カイト・カフェ

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「自信崩壊:『いう(言う)』と『ゆう』」~日本人にも難しい日本語②

 Facebookの元教え子の日本語表記が気になる。
 「ゆう」は「いう」、「そうゆう」は「そういう」に、
 それぞれ書き換えるべきではないか――
 そう思って調べたら、とんでもない事実が判明した。
 という話。
(写真:フォトAC)

【四半世紀前の教え子にいうべきか】

 10数年前Twitterを始めとするSNSの興隆に乗り遅れまいと、片っぱしアカウントを取ったのですが、現在、日常的に稼働しているのはLINEくらいのもの。X(旧Twitter)やFacebookYoutubeはほぼ毎日開きますが、投稿することは稀。Youtubeとインスタに至っては登録時に動画や画像を上げただけで、以後、自分から発信することはなくなっています。撮影ということにはまったく興味も自信もないのです。
 
 本名で運営しているのはFacebookのみ。投稿の公開は「友人まで」としてありますから、ごく内輪で近況報告をやっている感じです。齢が齢なので実際の「友だち」や先輩にFacebookをやっている人は少なく、必然的に「友達」元教え子の比率が高くなっています。10数年前は独身で、夜の時間を持て余していた子も多かったのです。
 
 そんな教え子の中のひとり、多忙な中でも精力的に更新を続けている子がいます。
 気持ちは分かります。表現欲に駆られてどんなに忙しい時も更新し続けるというのは、現役のころの私も同じでした。ただしその子の写真は私など足元にも及ばないほどうまく、文章もうまい。忙中閑ありで仕事以外の生活の基礎に芸術があり、音楽を愛し、美術を楽しみ、美しい自然や事物に心惹かれ、そうしたものに触れてはエッセイのように更新してくるのです。子どものころもいい子でしたが、おとなになってもいい子に恵まれたと、内心とても喜んでいました。唯一のことを除いて――。
 
 それはこの子が「いう」(動詞)と書くべきところで「ゆう」を使うという点です。動詞の「いう(言う)」も連体詞の「そういう」も、いずれの場合も「ゆう」「そうゆう」と書く、それが私の言語感覚にいちいち引っかかります。

【「いう」と「ゆう」】

 「いう(言う)」も「そういう」も、決して「ゆう」「そうゆう」と同じではありません。「ゆう」は極めて口語的で、おそらく歴史も新しい――。なぜそう思うのかというと、「いう」には活用形があって、
「いわ(ない)・いえ(ば)、いう、いう(とき)、いえ(ば)、いえ」
と揃うのに、「ゆう」を無理に活用させれば、
「ゆわ(ない)、ゆえ(ば)、ゆう、ゆう(とき)、ゆえ(ば)、ゆえ」
と、まるで髪結いさんと話しているみたいな感じになってしまいます。命令形なんて「言え」という意味で「ゆえ」使ったら、髪が結われてしまったということになりかねません。

 それにそもそも「いう」を「ゆう」と発音すること自体が間違っていて、極力「いう(iu)」に近づけて発音するべきだ、と私は思っていたのです。
 そこで説得力を持たせるため、NHK放送研究所のサイトに行って『「言う」の発音は[イウ]か[ユー]か』というページをみたら、こんなふうに書いてありました。
『終止形と連体形の場合、ひらがな表記は「いう」ですが、発音は[ユー]です』
 え? 発音は〔ユー〕?
 しかも続けて、
「活用した場合の発音は[イワナイ、イイマス、ユー、ユートキ、イエバ、イエ]となります」
 オイ!

【自分でやってみた】

 そこで改めて発音してみると、例えば「また、そういうことを言う!」の「そういう」も「言う!」も私は「イウ」と発音しています。少し訛った感じで「ユウ」に近づいた印象はありますが「ユウ」ではありませんしましてや「ユー」だなんてことはあるはずがないのです。

 次に同じ文章をメモにして妻に読ませると、彼女は、
「また、そうユーことをイウ!」
と、面倒くさい差をつけて発音してみせます。私が「イウ」を指摘すると、
「あら、そう?」
とか言ってもう一度文を読むのですが、意識して読んだせいか今度は両方とも「ユー」になってしまいます。
 よくわかりませんが、微妙なことだけは確かなようです。

【自信崩壊】

 NHKによれば、
『ひらがな表記は「いう」です』

とありますから、とりあえずは私が正しく元教え子が間違っているということにしてもらいましょう。しかし彼女が意図的に「ゆう」を使っている可能性があり、もしかしたら個性として打ち出しているのかもしれません。どう読んでもその部分だけが異質なので、可能性としてはないわけではありません。私も他のひとなら「・・・」とするところを、あまりにも思わせぶりが強い感じがして嫌で、わざと一般的でない「――」を使おうとします。それが私のこだわりですから、似たような意味で彼女が「ゆう」を使っているとしたら、私が引き下がらざるを得ません。したがってこの部分は「判定ナシ」ということになります。

 発音は[ユー]ですは、実際に「イウ」と発音している人間からすると決して承服できるものではありません。しかし天下のNHKが言っている以上、少なくとも日本人の大多数は「ユー」と発音しているのでしょう。だとしたら私の負けということになるのでしょうか?
 
 そう思ったらあちこち自信がなくなってきて、そちこちが不安になってきたりします。
 例えば「いい子」と「よい子」、どう使い分けるのでしょう。「いく(行く)」と「ゆく」。何が違ってどう使い分けたらいいのでしょう。
 もう三途の川が見えそうな今になって、そんなことがとても気になってきたおんです。
(この稿、続く)