フランス人は走ってから考え、
ドイツ人は考えてから走り出す。
イギリス人は歩きながら考える。
と覚えていたエスニック・ジョークが実はそうでなかったという話でした。
正しくは、
イギリス人は歩きながら考える。
フランス人は考えた後で走りだす。
そしてスペイン人は走ってしまった後で考える
だそうです。
しかしなぜそんな間違いをしたのか。
【「ものの見方について」】
これが有名になったのはジャーナリストの笠信太郎の「ものの見方について 西欧になにを学ぶか」( 河出書房 1950 のち角川文庫、朝日文庫)の冒頭で使われたためのようです。
もっともこの譬え自体は笠のオリジナルではなく、スペインの外交官マドリヤーガが言い出したもので、それをの笠が引用したのです。どうりでスペインなどという私たちには馴染みのない国が出てくるわけです。
さらに“ドイツ人についての言及があったはずだ”という私の記憶も間違いではなく、冒頭のエスニック・ジョークに続いて笠はこんなふうに書いています。
……という小話がある。歩きながら考えるということは、実行と思想が離ればなれにならず、平行しているということである。ドイツ人は考えた後で歩き出し,歩き出したら考えない。
ちょっと自信が出て来ました。
【教科書にあった!】
そうなると「中学生の時に教科書で……」というのも案外間違いないのかもしれません。 そう思って調べると、以前には探せなかったものが簡単に出て来ます。 自信を持つって大切ですね。
昭和28年(1953年)版 光村出版「総合中学国語」三年上に笠信太郎の「イギリスの知恵」というのがあり、昭和37年(1962年)版 光村出版「中等新国語 2」にも「歩きながら考える」があります。
やはり「中学校の国語の教科書」で間違いなかったのです。
ただし文庫本で224ページに及ぶ「ものの見方について 西欧になにを学ぶか」がそのまま入っているわけはなく、おそらくそれを下敷きに、笠自身が教科書用に書き下ろしたのなのでしょう。だから題名も違いますし中学生だった私にも理解できたのです。
さらにそうなると、もしかしたら“スペイン人はいなかったはずだ”とか“フランス人は走ったあとで考えたはずだ”とかいった記憶も正しいのかもしれません。
笠が書き下ろした際にそのように変更を加えた可能性がある――。
昭和37年(1962年)版 光村出版「中等新国語 2」、東京書籍株式会社附設 教科書図書館「東書文庫」で閲覧できるみたいですので、機会があったら是非確認してみたいところです。
昨日のことは忘れていても50年前の記憶はしっかりしている、それが私たち老人に端的な特徴です。