナ・グランデ

 アリアナ・グランデを知ったのは、しかし彼女の歌からではなく、三年前にイギリスのマンチェスター・アリーナでのコンサートで起こった自爆テロのためです。
 犯人は会場内でテロを決行しようとしたらしいのですが中に入れず、コンサート終了後にロビーで手製爆弾を爆発させ、本人を含む死者23名、負傷者59名という大惨事を起こしたのです。翌日IS(イスラム・ステート)が犯行声明を出しましたが、詳細はいまだに分かっていません。

 次にアリアナの名前を聞いたのは昨年、「7rings」を含むアルバム「thank u, next」を発売したとき、「七つの指輪」にちなんで手のひらに「七輪」とタトゥーを入れて日本人ファンの失笑をかったときです。もちろん心ある失笑です。
 アリアナは日本びいきを公言しており、右腕に「千と千尋の神隠し」の千尋のイラストを、左肘の内側に「うたいましょう」とひらがなで、そしてさらにその上にポケモンイーブイのイラストを彫っているといいます。
 ちなみに「7rings」のプロモーション・ビデオの最初の場面は品川ナンバーの中古車でした。

アメリカの超人気歌手が日本びいきなんて、悪くないな」
とも思ったのですが、それでもこの時期、アリアナの曲を聴いてみようという気にはまったくなっていません。
 しかし他人が良いというものには何かしら良いところがあるものです。極端にマニアックなものだと好き嫌いが生れますが、特に人気の高く、広範なものにはたいていどこかに接点が見出せるはずです。
 時間があるならいちおう顔出ししておくべきでしょう。
 私はしませんでしたが。
 
 

【歌詞も世界も全く違っている】

 さて「7rings」の原曲が私の好きな「My favorite things」だと知ってからは、AmazonMusicのプレイ・リスト「R&B」のその部分に来るとちょっと耳をそばだてる気分で聴くようになったのですが、そのうち妙なことに気づいたのです。

 私は高校生のころ「My favorite things」を英語で歌えるようになりたくて練習したことがあります。結局、早口言葉のような歌の速さについて行けず泣く泣くあきらめたのですが、そのとき覚えた歌詞がまったく出てこないのです。
 一生懸命聞いても聞き取れたのは「My favorite things」の3語だけ。いかに英語が苦手とはいえ、覚えている歌詞と一か所しか符合しないなどということはありえません。
 そこで調べてみると、「7rings」は原曲と全くことなる歌詞だったのです。

 原曲の方は、
 バラを伝う雨だれ
 子猫のひげ
 輝く銅のやかんや
 温かいウールのミトン(ふたまたの手袋)
 紐で結ばれた茶色い小包

といったふうに子どもらしい他愛のないものを延々と並べ、最後のところで、
 犬に噛まれたとき
 蜂に刺されたとき
 悲しい気分のとき
 私の好きなものを浮かべるだけで、
 それほど悪い気分じゃなくなる。

と落とす子どもの歌です。

 ところがアリアナの「私の好きなもの」は、
 ティファニーでの朝食、シャンパ
 問題を起こすことが大好きなタトゥーを入れた女の子たち
 つけまつ毛にダイヤモンド そしてATMマシーン

です。
 お金だけでなくATMマシーン丸ごと欲しいとなると穏やかではありません。
 しかもそれらを、
 全部自分で買う
と言うのです。

「7rings」の主人公はかつて不幸な時期があったようで、警察のお世話になったり手首を傷つけることもあったらしいのですが、今は強くなり、とんでもなく豊かな生活ができるようになったみたいです。
 クローゼットにするために家を購入したりジェット機を買ったり――。

 歌の途中に入るラップ調の部分は、
 欲しいと思って、それを手に入れた
 欲しいと思って、手に入れた

の繰り返しです。
 
 

【生意気で、傲慢で、我儘な、寂しい娘】

 ネット上の感想を読むと、「7rings」は“ついに成功を勝ち取ったアリアナ・グランデの誇らしい雄叫びだ”といった読み解きをする人が多いようです。イタリア系アメリカ人の感性としは、その方が可能性が高いのかもしれません。

 しかし最後までこの調子でやられると、私としては、
「この娘、嘘ついているんじゃないか?」
という気がしてきます。
 ほんとうはそんな豊かな生活をしているわけではない。爆発的に豊かな生活を夢見て、けれど全然そんなふうにはなっておらず、表面的にはそれっぽく見せているけれど実はあまりにもかけ離れた生活をしている。それでいながら見栄を張るのもやめられない――そんな女の子の虚しい虚言の歌のような気もしてくるのです。

 あるいは、ほんとうに大金持ちになって欲しいものはすべて手に入れ、友だちすらも金で買って(6人の友だちにダイヤモンドの指輪を買って、自分の分と合わせて7個の指輪で結ばれた親友グループをつくった)なに不自由ない。しかし全く幸せではない、満たされない、虚しさが延々と続く、そんな女の子の歌にも思えるのです。
 深読みに過ぎるでしょうか?
 
 

アメリカ恐るべし】

「7rings」の歌詞はそんなふうに様々なことを考えさせる複雑なものです。
 巧みな曲づくり、ライブ映像から見て取れるステージバックの面白さ、洗練された振り付け、ダンサーたちの実力、そういうものも全部含めて、アメリカ音楽界の懐の深さに改めて驚かされた体験でした。
 アメリカ恐るべし。

 そしてアリアナ・グランデをさらに聴いていくと、私が子どものころからずっとこだわってきたあるものの存在に気づかされるのです。

(この稿、続く)