いずれも私たちの想像を越えるもので、実際に始めて見ないと分からないことばかりだ。
やはり新しい教育のやり方は諸外国で試してもらい、成果は我が国で、
それでいいじゃないかと思うのだが――、
という話。
(写真:フォトAC)
【学校も教員も臆病でいい】
前々から申し上げていますが、学校教育というのは常に大胆で先進的なものであっては、いけないと思っています。
教師や学校にとってはどんな失敗も間違いもすべて将来への糧となりますが、子どもの方はかないません。その子にとってそれぞれの学年、それぞれの1日、それぞれの単元は一回こっきりのものであってやり直しが利かないのです。もちろんまったく不可能と言うわけではありませんが、スポーツでよく言う「変な癖」をつけてしまってから直すのは、真っ白なキャンバスに絵を描くよりはるかに難しいことなのです。
ですから学校教育において何か新しいことを始めるとき、教師は常に及び腰になって、一歩一歩瀬を踏むようにおずおずと進んでいくのです。それを臆病とか怯懦とか言うのは、自分のために誰かを犠牲にする恐ろしさを知らない人たちです。
【オンライン学習ならでは問題が起こっているらしい】
先週の韓国革新系新聞(ということは政権寄り)の「ハンギョレ」にこんな記事が出ていました。
japan.hani.co.kr どんな話かというと、取っ掛かりは、オンライン授業で生徒に課題を提出させたら、アダルトビデオの映像が送られてきたという事件です。宿題の提出ですからもちろん犯人ははっきりしていて、その子は校内奉仕、特別教育の処分を受けたそうですが、こんなことはオンライン授業後進国の日本では起こりえません。電話がなければ特殊詐欺の大部分なくなってしまうように、オンライン授業の問題性も経験を重ねなければ浮かび上がってこないのです。韓国のようにインフラが整備され、かなりの授業がオンラインで行われて初めて分かることです。
もちろん前述のような「犯人が見え見え」の事件は簡単には起きないでしょう。しかし次の、
生徒がオンライン授業のリンクとパスワードを流出させ続け、部外者が授業に入ってきてわいせつ行為をする事件が発生した。
は深刻です。一度流失したリンクやパスワードは、いつ、だれが、どのように悪用するか分からないからです。
教師が授業を始めようとコンピュータを開いたら、見知らぬ生徒が何人もお面をかぶって座っていてわいせつ画像を示している、そんなふうではかないません。
もちろん大多数の子どもはきちんとリンクやID・パスワードを管理すると思いますが、日本は1万人にひとりという稀有な愚か者が12600人もいる国です。そのうちの誰かひとりが不用意に、あるいは意図的に情報を流出させれば、稀有なことであっても被害は甚大です。
三番目の事例、
授業画面をキャプチャして他のチャットルームで共有し、教師に対する性的発言を行ってもいる。
となると、これはもう明らかな犯罪です。
もちろん教師の顔写真などはオンライン授業がなくても集められますが、授業風景からキャプチャリングする手軽さを考えれば、現在はまだまだ抑制が効いているとも言えます。
【教権侵害という概念】
ところで、ハンギョレの今回の記事には「教権侵害」という聞きなれない言葉が出て来ます。
「教権」を調べると「教師が学生・生徒に対してもつ権力」のことだそうで、それ自体は分かるのですが「侵害」とセットになるとピンときません。「侵害」と相性の良いのは「権利」であって「権力」ではないからです。
どうやら韓国には「教師のもつ権力は侵したり害したりしてはいけない」という考え方があるようです。だから、
処罰のみに焦点を当てた対策を繰り返しているから、このような教権侵害行為が根絶されないのだという指摘も出ている。
といった表現も出てくるのです。
そこには儒教的な考え方が背景にあるのでしょうが、私は少し羨ましく思いました。
日本だったらまだうら若い女性教師のもとにわいせつ画像が送られてきても、問題はシステムの脆弱性に気づかなかった学校や、きちんと生徒を指導してこなかった、あるいは生徒との間に十分な信頼関係を構築できなかった女性教師本人にあると考えられがちだからです。
日本の場合、子どもは同じ子どもを餌食にしない限り、どこまで行っても純粋で無垢な存在です。嗚呼!
【テストは外国で、成果は国内で】
横道にそれました。
教育評論家の親野智可等氏によると、韓国以外にフランス・アメリカ・シンガポールといったところがオンライン学習の先進国だそうです。
toyokeizai.net ほんとうかどうか知りませんが、事実だとしたら、まずそうした国に経験を積んでもらい、十分に効果と安全性を検証してもらってから我が国で行うというのはどうでしょう。医薬品や治療法、いくつかの科学技術についてはいつもそうしてきたはずです。
オンライン学習だって同じでいいと思うのですが、それでも日本が先んじてやらなくてはならないとしたら、そのわけを知りたいものです。