カイト・カフェ

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「誰が走ってから考えたのか」~歩きながら考える①

 各国のステレオタイプ化した民族性を前提につくられるジョークをエスニック・ジョークと言うそうです。
 私が一番好きなのは、
タイタニック遭難のような状況で、各国男性に救命ボートを諦め、船に残ってもらうための一言。
 イギリス人には「紳士はそうするものです」
 ドイツ人には「規則でそうなっています」
 アメリカ人に「ヒーローになれるぞ!」
 イタリア人に「女にモテるぞ!」
 そして日本人には、「みな様、そうしておられます」

 これについてはむかし書いたことがあるので(「みな様、そうしておられます」 - カイト・カフェ)合わせて読んでいただければありがたいのですが今日は別の話。

【イギリス人は歩きながら考える】

 フランス人は走ってから考え、
 ドイツ人は考えてから走り出す。
 イギリス人は歩きながら考える。

 このジョークをどこで覚えたかというと、自分が中学生だった頃の国語の教科書にあったのです。
 教科書という固いものの中に、これまた粋な文章が入っていたものだと、今さらながら感心するわけですが、実はこの文章、冒頭のエスニック・ジョーク以外なにも覚えていない――
「『イギリス人は歩きながら考える』と言うが・・・」といった具合に続いて日本人論になったのか、ヨーロッパの文化論だったのか、どう頭を捻っても浮かんでこないのです。

 ただし当時の私の頭の中には、
「そうだよな、フランス革命なんてまず走っちゃってから『始末をどうしよう』と考えているうちに恐怖政治が始まって結局ナポレオンの手を借りるしかなかったんだものな」とか、
「ワイマール憲法のあとのヒトラーのドイツなんて、走り出したら止まらなかったもんな」
とか、そんなことが浮かんでけっこう納得していたような気がします。

 ただし「イギリス人は歩きながら考える」に対応する事実が浮かばず、
「要するにこの話はイギリス人が考えたんだ。高慢な英国人らしいや」
と、そんなふうに心に収めたのかもしれません。

 ところが最近、唐突にこの話を思い出して首を傾げてしまったのです。

【誰が走ってから考えたのか】

 考えてみるとそもそも中学生にエスニック・ジョークは難しすぎます。
 現在の中学生だってたぶん、フランス人とイギリス人の違いなんて分からない。
 それがテレビのチャンネルも少なくインターネットもなく、外国人に会う機会もほとんどなかった50年前の私に分かるはずがない。また当時、相当に高慢で知ったかぶりのウンチク少年だった私といえど、フランス革命ナチスドイツに十分な知識があったはずもない――。

 そこで検索にかけて調べるてみることにしました。するとさまざまなことが分かってきたのです。

 例えば、
 私のように「中学か高校の教科書で習ったはずだ」と信じている人がたくさんいること、
 しかしそのいずれもが断定的な発言をしていないこと、つまり中学だったか高校だったか思い出せない人ばかりだということ、

 そして何よりも驚いたのは、出て来る国がフランス・ドイツ・イギリスではなく(この三か国にスペイン・イタリアを加えて5か国にしている場合もあるが)、イギリス・フランス・スペインが原則だということです。
 しかもフランス人は「走ってから考える」のではなく、「考えたあとで走り出す」(ホントかな?)。

 なぜそんなことになったのでしょう?

(この稿、続く)