カイト・カフェ

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「見たくないものを、見せつける人」~2019年春の蓋棺録1

 春休みに二人の芸能人の訃報に接した
 良きにつけ悪しきにつけ
 私には多少のこだわりのある人だ
 冥福を祈りながら
 少しそのことを考えてみたい

という話。

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 【二つの訃報】

 学校に合わせて春休みをとっていた3月末に、ふたりの芸能人の訃報が届きました。

ひとりはショーケンこと萩原健一さん。そしてもうひとりはチャコちゃんこと声優の白石冬美さんです。とも3月26日の出来事でした。

 とりあえずそれをどう受け止めたかというと、シブがき隊の本木雅弘君だとかチェッカーズ藤井フミヤ君だとか、あるいはTOKIOの長瀬君、EXILEのATSUSHI君といったそれぞれの年代を代表するアイドルが、“70歳近くになって病気で死んだ”、そんな構図を思い浮かべてみるとすべての世代の人に理解してもらえるかもしれません。

 要するに世代の代表者の、最初のひとりが亡くなることで、今後あの人たちが順次消えていくかもしれないと予告された出来事であり、ひとつの時代の完全な終わりの始まりであり、市井の私たちにとってもその終焉の始まりでもあり、栄枯盛衰を思わせるものでもある、そんな感じです。

 ただしショーケンに関して言えば――私はこの人が全く好きではありませんでした。むしろ嫌いなくらいで、だからこそ心の片隅にトゲのように引っかかってズキズキと離れない、そんな感じだったのです。

【ザ・テンプターズとGSブーム】

 一世を風靡したあのグループサウンズ(GS)の中からショーケンは出てきました。
 いま改めて調べてみて驚くのですが、グループサウンズと呼ばれる演奏法またはグループのブームは1967年から69年にかけて、足掛け三年、実質的にはわずか二年しかありませんでした。

 ショーケンブルーコメッツ、ザ・スパイダーズといった巨星に続いて出てきた、三つの人気グループのひとつザ・テンプターズ(あとの二つはザ・タイガースとオックス)のリードボーカルで、最初から何か下町の鉄のにおいのする男でした。

 ブルーコメッツはおしゃれな紳士、ザ・スパイダーズはお坊ちゃま、ザ・タイガースは今で言えば佐藤健のような美少年に率いられたスーパー軍団といった中にあって、ザ・テンプターズはなんとも捉えようのないグループでした。

 そもそもザ・テンプターズという名前自体が(ほんとうは悪魔という意味らしいのですが)当時人気のお笑いトリオ「テンプクトリオ」に重なってしまい、ショーケンのハスキーボイスはよかったのですが歌う曲は「神様お願い!」だの「おかあさん」だの「純愛」だの。大ヒットした「エメラルドの伝説」はまだしも、これでは「日本昔話」か演歌です。

 これがストーンズやアニマルズに憧れて結成されたグループの曲か? ビートルズの影響はどうなった?――結局それがグループサウンズの長続きしなかった最大の理由でした。当時の芸能界はリズム&ブルースだとかロックンロールなどまったく好きではなかったのです。日本では商売にならないと思っていました。
 だから作詞家になかにし礼を起用したり、作曲家にすぎやまこういちを持ってきたりしたのです。当代きっての人気作家たちです。そして普通の歌謡曲になってしまった。

 いわゆる“芸能界”に飲み込まれると自分たちの望むことはまったくできない、それどころかとんでもないところに連れて行かれる――それは重い教訓で、以後、70年代の吉田拓郎とかサ・ザンオールスターズ、松任谷由実といった人々は次第に距離を置くようになっていきます。

ショーケン

 グループサウンズ・ブームの終わった後、しばらくしてショーケンは演劇の世界に足を踏み入れ、そこで大成功します。
太陽にほえろ!」「傷だらけの天使」「前略お袋様」と立て続けにヒットドラマに出演し、映画でも「青春の蹉跌」や「恋文」でキネマ旬報や日本アカデミーの最優秀男優賞を受賞したりしています。

 今回の訃報に際して、マスコミ各誌・各番組はその業績をまとめて紹介していましたが、俳優としてのショーケンの評判はとんでもなく優れたものです。追悼記事・番組だというゲタの部分を差っ引いても異常に高い評価を得て何を読んでも何を見ても、天才の誉れ高いといった感じです。

 私は嫌いなくせになぜか彼の作品はよく見ていて、しかし最後までその良さは分かりませんでした。演技というよりも、普通の人は封印して外に出さない素の姿を、平気で曝して恥じない人、そんな感じがしていたのです。
 もちろんそれができるからこそ“天才”の名をほしいままにしたのかもしれませんが、私はそういうことにも我慢ができないらしいのです。

 

【二つの顔】

 一方で演技者として“天才”と呼ばれたショーケンですが、他方であだ名されたのは“芸能界の野獣”“暴れん坊”といったもうひとつの側面です。

 往年の勝新太郎と並び称されるように、演技への異常なこだわりがありました。
 勝はリアリティを追求するあまり「こんなに遠くからの映像なのに声がはっきり聞こえるはずがない」といって音声を絞ったために物語の流れを分からなくしてしまったり、その影響を受けた息子が撮影所に真剣を持ち込んで、それで切られ役の役者を実際に殺してしまうといった事件も起こしたりしました。
 ショーケンも現場で気に入らないことがあれば先輩であろうが後輩であろうが平気で怒鳴り飛ばし、濡れ場では若い女優を平気で犯したりもしていました。怒鳴られて俳優を辞めた人もいれば、泣きながら相手をしなくてはならなかった女優もいました。
 共演の女性には必ずと言って手を出し――4度の結婚と4回の逮捕。

 それでも芸能界で生きて来られたのはそこに才能があったからです。私がショーケンを嫌いな理由もそこにあります。
 才能さえあれば、金にさえなれば、どんな不行跡も犯罪も許されるのかということです。

【見たくないものを見せつける人】

 今の芸能界を見ると、かつて薬物や暴力で逮捕されたり送検された人がかなりいることに気づきます。もちろんそれきり消えた人も少なくありません。

 芸能界に戻れた人とそうでない人との差は何か――もちろんそれは先ほど言った「才能があり、芸能界を潤す力があるかどうか」です。
 春休みの直前に逮捕されたピエール瀧が今後試されるのも、後悔や反省の深さではなく、歌手・俳優としての力量、芸能界を設けさせる真の力の有無ということになります。

 芸能界という子どもの目につきやすい世界で公然と行われているそうした不正――その象徴的な人物がショーケンで、それだけにいつも心の隅にトゲのように引っかかっていたのですが、すでに鬼籍に入った人です。私もしばらく目を離しましょう。

 

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